で、ロードショーでは、どうでしょう? 第354回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ヴァンパイア』
岩井俊二、久々の長編実写劇映画。
萩尾望都のすまし汁のようなテイスト。
死という目的については能動的で、生活の目的が受動的な物語。
タイトルでとらわれるちゃうけど、どうも、吸血鬼というモンスターを映画いた映画ではない。
強迫観念についての映画だといえる。
吸血鬼にとらわれることとは?
殺人鬼にとらわれることとは?
自殺にとらわれることとは?
強烈な、それしかないという道にとらわれる人々を描く。
監督・プロデュース・脚本・撮影・編集・音楽は岩井俊二。
出演は、ケヴィン・ゼガーズ、ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、蒼井優、アデレイド・クレメンス、トレヴァー・モーガン、アマンダ・プラマー、クリスティン・クルック、レイチェル・リー・クック。
見目麗しい人々が変態と狂気と耽美を実践していく。
バカ正直に、真っ直ぐな自主映画。
岩井俊二は60〜80年代の少女漫画の実写映画化を下地にしていると思っているのだが、それを突き詰めた時、20世紀末のムードという問題にぶつかったんではないかと思う。
20世紀末の後遺症なのかもしれない。
21世紀はまだはじまっていないかのようだが、これは、コンセプトはそこそこ前の作品らしいので、今の岩井俊二の目には現代が打つているのは、活動内容を見ても明らか。
死なない者の逆転の価値観で、憧れの死。
退屈さを耽美で言い訳しているようにも見えるが、時折その言い訳に許された長いシーンにおける美しいカットに時が止まる。
おまけ。
最初の客は忘れない。
映画はどこを忘れないだろう?
だから、映画は最初に戻る。
吸血鬼と映画は類似している。
どちらも、光の下では生きられない。
もっとも、ソフトで見られるようになってから、映画は光の下に引きずり出されたし、光の下で活動する吸血鬼も最近は多くなった。
その進化と適応と、失われたノスタルジー。
古典は、もう冗談にしかならないのであれば、現代のスタイルで、その儚さを示すためにはどうするか?
その取り組みがこの映画にはわずかながら見られる。