『コオドリする』
かまぼこのような月、街のネオンを映した青い雲。
遠くで車の音、電気で機械が震える音。
人気のない公園、ぽつんぽつんとした灯り。
買い物帰りの恋人同士が、ベンチに腰かけている。
かしこまった紙袋をお供している。
彼女は、袋から、買い物した物を一つ出して言う。
「ほらさ、嬉しいときに小踊りするって言うじゃない」
彼氏は、答える。
「言うね」
「うん、小踊りって言うぐらいだから、小さい踊り、ちょっとした踊りってことよね」
「そうだろうね」
「たぶん、踊りになってない思わず出ちゃった動きみたいなものってことなのかしら?」
「子供みたいに踊っちゃうってことかもよ」
「ああ、子供踊りで、子踊りってこと」
「どんなだろうね」
「あ、こんなんとか?」
彼女は、両腕を半分くらい上げたバンザイで左右にヒラヒラ振り、喜んだような動きをする。
淡々と抑揚なく言う。
「いやぁほぉーい」
「なるほど」
「ね、あなたもないの?喜んだときとかさ」
「・・・スキップとか?」
「ああ、スキップね。喜んだ時しそうね、スキップ」
「スキップのときさ、手ってどうしてる?」
「・・・腰、じゃない?」
「振らない?」
「ん、待って!」
彼女は、立ち上がり、真顔でスキップをやってみる。
歩くように腕を前後に振る。
彼氏は、うなづく。
「ほほぉ」
彼氏は、自分で確かめながら言う。
「お、意外と歩くときと同じ感じで振るね」
「想像とやってみるのでは、やっぱ違うもんだね」
「じゃ、あなたも」
「は?」
「ほら、口で言うのと頭じゃ違うし、個人個人で違うかも」
「いやぁ、オレはいいや」
「ね、いいから、やるの」
「はいはい」
彼氏は、立ち上がり、真顔でスキップする。
足にあわせて、リズムを取って前後に腕を振る。
「確かに違う。オレって、独特な感じで振るね」
彼女は。少し冷静に言う。
「いや、それスキップじゃない」
「え?」
「それ、スキップの出来損ない。というかツーステップに近い」
「ちょっと、スキップやって見せてよ」
彼女は、立ち上がり、スキップをする。
「ね、スキップはこう。ちなみに、ツーステップはこう」
彼氏は、それを見ながら、スキップの出来損ないをする。
「出来てない?」
彼女は、それを見ながら、スキップをする。
「ほーら、違う。こう」
かまぼこのような月、街のネオンを映した青い雲。
遠くで車の音、電気で機械が震える音。
人気のない公園、ぽつんぽつんとした灯り。
ベンチの前で、スキップする二人の男女。
彼女は、スキップしながら、彼氏に言う。
「あら、スキップもおできにならないの!」
「くっ!」
彼女は、スキップで逃げる。
「ほら、スキップで追いかけてらっしゃい」
「あ、待て、くぅ」
彼氏は、スキップで追う。
荷物がベンチに置きっぱなし。
彼氏が、走って戻ってきて、荷物を持って、再び、追いかける。
律儀に、出来損ないスキップで。
追いかける彼氏の目に映るのは、スキップで逃げる彼女。
その姿、まさに小踊り。
解説:
これも、『空のチューブ』同様に、短編映画用に書いた小説です。
これで、4本をここに掲載したわけです。
あと1本あります。
まぁ、もう1本なんで、おつきあいを。
これは、何か浮かばないかと夜の街を歩きながら、考えていた時に浮かんだのでした。
歩きながら、実際に手をヒラヒラとさせたり、スキップをしたりしながら、帰ったのでした。
深夜に仕事で煮焦げてくると、こういうのをつららっと現実逃避のように書きます。
で、のちに見直して、夜の頭は素面の酔っ払いだな、とか思い、一人で恥ずかしくなるのです。
そう、いわば、コレは、恥ずかしさのおすそ分けです。
そうそう、先日、『空のチューブ』オーディオノベルの収録に立ち合わせていただきました。
偶然、母校の録音スタジオでの収録でした。
仕事で訪れる学校というのは、なんとも感慨深いものがありました。
『空のチューブ』のネット配信は、5月頃を予定しているそうです。
なんとか、5月中には映画版もお届けできればと考えております。
乞うご期待。