菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

背の高い、黒髪の方との出会いがあるでしょう。 『恋のロンドン狂騒曲』

2012年12月16日 00時00分48秒 | 映画(公開映画)
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第370回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『恋のロンドン狂騒曲』












ウディ・アレンの新作ではあるが、公開が遅れたので、実は、一昨年の作品。

タイトル通り、ロンドンを舞台に恋をめぐる悲喜劇が描かれるが、その裏には、シェイクスピアへの目配せがある。

開巻のナレーションで、「シェイクスピアは言った、人生はから騒ぎ、だと」から始まるのだが、それが言われているのは、『マクベス』という悲劇。
だが、『から騒ぎ』という劇もあり、こちらは群像ラブコメディ。


ちなみに、下の英語は「Shakespeare said, life was full of sound and fury, and in the end, signified nothing」で、「シェイクスピア曰く、人生なんて、騒々しさと怒りに終始して、大して意味はない」となる。


原題の『YOU WILL MEET A TALL DARK STRANGER』は、訳すと『背の高い、黒髪の方との出会いがあるでしょう』という占いの恋の出会いを示す文句のようだが、死神であるとも映画内で言及される。
すなわち、あるyるうことに、「悪いことはつきもの」だと言っているので、映画でも、それを踏まえた物語展開がされる。
ただ、自分にとっての悪いことが相手にとって悪いこととは限らないので、視点を変えるといいことになったりもする、その皮肉。
そう分かっていても、後味の悪さが少し強いかしらね。


「近ければ悲劇、遠ければ喜劇」とも言われるように、悲劇と喜劇は紙一重。
それをまんまえいがいた作品がウディ・アレンにはある。
『メリンダとメリンダ』で同じプロットを悲劇と喜劇で二部構成で描いた映画。

そして、『恋のロンドン狂騒曲』は、多くのエピソードが喜劇で始まり、悲劇終わるという体裁で語られる。
だが、その悲劇もまた遠くから見れば、喜劇であるとも言えるし、喜劇も悲劇で終わることを知っていれば悲劇であると考えさせてしまう。

とても、難しい語りに挑戦しているのだが、つまり、人が生まれるときは喜びであり、死ぬときは悲しい。
人生とは喜劇であ始まり、悲劇終わる。つまり、あらゆる人生の物語とは、これしかないのだから、まぁあまり気にすんなよ、という達観を味わえるのはさすが。

正論のあまりの鋭さにその居心地の悪さもこみで、語りの魔術師の至高の芸を楽しめる。
というか、楽しめる人は、よほど鍛えられた人だと思う。



撮影のヴィルモス・ジグモントは、ウディ・アレンには珍しくフォーカスワークを用いることで、表情にタッチをつけている。




出演は、いつもながらの芸達者ぞろいで、アンソニー・ホプキンス、ジェマ・ジョーンズ、ナオミ・ワッツ、ジョッシュ・ブローリン、アントニオ・バンデラスがメインを飾る。

これに、ミューズとして、フリーダ・ピントが半を添えるかと思えば、こういうキャストは本当にありがたいと思わせる、ルーシー・パンチの強烈な娼婦役にのけぞり、ポーリーン・コリンズのいかがわしさと、ロジャー・アシュトン=グリフィスの奇妙な朴訥さが物語を豊かにしている。



ウディ・アレンにとってのロンドンは雨が降り、悲劇と喜劇の境目がない場所だった。
ゆえに、ロンドンでの喜劇は全て切れがなかったが、悲喜劇の痛みはとても強く、サスペンスの緊張感が冴えていたようだ。
スペインでは恋の花が乱れ咲き、パリでは恋と創作のバランスが華やかさを醸し出した。

新作もすでに撮り終わり、次の新作の準備中という。
しかも、どちらも久々にアメリカが舞台のようだ。
アメリカでは、何が出てくるか不明だから、楽しみだなぁ。



長生きの家系だというウディ・アレンの映画を毎年楽しめる、これだけでも十分喜びであり、すなわち、それはすべて喜劇でもある。
そして、いづれ来るお別れにはやはり悲劇を感じるんだろうなぁ。
で、ウディ・アレンのことだ、遺作が日本ぐらい取り上げた状態でお別れするんじゃないかな。
その時に観られるのは、喜劇か悲劇か?

そんなことさえ、楽しみだったりするのです。







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