菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

その包帯を、傷に巻くのか、拳に巻くのか?  『BANDAGE バンデイジ』

2010年01月30日 00時00分29秒 | 映画(公開映画)
 
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第101回。



「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『BANDAGE バンデイジ』






邦画では数少ない、聴かせる映画。

懐かしき90年代のバンド・ブームを描き方は、さすがにその場にいた人とはいえ、堂にいっている。
ワンシーンワンカットに近い演出は、役者の良さがあいまって、空気感をしっかりととらえていて、見事。

役者、特に北乃きいの良さが際立つ。
赤西仁も、最初のカリスマがじょじょに剥がれ落ちていく感じは、見事。
ただ、時折、そのキャラクターに埋もれてしまい、人間の顔が見えないのは、仕方ないことか。
役者陣のほとんどが、必要な空気を表現している。
金子ノブヨシ、財津和夫のミュージシャン組も違和感なく交じっているし。
高良健吾、柴本幸は、カリスマさえ感じさせている。
ただ、マンガ的記号が勝ちすぎるときもあるけど、まぁそこは描く気が無いのだろうね。
そのせいで、普段の巧者が窮屈にしているのが見えるのもあったのは惜しいんだが。
役者のアンサンブルに化学反応が起きていて、相性の良さは映画のファンタジーを成立させている。
 
 
そもそもが、少女マンガのような語り口で、少女の目から見た狭い世界で物事が描かれるので、社会的な要素がほとんど省かれており、荒が出ずらいのは、巧い。
岩井俊二の日常的なセリフは、役者陣の好演もあいまって、素晴らしい。
それは、邦画では、出色の出来ともいえる。
その平坦さや敬語の入れ方、関係性が一セリフごとに入れ替わるのは、その耳とセンスの賜物だろう。
 

物語は、日常の写生でシークエンスを構成しているので、物語を追うというよりは、キャラクターとその関係性を楽しませる。
だが、時折、非常に陳腐なシーンが現れたり、カメラの都合が見え隠れしてしまうのは、残念。
ああいう気が使えないのは、邦画の特長とも言える。
観客を実はないがしろにしていることに気づかないのだろうな。


シーンのセリフでカットするリズムが、耳の良さが際立っていて、非常にセンスが良い。
あれは、かなり難しいんだよなぁ。

音楽映画では当たり前なのだが、音楽が時代と物語を語っている。
時代を彩った流行歌は流れないが、少々の既成曲と、オリジナルで聞かせる。
そのダサさも含めての雰囲気のつかみ方はさすが。
 
そういうわけで、セリフ、音楽、編集と、耳の良さが、映画全体を貫いている。
これは多くの邦画が苦手としているところ。
全体的にそれを透徹出来ている作品には、なかなか会えない。
古典作品にはあるが、保存の悪さで、たいてい満足できることは少ない。



あと、現実的描写を手法としながら、どこかにロマンティックな憧れと、こうだったらよかったのにという理想の姿が描かれているので、これに乗れれば、楽しめる。
音楽ってカッコよい、というのをテーマの一つに掲げていたそうだから、その部分では少ししくじっている気もする。
だが、これは男性には辛い方もいるかと思う。
岩井俊二作品には、飲まれてしまう映像があったが、今作は臨場感はあり、キレイだが、美しさまで届いていないのが、物語から我に帰らせてしまうのよね。
唐突なガタツキといった手持ちカメラのちょっとした弱点が見えたりする。
あと、カメラのための都合よき演出が散見して残念。
いろいろな点で冷静さが現れてしまうのは、カメラマンの個性か、レッドワン・カメラの特徴が顕在化したか?
 
 


映画の中で、「俺たちがやってるのはロックだ」「ポップだろ」というやりとりがある。
これはこの映画が抱えている題材の一端をとらえさせる。
たぶん、ロックな精神で取り組んではいても、描こうとする現実がポップなんだろう。
そうでなければ、日本では受け入れられないのかもしれない。
それは生き延びる。続いていく生活と同じように。

ロックは壊し、壊れるものだと強く言い切りたい。
だから、死ぬし、殺される。
ゆえに、ロック・イズ・デッド、パンク・イズ・デッドとわざわざ言わなえばならない。
だからこそ、逆説的に、「生き延びろ!」と叫んだ『トレインスポッティング』がロックしていたのは、「生き延びてはいけない」を壊したからだ。
この映画では、生活の理想が描かれるので、壊れてしまう。
それは、ポップなロックではなく、ロックなポップなのだ。
それは形で言うなら金平糖のようなものだ。
でこぼこだが、甘い玉だ。
削ろうとしても残ってしまう棘ではない。
先の丸い棘。
だが、そのぬるさもまた日本の現実。
それを受け入れて、戦えるかどうか。
勝った男・小林武史が描くのだから、ここでも破壊は起こらない。
そのバランス感覚は恐ろしい。



丸いがゆえに目立つイビツな部分に、個性と言い張らせる強さが無いのが、弱点ではあるが、その音楽関係の描写や役者陣の好演、セリフの良さは邦画史に特筆すべきもので、いくつかのシーンに拒否感が出なければ、異業種監督の作品としては、かなりの出来の作品と言っていい。
 
90年代がもっていたムズムズした感情を喚起されることだけは確か。
偏見を少々抑えて、音環境のよい映画館で見てはいかがかしら?

 


 

 
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