菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

ない女。 『ある男』

2022年12月02日 00時00分12秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2150回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

『ある男』

 

 

 

夫が別人であったことを死後に知った未亡人から弁護士がその身元調査を依頼されるミステリー・ドラマ。

芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラーを実写映画化。

 

主演は、『悪人』、『浅田家!』の妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝。
共演は、真木よう子、柄本明。

 

監督は、『蜜蜂と遠雷』、『愚行録』の石川慶。

 

 

物語。

里枝はある事情から離婚し、幼い息子悠人を連れ、宮崎の実家に戻った。
実家の文具店で働き出した彼女は、そこで絵を趣味にしている谷口大祐と出会う。

弁護士の城戸は、かつて離婚調停を請け負ったことのある女性から、亡くなった夫の身元調査をしてほしいという依頼を受ける。

原作:平野啓一郎『ある男』
脚本:向井康介

 

 

出演。

妻夫木聡 (城戸章良)
安藤サクラ (里枝)
窪田正孝 (谷口大祐/ある男/Xさん)

坂元愛登 (悠人)

真木よう子 (城戸香織)
眞島秀和 (谷口恭一)
清野菜名 (後藤美涼)
小籔千豊 (中北/弁護士)

山口美也子 (武本初江)
きたろう (伊東)
カトウシンスケ (柳沢)
でんでん (小菅)
河合優実 (茜)
仲野太賀 (谷口大祐)

柄本明 (小見浦憲男)

 

 

スタッフ。

製作:高橋敏弘、木下直哉、田中祐介、中部嘉人、浅田靖浩、佐渡島庸平、井田寛
エグゼクティブプロデューサー:吉田繁暁
プロデューサー:田渕みのり、秋田周平
スクリプター:藤島理恵
助監督:中里洋一

撮影:近藤龍人
照明:宗賢次郎

美術:我妻弘之
装飾:森公美
スタイリスト:高橋さやか
ヘアメイク:酒井夢月
特殊メイク:中田彰輝
VFXスーパーバイザー:赤羽智史

録音:小川武

編集:石川慶
音響効果:中村佳央
音楽:Cicada
音楽プロデューサー:高石真美

 

 

『ある男』を鑑賞。
現代日本、未亡人から弁護士が別人を名乗っていた夫の身元調査を依頼されるミステリー・ドラマ。
平野啓一郎の同名ベストセラーを実写映画化。
シングルマザー、よそ者、弁護士と3人の主人公で、自分の中にある<ある男>が渦を巻かせて、話は引き継がれていく。
それは息子、それは父、それは失踪者。
もう会うことのできないその存在はドーナツのように周囲の人々によって形作られていく。
内面に浮かぶ、流れるもの、留まるもの、と向き合う物語ゆえに、それを引きずり出す映像と役者を見る映画となっている。
つまり、芝居を見る映画ということになる。
当代の名俳優が次から次へと現れ事件現場の死体を縁取る点線のように出ては退く。
冒頭から、その圧倒的な痛みを食わせるのは安藤サクラ、1カット目から映画の錨として物語を停泊させる。その佇まいに痛みを引きずらせるのは窪田正孝。帆として凪と風を孕んで物語を曳航する。波と粒子の二つの性質を同時に見せる回転するスクリューは妻夫木聡。圧倒的な陽を浴びさせつつその裏の陰を浮上させる、この希少鉱物のごとき俳優であることを改めて気づかされる。こういう俳優がいてこそ重い題材を舟から船に、羽から翼にする。
そこに、柄本明、カトウシンスケ、真木よう子、眞島秀和、小籔千豊と水平線の神秘を見せる芸達者が航路を結ぶ。これに、坂元愛登は剛性の高いマストのようだ。彼がこの映画を係留する。
監督は、『蜜蜂と遠雷』、『愚行録』の石川慶、日本映画に用賀の手触りを持ち込めている数少ないこれまた稀有な作家。整っているので貨客室は満員なのに、どこかで表面的な部分があり、貨物室が空いている感触がある。
撮影はいつものポーランドの眼鏡を外し、地に足のついた近藤龍人で、血色のある画になっている。色を見せるのは光、光を際立たせるのは影と言わんばかり。世は光の帝国の如し、陰陽は重ね削ぐ筆の如し。
冒頭に映るのはルネ・マグリットの絵である『複製禁止』。そこにはいくつもの意味を受け取れる。この含みこそが映像語りの醍醐味だったりする。この雲行きの千変万化は、空模様を天気予報的には見させず、超現実主義的に連想させる。途中出てくる鉛筆画もどこか彼の絵『人の子』を思わせたり。
個人的にはヒューマンとつけたジャンル分けには無神経さを感じてしまうのだが、今作はヒューマン・ミステリーと級分けしたくなる。
弁護士の出自を家庭の澱または檻で覆ったのは、メジャー作としてのメジャー策なんだろうけど、逃げの舵取りに感じなくもないが、とはいえ隠しているわけでもないしなぁ。夫婦関係にソレにした方が共感者が増えるだろうしなぁ。でもなぁ。彼の切実さがなぁ。人生は始まりから終わりまで白紙委任状を手に出来ることはない。
恋人たちよ、その覆いあるキスに平穏が隠れてもいることはあるんだよ。
鏡に映る、画用紙に這う、レンズに結ぶ像をどう見るのか。
木漏れ陽の日々の美に気づく森作。

 

 

 

 
おまけ。

2021年の作品。

 

製作国:日本
上映時間:121分
映倫:G

 

配給:松竹  

ある男

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小籔千豊がビビりつつも映画「ある男」出演、妻夫木聡演じる主人公の同僚役(コメントあり) - お笑いナタリー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

映画『ある男』公式サイト | 11月18日(金)全国ロードショー

小見浦憲男もまた戸籍を変えている可能性が高い。
見た目で人を判断できないのだ。

ある男は、大祐のことだけではないかもしれない。
里枝は亡くした次男を、大祐は殺人者の父を、城戸は大祐と在日を覆う肩書を被せたことで隠れた自分を、ある男として、背負っている。

 

ボクサー時代に、まことは、自殺を試みる。
柳沢は、ビルから落ちたという彼の言葉を木戸に話すが、映像では、飛び降り自殺をしているまことが映る。
これは、実際というよりも、柳沢か城戸がうかべてしまったイメージを映像化したのではないか。

どこかで誰かが見ているというまことの闇を、幸せな方向として、まことが描いた絵に息子らしき子供を見つけたことで覆される。
見られることが幸せな世界があると。
停電の時にも、暗くて見えなくなった世界を灯りをつけることで覆されるところから始まる。


背負ってきてしまったものを降ろしたくなる人々がいる。
そこにどうしようもない重荷がある者には特に。
在日三世である城戸にもある。
妻の家族にはどこか違う人間として扱われていることもあるし、在日四世の息子に、それを告げるべきかどうかというのもある。一緒に抱えたいが、知らなくていいことなのかもしれないのだ。

マルグリットの『複製禁止』にはそういう部分も見える。あの絵は鏡だが、背中が映るので、前の人(祖先)の背中にも見える。
複製禁止は鏡の行いについてのようで、継続させないこととも受け取れるのだ。

そうなると、里枝の長女はまことの血を継いでおり、いうなれば死刑囚三世ともいう状態。しかも、まこともまた戸籍詐称という罪を残していった。
それは、城戸の息子とある意味同じで、悠人と里枝も城戸と同じ重荷を背負う。

最後のシーンを考えると、在日朝鮮人三世である部分の描写が薄めで、妻との関係の一部になっているのは薄いと感じなくもないが、それこそ観客との共感に舵を切ったのかね。

 

 

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2 コメント

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3人、各々の (さわ)
2023-02-26 19:41:06
菱沼さん、お邪魔致します。
  
 公開からかなり経っておりますが、先日、漸く観て参りました。
余韻が残る映画で、菱沼さんの解説が読みたくなり、
検索したところ、ありました。
記事のアップ、ありがとうございました。

 マグネットの絵の解説や、主要三人それぞれに【ある男】がいるのでは?
など、今回も、楽しく読ませて頂きました。

 去年観た、『さがす』『死刑にいたる病』同様、ずっしりとした重量感のある映画でしたが、やはりメジャー作品だからか、後味は悪くないものでした。
 窪田さんの、ボクサーとしての肉体の説得力にも、驚きました。
 この監督は、評判は聞いておりましたが、初見でしたので、他の作品が見たくなりました。

 またお邪魔させて頂きます。これからも、記事のアップを楽しみにしております。

 さわ
監督味 (ひし)
2023-03-02 07:33:19
>さわ さん

楽しんでいただけたようで。
励みになります。
 
石川慶監督作、なかなかに味があって、好んで見ております。
『ある男』は違うのですが、撮影がチェコの方(石川さん自身のチェコの映画学校で学んだので)なので、独特の日本の色になっているのがいいんですよ。

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