MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯651 猫ブームの後始末

2016年11月23日 | 日記・エッセイ・コラム


 現在、日本は空前の「猫ブーム」と言われています。

 日本ペットフード協会が発表した2015年度の飼育実態調査では、飼い猫の頭数は2012年から2016年の4年間で約30万匹増え約987万4000匹に達しており、餌代などの飼育費用だけも年間約1兆1020億円が消費されているということです。

 その一方で、犬の飼育頭数は約991万7000頭とされていて、近いうちに猫に逆転されることが確実視されているようです。

 また、(猫駅長や猫島など)猫の観光への経済効果は約40億円と試算されているほか、猫の特集本や猫カフェ、猫グッズの売上など、我が国における猫の経済効果は2015年現在で2兆3162億円との試算(関西大学宮本勝浩名誉教授)もあって、(「アベノミクス」ならぬ)「ネコノミクス」という言葉も、メディアを中心に使われ始めているようです。

 このような猫ブームの背景には、高齢者や一人暮らし世帯の増加があると考えられています。飼育に当たり散歩などの世話のかかる犬よりも(手のかからない)猫に人気が移行し始めたことが人気の原因とされ、少子高齢化を背景にこうした傾向は今後も長期にわたって続くと予想されています。

 しかし、こうした(猫を中心とした)ペットブームの広がりが、普段はあまり表に出ない「別の問題」を引き起こしていることも忘れるわけにはいきません。

 10月17日の毎日新聞では、新たに就任した小池百合子東京都知事が公約の一つとして掲げる、犬猫の「殺処分ゼロ」の実現可能性について触れています。

 築地市場移転問題や五輪会場問題で早くも脚光を浴びている小池知事ですが、その選挙戦に当たっては「待機児童ゼロ」「満員電車ゼロ」などの「7つのゼロ」を公約に掲げていました。そして、その一つに「ペット殺処分ゼロ」があるということです。

 小池知事は、2015年度の都内でのペット殺処分数が実質的に203匹にまで減っていることを踏まえ、2020年の東京五輪までにこの数を「ゼロ」にする意向を改めて示したということです。

 因みに、現在でも人口1万に当たりの殺処分数(2014年度)が最も少ない都道府県は東京都で、0.84 匹となっています。因みに2位が神奈川県の1.51匹、3位が埼玉県の2.99匹と続いており、殺処分数は犬猫の屋外飼育が主流となっている首都圏で少なく、香川県の39.53匹、長崎県34.84匹など、地方部で多い傾向にあることがわかります。

 また、全国の総殺処分数は減少傾向にあって、2010年度の約20万5000頭から2014年度の約10万1000頭へとこの4年間で概ね半減しているのも特筆すべきことのひとつです。

 その背景には、2005年の動物愛護法改正により都道府県等が犬猫の引き取りを拒否できる条項が盛り込まれたことがあると考えられており、繁殖業者などからの安易な持ち込みが制限されたり適正飼育への指導が容易になったことなどが、ひとつの要因になっているようです。

 しかしそれでも、年間約10万匹の犬や猫が、都道府県の施設や保健所で引き取り手のないまま(毎日300頭近く)殺処分されている現実に変わりはありません。

 行政機関が引き取りの条件を厳しくすれば(表向きには)それなりに殺処分数は減少していくでしょうが、それではあくまで行政が処分する数がゼロになるだけであり、問題解決につながらないのは言うまでもありません。実際、記事においても、行政が目標達成にこだわって引き取りに消極的になれば、逆に密かに捨てられたり処分されたりする例が増える可能性があると指摘しています。

 さて、戦後の日本では1950年に施行された狂犬病予防法に基づいて(いわゆる)野犬狩りが各自治体で行われていました。その当時、殺処分されるのは猫よりも犬が圧倒的に多く、例えば1974年度の全国殺処分数は犬115万9000頭に対し、猫は6万3000頭だったということです。

 その後、野良犬の減少や飼い犬の登録が徹底され、2000年度には犬の処分数は約4分の1の25万6000匹まで減少し、27万4000頭の猫と比率が逆転したと記事はしています。そしてさらに現在(2014年度)では、犬が約2万2000匹、猫が約8万匹で、8割近くを猫が占めているということです。

 記事によれば、現在では野良猫や野良犬の捕獲数はきわめて少なくなり、自治体の施設に持ち込まれるのは飼い主が何らかの理由で飼えなくなった個体が大半だということです。 2014年度に東京都が引き取り理由を調査したところでは、「飼い主の高齢化」が25%、「飼い主の病気」が24%、「飼い主の死亡」が18%で、こうした「飼い主の健康問題」が約7割を占めていたということです。

 東京都によると、2015年度に都の施設で収容した犬猫は1786頭で、このうち飼い主の元に戻ったのは254頭(犬236頭、猫18頭)、ボランティア団体や個人に引き取られた個体が716頭(犬234頭、猫482頭)だったと記事は記しています。

 引き取られずに残ってしまえば殺処分ということになり、東京都の場合、これが2015年度で816頭(犬24頭、猫792頭)だったということです。一方、こうした犬猫の中には収容時にひどいケガや病気にかかっていて死なせる方がいいと判断されたケースや収容前後で死んだ数も含まれていて、それを差し引いた「実質的な殺処分」が先の203頭という計算です。

 記事によれば、小池知事の「殺処分ゼロ」宣言の公約を受け、東京都が公表した実質処分数203頭の内訳は、犬が10頭で、猫はその約20倍に当たる193頭だったということです。また、そのほとんどが「離乳前であったり、高齢のため引き取り手がなく、処分せざるをえなかった猫」であり、大半は24時間体制のケアを要し、職員の手にあまる幼齢の猫だったと記事は説明しています。

 記事は、殺処分の減少は、実質的にボランティアの活動に支えられていると指摘しています。そしてそのボランティアたちからは、「今の猫ブームに乗って飼い始めた(特に高齢の)飼い主らが、何らかの事情で飼えなくなることも多くなるだろう。それを見越した行政の長期的な計画が必要では」との声が上がっているということです。

 一時的に「殺処分ゼロ」が達成されたとしても、それがゴールとは言えないと記事はしています。空前の猫ブームが続く中、社会の中で人とペットがともに生きていくためには、飼い主の側に(最後まで飼いつづけるという)厳しい責任が生じることを、私もこの記事から改めて感じたところです。




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