MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯34 軽井沢シンドローム

2013年07月11日 | 本と雑誌
 たがみよしひさ「軽井沢シンドローム(文庫版全5巻)を読了。



 アマゾンで見かけて、まとめて大人買い3000円です。

 この文庫版は15年ほど前に再版された時のものですが、それでも梱包を解いてみたらほぼ新品だったので少し驚きました(どこに置いてあったのでしょうね?)。

 1982年から1985年にかけて、ビッグコミックスピリッツに連載されていたこの「軽井沢シンドローム」は、軽井沢に集まった20代前半の若者たちが織り成す青春群像という感じで、バブル絶頂期少し前という世相を反映し、「未来ある」(笑)若者の生き方というか、つながりのようなものを比較的自由に描いた物語です。

 当時、スピリッツが「めぞん一刻」とか「美味んぼ」とか「気まぐれコンセプト」などのヒット作を次々と世に出していたこともあり、この「軽シン」はだがみの作品としては最も広く読まれたもののひとつではないでしょうか。かくいう私も、月2回のスピリッツの発売日を当時とても楽しみにしていた記憶があります。

 一時は映画化されたり、実写版のテレビドラマなども企画されていたようですが(主役の耕平ちゃんが堤大二郎、純生は林家こぶ平というキャスティングにも笑ってしまいますが)、撮影時の事故かなんかが原因でお蔵入りになったと聞いています。

 この作品も含め、たがみよしひさという作家は当時はそれなりに知られていたはずなのに、30年以上の歳月を経た現在、意外にメジャーになっていないのは、彼の持つかなり独特な「世界観」というか、ちょっと過激(神経質というか、なげやりというか)な感じを、当時の読者たちが「卒業」してしまったということなのでしょうか。

 さて、お話は、売れないカメラマン(相沢耕平)とイラストレーター(松沼純生)の二人が、雪の碓氷峠を越え、軽井沢の別荘に暮らす純生の姉(薫)のところに転がりこむ場面から始まります。

 避暑地軽井沢(当時はまだ「リゾート」ではない)という少し現実離れした街を舞台に、お金はないけれどもでもちょっとリッチな(「育ちの良い」というのかな)男女が、耕平という女ったらしの元暴走族(←時代を感じさせますねぇ…)を中心に、くっついたり離れたり。

 こういう展開は、その後の「男女7人夏物語」とかそういうものに引き継がれていくものですが、少なくともそれ以前の「不揃いの林檎たち」などとはちがって、人間関係もちょっとおしゃれで軽妙な肌ざわりです。

 こうした「気のきいたオサレ感」はそれまでのコミックスの世界にはあまりなかったもので、時にハードボイルドで時にコミカルな登場人物のやりとりは、今から思えば、バブルに向けてひた走る日本のムードにうまく共振していたような気がします。

 連載当時は、仲間うちでの「痴話話し」みたいな世界感が鼻についたりもしていたのですが、30年近い時間を経てこうして通して読んでみると、この時代の22~3歳の青年たちも「意外にしっかりしてるじゃないか…」というのが、まずは正直な感想です。

 ま、漫画の世界ですから現実とは違っていて当然なのですが、「将来のために」とか「就職がどうした」とか、この人たちは二十歳やそこらの身空ながらあまり細かいことは心配していません。現実に折り合いながら、自分でなんとかすることを基本に生きていく彼らの姿にはすがすがしささえ漂います。それはまた、「何とかなるだろう」という時代の空気の産物なのだろうなと、勝手に判断させていただきました。

 ちょうこの頃、大学を卒業してからの数年間を、私自身も友人たちとマンションをシェアして暮らしていました。シンドロームとう言葉がまだ一般的でなかったこの時代でしたが、全編に流れる当時の軽い空気感というか、ちょっとヤケクソなノリというか、そういったものがまさにシンドロームとして実感できる作品です。

 彼らも今は50代半ばになっているはず。毎日どのように暮しているのか、知りたいような知りたくないような…。

 読み終わった後、私もしばらくは何となく遠い目をしてしまいました。



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