※原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。苦手な方は閲覧ご注意ください。
「姫さま、ようございましたわねぇ。後宮勤めの願いがお叶いになって」
部屋に戻って、勝利の余韻に浸っていると、白湯を差し出しながら小萩が言ってきた。
「まぁね。思ってたより今回は手こずったけど、何とか要求を通したわ」
「でも、何やら小萩は淋しゅうございますわ。姫さまがいなくなってしまうなんて・・・」
「たったの三か月よ。小萩も叔母さんのとこ行ったりして、適当にやってたらいいわ」
「そうさせていただきますわ」
気を取り直したように嬉しそうに頷き、それでも、また、顔を曇らせている。
「何よ、どしたの、小萩」
「いえ・・」
「気になるじゃない。何か心配事でもあるの?」
「心配事と言うほどではないんですが・・。ただ、やはり、後宮勤めなどなさらなくてもよろしいんじゃないかと。物語など読むと、後宮勤めは恐ろしいことも多いと書かれていますわ」
「大丈夫よ。いざと言う時のために、身体も鍛えてあるから」
「せっかく、いい縁談話が持ち上がっているのですから、いっそ、その殿方とひと思いにご結婚されたらいかがでしょう」
「・・まぁねぇ」
あたしは大きく息を吐き出した。
「それは一つの選択肢として考えないでもないけどね。でも、おまえも聞いたでしょ?15よ。あたしより二つも下。融より年下なんだもん。はっきり言ってガキよ。何だかそこが不満なのよ。あたしの理想としては、これぞ殿方!って感じの人がいいって言うかさ」
「まぁ、姫さまのおっしゃりようは判る気もいたしますが」
「でしょ」
我が意を得たり、とあたしは頷いた。
別にね、人を好きになるのに年齢なんか関係ないと思うし、好きになった人が人が二つ下だったって言うんだったら、全然問題はないんだけど。
でも、これから誰かと出会って、その人と恋愛関係に落ちるんだとしたら、一応、最初からその辺りはクリアしておきたいじゃない。
頼れる年上の<大人な>殿方が良いって言うかさ。
あたしもいっぱし権門の姫だから、15歳を過ぎた辺りから今までにはたくさんの縁談話はあったし、熱烈なお文ももらったことはあるのよ。
でも、どれもピンとこなかったし、何だかんだ言って父さまはあたしに甘いから、無理強いをされるってことはなかった。
それが17になり、じきに18になろうかって段になって、父さまもさすがに「このままじゃ嫁き遅れる」とでも思ったみたいで、強硬に縁談を勧めるようになって来た。
それで、この間、父さまが持ってきた話が、どこぞの15歳のご子息との縁談話だったってわけなんだけど。
文のやり取りでもして見ろ、御簾越しで良いから会って見ろ、なんて言われたら、何だか結婚が妙に現実的な話に感じられちゃって、そしたら、ふいに
(あー、このまま誰かと結婚して、そのまま邸の奥深く過ごすままに、あたしの人生終わるのかぁ)
なんて思ってしまったんである。
その時に読んでた物語も影響してたんだと思うけどね。
後宮の女官たちが生き生きと働く姿が書かれてあって
(この人たちはあたしとは全く違う世界を見てるんだなー)
と思ったら
(あたしも後宮で働いてみたい。ワーキングガールになりたい!)
なんて気がムクムクと湧き上がってきてしまったのよ。
後宮女官と言ったら、やっぱり時代の最先端を行く女性だから経験出来るもんなら一度はして見たいし、それに働くんなら高位女官じゃダメ。
高位女官なんて、はっきり言って帝のお手付きと思って間違いないんだから。
「姫さまはいつから後宮に上がられますの?」
「その辺りは父さま任せよ。色々、準備もあるみたいだし」
結局───
あたしが女官として後宮に潜り込んだのは、宮廷行事である秋の除目が終わり、それに続く儀式や祝宴も一段落した秋風の吹く頃となった。
<続>
次回から舞台は後宮へと移ります。楽しんでいただけましたら、クリックで応援をお願いいたします。
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「姫さま、ようございましたわねぇ。後宮勤めの願いがお叶いになって」
部屋に戻って、勝利の余韻に浸っていると、白湯を差し出しながら小萩が言ってきた。
「まぁね。思ってたより今回は手こずったけど、何とか要求を通したわ」
「でも、何やら小萩は淋しゅうございますわ。姫さまがいなくなってしまうなんて・・・」
「たったの三か月よ。小萩も叔母さんのとこ行ったりして、適当にやってたらいいわ」
「そうさせていただきますわ」
気を取り直したように嬉しそうに頷き、それでも、また、顔を曇らせている。
「何よ、どしたの、小萩」
「いえ・・」
「気になるじゃない。何か心配事でもあるの?」
「心配事と言うほどではないんですが・・。ただ、やはり、後宮勤めなどなさらなくてもよろしいんじゃないかと。物語など読むと、後宮勤めは恐ろしいことも多いと書かれていますわ」
「大丈夫よ。いざと言う時のために、身体も鍛えてあるから」
「せっかく、いい縁談話が持ち上がっているのですから、いっそ、その殿方とひと思いにご結婚されたらいかがでしょう」
「・・まぁねぇ」
あたしは大きく息を吐き出した。
「それは一つの選択肢として考えないでもないけどね。でも、おまえも聞いたでしょ?15よ。あたしより二つも下。融より年下なんだもん。はっきり言ってガキよ。何だかそこが不満なのよ。あたしの理想としては、これぞ殿方!って感じの人がいいって言うかさ」
「まぁ、姫さまのおっしゃりようは判る気もいたしますが」
「でしょ」
我が意を得たり、とあたしは頷いた。
別にね、人を好きになるのに年齢なんか関係ないと思うし、好きになった人が人が二つ下だったって言うんだったら、全然問題はないんだけど。
でも、これから誰かと出会って、その人と恋愛関係に落ちるんだとしたら、一応、最初からその辺りはクリアしておきたいじゃない。
頼れる年上の<大人な>殿方が良いって言うかさ。
あたしもいっぱし権門の姫だから、15歳を過ぎた辺りから今までにはたくさんの縁談話はあったし、熱烈なお文ももらったことはあるのよ。
でも、どれもピンとこなかったし、何だかんだ言って父さまはあたしに甘いから、無理強いをされるってことはなかった。
それが17になり、じきに18になろうかって段になって、父さまもさすがに「このままじゃ嫁き遅れる」とでも思ったみたいで、強硬に縁談を勧めるようになって来た。
それで、この間、父さまが持ってきた話が、どこぞの15歳のご子息との縁談話だったってわけなんだけど。
文のやり取りでもして見ろ、御簾越しで良いから会って見ろ、なんて言われたら、何だか結婚が妙に現実的な話に感じられちゃって、そしたら、ふいに
(あー、このまま誰かと結婚して、そのまま邸の奥深く過ごすままに、あたしの人生終わるのかぁ)
なんて思ってしまったんである。
その時に読んでた物語も影響してたんだと思うけどね。
後宮の女官たちが生き生きと働く姿が書かれてあって
(この人たちはあたしとは全く違う世界を見てるんだなー)
と思ったら
(あたしも後宮で働いてみたい。ワーキングガールになりたい!)
なんて気がムクムクと湧き上がってきてしまったのよ。
後宮女官と言ったら、やっぱり時代の最先端を行く女性だから経験出来るもんなら一度はして見たいし、それに働くんなら高位女官じゃダメ。
高位女官なんて、はっきり言って帝のお手付きと思って間違いないんだから。
「姫さまはいつから後宮に上がられますの?」
「その辺りは父さま任せよ。色々、準備もあるみたいだし」
結局───
あたしが女官として後宮に潜り込んだのは、宮廷行事である秋の除目が終わり、それに続く儀式や祝宴も一段落した秋風の吹く頃となった。
<続>
次回から舞台は後宮へと移ります。楽しんでいただけましたら、クリックで応援をお願いいたします。
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