夢と知りせば<6>

2017-07-07 | ss(夢と知りせば)
※平安・高彬×現代・瑠璃のパラレル設定です。苦手な方は閲覧ご注意ください。





突然のぼくの来邸に驚いた顔の田嶋は、それでも、すぐに目を細め、深々と頭を下げてくる。

「ちょっと、預かって欲しい姫がいるんだ」

そう告げると、田嶋は何も言わずに瑠璃さんの滞在の準備を整えるために下がって行き、ほどなくして鴛鴦殿で一番、上等な部屋に案内してくれた。

「しばらくはここでゆっくりしたらいいよ。何か困ったことがあったら、今の者に言えばいいから」」

年嵩の女房がゆっくりと渡殿を歩いて行き、その後姿を見ながら言うと

「うん、ありがと。そうするわ」

瑠璃さんはペコン、と頭を下げ、そのまま庭に目を移した。

夜の帳が下りた庭は、釣灯籠に照らされたところだけがぼんやりと明るく、後は雨の音が聞こえるばかりである。

「雨、止まないわね」

「うん・・」

何となく2人で雨音を聞いていると

「高彬は今日はこれから、どうするの?さっきのおうちに帰るの?」

ふいに瑠璃さんが聞いてきた。

「あ・・・、どうしようかな。このまま、ここで泊まってもいいし、帰ってもいいし・・」

「泊まって行ってよ」

「・・・」

「さすがのあたしも、平安に来て、いきなり一人で寝るって言うのは怖いもの」

「う、うん・・」

ちらりと室内に目をやる。

瑠璃さんは気付いてるかどうか分からないけど、夜具が二つ、並んで敷かれているのだ。

「縁の姫」と言ったのだから、当然、こう言う誤解を招くことは分かっていたんだけど。

だけど、この雨の中を右大臣邸まで引き返すのも億劫だし、何よりも瑠璃さんをここに一人残すのは、いかにも心配だった。

「分かった。ぼくもここに泊まってくよ」

「あ、そう?嬉しい」

瑠璃さんはにっこりと笑い、立ち上がったかと思うと、几帳を持ち上げ、夜具の真ん中に移動させた。

「ま、一応ね。あたしも嫁入り前だし。へへ」

「・・・」

なんだ、分かってたのか。

「高彬、そっちね。あたしはこっち」

「うん」

「怖くなったら起こしてもいいわよ」

「起こさないよ」

笑いながら、几帳の右と左に別れる。

「よいしょ、と」「へぇ、思ってたより、寝心地いいのねぇ。快適、快適」ぶつぶつと言う声が聞こえ、思わず笑いが漏れてしまう。

「大丈夫?寝られそう?」

「平気よ。あたし、どこでも寝られるの」

「頼もしいね」

「あ、今、あたしのこと、バカだと思ったでしょ。ノーテンキ、とか」

「思ってないよ」

「そう?なら、いいけど」

「ところでさ、瑠璃さん」

「なぁに」

「瑠璃さんはどうして千年前になんか来たんだろう。何か、思い付く原因とか心当たりはあるの?」

「うーん・・。まぁ、ないことはないんだけどねぇ」

衾でも引き上げたのか、くぐもった声が聞こえてきた。






<続>

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