息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

大いなる遺産

2011-12-31 10:29:57 | 著者名 た行
ディケンズ 著

言わずとも知れた名作。
興味がなくても読んでみると、それなりの満足感と知識が得られる。
というのもディケンズの作品は教養の基礎というか、
読んでいて当たり前な感じの扱いを受けることが多いから。

そんなことはおいておいても、魅力ある作品である。

貧しい孤児・ピップに突如降ってわいた膨大な遺産相続の話。
それまでのその日暮らしの生活が嘘のように、紳士として社交界に
出入りすることが許され、運命が開けていく。

何がすごいって登場人物のキャラクター。
個性的でしっかりと自分を主張する。嫌な人間も多いのだが、
それを補って余りある魅力があるのだ。
一人ひとりが生き生きと自分を演出し動き出す。
これってディケンズの一番の魅力なのではないだろうか。

このまま順調に進むかと思われたピップの人生は、思いもかけない
どんでん返しが起こる。
そこにあるのは哀しみではない。
失われたのは時間と想い。

さまざまな思いを心に落とす作品。

2011年が幕を閉じる。

うそうそ

2011-12-30 10:56:03 | 畠中恵
畠中恵 著

おなじみ病弱若だんなが登場する“しゃばけ”シリーズ第五弾。
実に非活動的な主人公ながら、個性的なキャラクターと飽きさせない物語で
続きを楽しみ待っているシリーズのひとつだ。

まさか、まさか、あの若だんなが旅に出ることに。
箱根で湯治をして丈夫になるはずが、手代にははぐれるわ天狗にさらわれるわ、
大騒動に巻き込まれてしまう。

おまけに何やら山神の怒りがすさまじく、地震が相次ぐ。
何が原因か、どうにかできるのか、それよりなにより若だんなは生きて帰れるのか。

江戸時代ブームとなった変わり咲きの朝顔が効果的な小道具として使われているが、
当時は実際に狂騒曲というべき状況だったらしい。お家大事、お国大事の侍が
必死に小さな花を探す様子は哀しさの中におかしみがある。

妖たちも相変わらずの活躍ぶりで、小さな唐獅子が走り回り、その背に鳴家が
のっている姿なんて、絶対に見てみたい。
歩いては息切れし、息を吸っては風邪をひくような若だんなにちょっと分けて
やってほしいと思うほどに、元気いっぱいだ。

ほのぼの、のんびり、いつ読んでも癒される。

八日目の蝉

2011-12-29 10:29:22 | 著者名 か行
角田光代 著

第二回中央公論文芸賞受賞。

映画化されたので読んだ人も多いかも。

不倫相手の家に忍び込み、赤ちゃんを誘拐する希和子。
彼女は薫と名付けたその子の笑顔だけを支えに逃亡する。
友人の家から宗教団体へ。そして小さな島へ。

何もかも失い、それでも仮の母子の生活だけ求めて前進する希和子。
前半はその逃走のようすと、成長する薫との間の絆が描かれる。
そこには不倫相手の影はない。
希和子はあれほど離れられなかった男よりも、手の中にある小さな命を
愛し、執着したのだ。

後半では成長し、大学生となった“薫”こと恵理菜の視点から話が進む。
ある日突然、平和な島の暮らしが中断され、見知らぬ人に親だと言われ
抱きしめられた恐怖。家族に馴染めず、好奇の目に囲まれて、
記憶はほとんどないにも関わらず事件へのこだわりから逃れられない。

幼児期の異常な体験と精神的に幼稚な両親との関係に苦しむ恵理菜。
やがてあれほど憎む不倫の関係に落ち込んでいく。
誘拐や別離の体験こそないものの、親子関係のいびつさに対する苦しみは
実感している。だから読んでいてつらい。

希和子は罪深い。宗教団体はある意味かたよった考え方によって虐待をした。
そして、そのために長い苦しみを背負った子どもがいる。
でも、心情的に希和子の愛を否定することは私にはできないのだ。

最後まで希和子は“薫”に再会することはない。
そして“薫”こと恵理菜の人生は、決して平坦ではない方向へ進んでいく。

子どもを産むこと=親になること ではない。
産んでも親になれない人も多い。そして産まなくても親ができる人もいる。
親子ってなんだろう、愛情ってなんだろう。
ずっと考えてしまう物語だ。

娼年

2011-12-28 10:20:48 | 著者名 あ行
石田衣良 著

ショッキングなタイトル。
ぼくを、買ってください。
↑帯なんてこれ。

どれほどに重く暗い話かと思うが、話は淡々と進む。
退屈とけだるさにどっぷりつかった大学生の主人公・リョウは
さほど気負わず新しい仕事“娼夫”をはじめる。
リョウには、まるであらかじめ決まっていたかのような自然さと、
思いもかけない世界へ足を踏み入れた驚きとが、何の違和感もなく同居する。

それは若いからなのか、現在に満足していないからなのか、
リョウの性格によるものなのかはわからないが。

物語にずっと通して感じるのは女性へのやさしい視点だ。
年をとっていることも夫がいることも、すべてを許容したうえで決して蔑視しない。
実際の二十歳にこれはできないだろうと思いつつ、その視点がこの物語の
重要な柱になっていることに気付く。
そしてそんな視点をもつからこそ、オーナーの娘・咲良はリョウを選んだし、
顧客は癒されていくのだ。

リョウの娼夫生活はひと夏で終わる。
ゼミの同級生・メグミの密告によりオーナーが逮捕されたからだ。

メグミはリョウにとって、普通の大学生活につながる最後の糸だった。
だからこそ、彼女はリョウを引き戻そうとした。
メグミのような存在があることは、リョウのコミュニケーション力の高さを
物語ると思う。今の大学生ってうっかり“リア充”を踏み外すと、それこそ
学内情弱ぽつん状態になってしまうらしい。いつでも戻れる感じ、これは
リョウの賢さのような気がする。

彼らがこれからどうなるのか。「売る」ことがなりわいとなっていくのかは
まだわからない。
含みをもたせたまま、物語は終わる。

喪の宴

2011-12-27 10:01:41 | 著者名 ま行
森真沙子 著

表紙のイメージがない。古い本なので残っていないようだ。
そこで短編のひとつ「還り雛」のイメージで写真を使ってみた。

季節外れもいいところなのだが、まあいいか。
日本全国を舞台にした短編が9編おさめられている。
バブルの頃の地上げをモチーフにしたものもあり、当時の
異常さをあらためて感じたりもする。

そうかといえば、時代があいまいな古き良き香りがする作品も
あり、環境はまちまちだ。
ただ共通なのは女性であること。

ひとつひとつの話にタイトルがあり、扉には短いストーリーが
加えられている。
これから始まる物語にワクワクする。
そしてこんな裏付けがあると、本編がよりじっくり読める。

それぞれにきちんとオチがあり、すっきり読める。
一篇ずつ楽しみに読んでいくのにいいかも。
いや、一気に読んでしまいましたけどね。