息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ターミナルタウン

2016-05-16 14:41:48 | 三崎亜記
三崎亜記 著

職場の異動で、ニュータウンの街に通っている。
さびれている、とまでは言わないけれど、作られた当時の予想よりもはるかに
人は早く減り、老いたのだろうという印象がそこここにある。
暮らす人と街とのサイズ感がミスマッチ。
東京都の管理下にある緑地や学校跡地は、通る人すらまれでもよく手入れをされている。
しかし、道路も含めて、これらがどんな大きな負担であるかも実感できる。

同じ私鉄沿線で発展したといっても、現在の居住地は学校を増設してもしても
プレハブが必要になるような、若年層が多い地域なだけに、差は歴然。
そして、もしかしたら前者と後者は30年後には逆転しているかもしれないという。

都市近郊の街は鉄道によって生まれ、発展していくのだから、
もしもその鉄道に何かがあると、街も存続の危機に陥る。
本書はそれをシュールに表現した話。
愛する街を失いたくない、しかし仕事や学校を求めてどんどん人は出ていく。

そんな街を舞台に三崎ワールドが展開する。
生物である「隧道」やそれをつかさどる「隧道士」
古くからある道を守り、新たな道を育て続ける「道守」などの特異な職業や、
「影なき者」、「鉄道原理主義者」など、不思議に満ちた人々。
80キロの長さに及ぶプラットホームなんていう理不尽なしろものもある。
でも駅の中なのだから、歩いて移動できるのだ。電車が停まらない時でも。
屁理屈をこねる子どもみたいな話なのだが、そこから広がる物語のすごさ。

ありえない、ふざけるなって思うくらいありえない。
でもその裏側には、私たちの住む街があり、私が通うニュータウンがある。
その差は紙一枚ぶんくらいにしか思えない。

世界観にどっぷり浸かって、たっぷり楽しみながらも、
どこかにひやりとした現実を突きつけられている。

刻まれない明日

2013-03-20 10:15:36 | 三崎亜記
三崎亜記 著

文句なしに面白かった。しかも好みど真ん中。
私のど真ん中なんてどうでもいいが、一生著者の作品を追いかけて読むことは間違いない。

何しろ世界観がすごくいい。
“消える町”と西域の文化というテーマが今回も使われ、独自の世界観を描き出す。

本書では、これまでの失われていく町とはちょっと違い、何らかのアクシデントで
住民が消えてしまった開発保留地区の話が語られる。

10年前にいなくなったはずの人たちが送るリクエストはがき。
なくなった図書館の分館で貸し出しされる本。
もう走れないはずのルートに輝くバスの光。
どうしてそんなことが起こるのか、誰も知らないままにそれは風景となってきた。
しかし歳月がたち、いよいよ終わりが近づく。

この世界ならではの特殊な仕事に就く人々と、それを支える見えない組織。
なんとも説明し難いし、簡単に語ろうとすると陳腐になってしまう。
つくりもののファンタジーに終わらないのは、しっかりとした世界観と
ひとりひとりの人物設定の確かさにあるのだろう。

終わりがきてもそこに解決はない。
それぞれに歩む道があり、それぞれが満足しているせいか後味はいい。
多くの悲しみのあとにある世界だけれど、優しさに満ちている。

廃墟建築士

2012-10-05 10:33:08 | 三崎亜記
三崎亜記 著

著者の作品にはありえない世界が展開する。
それも矛盾せず、完成したかたちで。
作品を読めば読むほど、それらがひとつの揺るがない世界にあって、
どこかでつながっていることがわかってくる。
おとぎ話のような甘口ではない、ただ超然と存在する世界。
それなのにノスタルジックであたたかみがある世界。
本書はどっぷりその世界を楽しめる短編集だ。

私は廃墟が好きで、三崎亜記の不可思議な世界観が好きだ。
というわけで、とことん楽しめた。

期待していたのは表題作だったが、ほかの作品もまったく負けていない。
「七階闘争」なんて、えっと思うようなテーマなのに、人の心の
迷いやご都合主義、そして哀しみまでも取り込んだ深い話だ。

本好きとしては「図書館」も好き。夜になると活気づく本なんて
素晴らしいではないか。

もちろん表題作にはとりこになった。
仕事への情熱や矜持、弟子の成功と失墜、細やかに描かれる物語は
ビジネスの現場をうつし、人間関係を語る。
そして人生の夕暮れに迎えるあこがれの場所での仕事。
美しく時を経て崩れていく廃墟の魅力がこんなにも独創性のある
物語になるとは。

そして主人公がもともと専門にしていたのが「二回扉による分散型
都市モデル」というのもいい。これはあれですね『バスジャック』の
「二階扉をつけてください」のあれ。
というふうな発見も実に楽しい。

コロヨシ!

2012-05-26 10:41:21 | 三崎亜記
三崎亜記 著

スポーツとしての掃除は高校生にしか許されていない……
おなじみ不可思議な世界観の中で展開される三崎ワールド。

コミカルな部活小説なのだろうと予想して手に取ったら
とんでもなかった。
掃除だよ掃除! それをどうしたらこんなに美しくかつ
ストイックなスポーツとして表現できるんだか。

タイトルは掃除を始める言葉「頃良し」
最初に立つのが「初付き(うぶつき)」
群舞のエキシビジョンが「華宴(はなうたげ)」
創作でありながらその光景が目に浮かび、生まれた背景がわかるような
言葉が続く。

この「国」は日本に似ているがそうではなく、西域と呼ばれる遠い国や
海一つ隔てた居留地という西域からの移民が住む地域がある。
独特の居留地文化が語られるが、これは『失われた町』の中で重要な役割を
果たすものでもある。

すごいなあ。
こんなにきちんとオリジナルの世界を構築してぶれないなんて。
そしてそこで生まれたものが、他国に伝播して違う形に発展していった
そんなところまで書き込んでしまうなんて。

というわけでいい意味で予想外に楽しんだのだった。

鼓笛隊の襲来

2011-03-10 10:50:45 | 三崎亜記
三崎亜記 著

赤道上に発生した戦後最大規模の鼓笛隊? そしてそれが襲来?
アタマがぐるぐるになりそうなタイトルと、不安をあおるような表紙。

 …といっても私は、“今にも雨がふりそうな天気”をこよなく愛するため、
  個人的にはこの表紙は、いいなあ……とうっとりする感じだ。

そしてそのイメージをまったく裏切らず三崎ワールドが展開する。
北上し、日本を直撃する鼓笛隊は、「巻き戻し」という幼児退化現象を起こした者を
次々と追従者とし、引きずり込みながら、進んでいく。
やがて一過。そこには見失った楽器を探す、はぐれ鼓笛隊員の姿が。
規模が縮小するとマーチングバンドになるというのもいい感じ。

こんな表題作をはじめ、絶対ない!なのに、あったらどうしよう…という不思議な
リアリティを感じさせる短編が集められている。
私が見ているものは、ほかの人が見ているものと同じなのか。
私たち、といいながら、実は全員が全く違うものを見ているのではないのか。
そんなゆらぎを感じさせる、不思議なパラレルワールド。

テーマのひとつひとつがどこにでもあるものだけに、より印象が深い。