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Photo:チトー大統領専用列車Plavi voz車内、会議スペース
←1:ベオグラードの森の中に眠る青い列車からの続き
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ベオグラード近郊の森の中にある車両基地の車庫に眠るPlavi voz、チトー大統領専用列車「ブルートレイン」…
かつて、連邦共和国の国内各地を視察するチトーと世界各国から訪れた首脳たちを乗せてユーゴスラヴィア中を駆け巡った車両の車内に、これから“乗車”する。
かつては赤絨毯の敷かれたベオグラード中央駅のプラットホームに据え付けられていたであろう専用車両のデッキに車庫の床からタラップを使ってよじ登って、いよいよ夢のブルートレインの車内へ…
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先ずは、長い通路が続くコンパートメント車両。
ヨーロッパの標準的な個室寝台車のスタイルで、日本のJRのブルートレイン「はやぶさ」や「富士」のA寝台1人用個室「シングルDX」と似た構造だが、木目調のインテリアと絨毯で豪華な雰囲気である。
ただし、これはチトーが寝起きしていた車両ではなく、随行するユーゴ政府高官や賓客が使用した寝台車だ。
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賓客や政府高官が使用したコンパートメント内。
ベッドは日本のA寝台より一回りほど広く、幅1mはあるので寝心地は良さそうだ。
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コンパートメント内には専用のデスクとトイレ、さらには立派なバスタブを備えたバスルームも用意されているので、JRのブルートレイン「北斗星」や「トワイライトエクスプレス」のシャワーしか無いA寝台ロイヤル個室よりも豪華だ…
尚、同じ車両内にバスルーム無しのコンパートメントもあるようで、この辺りはおそらく使用する政府高官の身分や賓客のランクで差を付けていたと思われる。
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次の車両は、車端部に気の利いた感じの小粋なウェイティングバーが…
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バーの奥はもちろん食堂車…磨き上げられたマホガニー細工の壁が印象的な会食用サロンである。
今は灰皿が一つぽつんと置かれただけのテーブルにも運行時にはテーブルクロスがセットされ、チトーが賓客をもてなす豪華な食事の皿が並んだのであろう…
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会食用サロンの隣は貴賓用サロン。
食後のくつろぎスペースといったところか。
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貴賓用サロンの壁に埋め込まれたブラウン管テレビとカーラジオをそのまま流用したようなチューナー。
…この車両が製造された1959年当時としては最先端のハイテク装備だったんだろうなぁ、きっと!
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食堂車には会食用サロン以外に、日本の「北斗星」のグランシャリオや「トワイライトエクスプレス」のダイナープレヤデスに似たプルマンカ―スタイルのテーブルが並んだ区画もある。
チトーの旅の随行員や同行する記者等のスタッフは、ここで集まって皆で一斉に食事したのかな。
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食堂車の隣は会議車両。
休憩用のソファが並ぶ区画の奥には、チトーが世界の首脳たちと相まみえた「列車内首脳会談」の舞台となった、長いテーブルの会議室が見える…
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長テーブル中央の、この席でチトーがイギリスのエリザベス2世やソ連のブレジネフ書記長、ルーマニアのチャウシェスク大統領やリビアのカダフィ大佐といった世界60カ国以上からユーゴスラヴィアを訪れた名だたる首脳たちと対面し、語り合った。
そして1980年、ユーゴ北部リュブリャナの病院で死去したチトーの遺体が首都ベオグラードへとブルートレインで最後の旅をした際にも、会議車両のこの位置に棺が置かれていたという…
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会議車両の車内を彩るマホガニーの壁細工。
いにしえのオリエント急行のワゴン・リ寝台車の車内はアール・ヌーヴォー調の硝子細工とマホガニーとで飾られていたというが、チトーのブルートレインは繊細な硝子細工が見当たらないかわりに随所に磨き上げられたマホガニーの壁があり、豪華絢爛というよりは質実剛健な雰囲気が漂う。
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会議スペースの端の壁には、“秘密の仕掛け”がある。
普段は絵の額縁が掛けられて隠されている壁のパネルを外すと…
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なんと壁の裏が映写室になっていて、映写機が現れるのだ!
う~ん、PHILIPS社製の映写機が何ともレトロで、まるで懐かしのTVドラマ「スパイ大作戦」の世界!(笑)
…要は会議中に使うプロジェクターな訳だが、これもチトーの現役中は最先端装備だったんだろうなぁ。
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歴史の舞台でありレトロフューチャーが詰まった会議車両を堪能したら、いよいよブルートレインの最重要車両であるチトー大統領夫妻の専用車両へ!
車両連結部の貫通幌も「オリエント急行」や「ななつ星」と同じように丁寧にビロードの幕で覆われている。これはまさに特別中の特別車両への入り口の装備だ…
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マホガニーの壁に覆われた、チトー大統領の執務室。
チトーのブルートレインの中枢部である。
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執務室を飾るマホガニーの壁細工は帆船のモチーフ。
チトーにとってはブルートレインは地を駆ける彼の船だったのかも?
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チトーのブルートレインは空は飛ばないがユーゴスラヴィア版の「エアフォース・ワン」であり、「走る大統領官邸」だ。
執務室のデスクに置かれた電話はユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国の各構成国の首脳部と常に直結されたホットラインであり、チトーはここで走るブルートレインの車中からユーゴ各国の首脳へと重要司令を発していたという。
その為、ブルートレインの車両の屋根上にはホットラインの通信用アンテナが設置されており、他の一般形車両と見分けるポイントになっている(記事の最初に載せたブルートレインの車両の写真をもう一度よく見て頂きたい。車端部屋根上にアンテナがあるのがお分かり戴けるかと思う)。
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執務室の隣はリビングルーム。
仕事を終えたチトーがくつろぐ様子が目に浮かぶ…
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リビングに置かれたラジオ。
…食堂車の貴賓用サロンにはテレビがあったが、チトーのプライベートなリビングにはラジオしか無いのが不思議な気がする。
まあ、仕事が忙しくてテレビを見ている暇がなかったのかも知れないが。
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チトーの寝室。
最初に見た随行するユーゴ政府高官や賓客が使用した寝台車と違い、線路と平行にベッドが置かれたゆったりとした造りになっている。
…が、案外素っ気なくシンプルな印象。
元パルチザンの闘士だった男は寝室に睡眠に必要ない無駄な豪華さなど求めなかった、と言えばちょっとチトーを持ち上げすぎだろうか。
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寝室の隣は大統領夫妻専用のバスルーム。
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そして、チトーの妻であるヨヴァンカ夫人の寝室。
夫の寝室と同じ間取りだが、さすがにファーストレディのベッドルームだけあって花柄を用いた華やかなインテリアデザインになっている。
余談だが、チトー大統領夫人であるヨヴァンカ・ブロズは17歳でパルチザンの狙撃手となったという“女性革命闘士”で、チトーの3番目の妻が結核で倒れた際にチトーの世話人となり、その先妻の死後に30歳も歳上のチトーの再婚相手となった。
さらにチトーの死後は政府によって軟禁状態に置かれた挙句、ユーゴ崩壊後は財産を没収されベオグラード郊外の粗末な家で一人暮らしをしていたという。
同じベオグラード郊外の森の中の車庫に眠る、かつて夫とともに乗車してユーゴスラヴィア各地を走り回り夜は同じ車両で眠った思い出のブルートレインをヨヴァンカ夫人がその後再訪した事があったかどうかは分からないが、波乱万丈の生涯を送り2013年に88歳で亡くなったヨヴァンカ・ブロズは現在、チトーと同じ墓に埋葬され眠っている…
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チトー大統領夫妻の専用車両の隣は、ブルートレインの編成全体に電力を供給する電源車。
…実際のブルートレインの運行時には大統領専用車両のすぐ隣に電源車が連結されることは無かったと思うが、現在は豪華なビロード張りの貫通幌の向こうに無骨なディーゼル発電機が覗くという格好で編成が組まれている。
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ブルートレインの電源車のディーゼル発電機はダイムラー・ベンツ社製。
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電源車の配電盤。
夏は猛暑で冬は雪が降るユーゴスラヴィアでは、車内の冷暖房をまかなうための電源車の連結は必須だ。
…賓客と随行員用の寝台車から食堂車、会議用車と大統領夫妻専用車と電源車まで、チトーのブルートレイン「Plavi voz」の車内を一通り見てまわった。
ユーゴスラヴィア大統領専用列車ブルートレインの車内訪問はこれにて終了。名残惜しいが、青い列車を降りる。
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「素晴らしい体験だった…この列車にはチトーと彼の時代の薫り、ユーゴスラヴィアの歴史がそのまま詰まっている。
このブルートレインに、また乗れる事はあるんだろうか?」
…実は、あるらしいのである。
ずっと車内を案内してくれた、ブルートレインが収められている車庫と車両の運用管理をしているセルビア鉄道の関係者の方によると、
このブルートレインの車両は現在、一般の団体客向けにレンタル運行を行っているそうなのだ。
今まで見てきた4両の専用客車(寝台車・食堂車・会議用車・大統領夫妻専用車)に冷暖房用の電源車を連結して、セルビア国内及びバール鉄道(モンテネグロ共和国)を丸一日(最低12時間)走っておよそ3,000ユーロ(約40万円)程とのことである(※ただし、チトー大統領夫妻の専用車の寝室やバスルームは使用できないとのこと)。
チトーのブルートレインを丸一日、自分だけのために走らせて約40万円…これって、考え方次第ではとても安いのではないだろうか?
だって、日本でクルーズトレイン「ななつ星in九州」に乗ろうと思ったら、一番リーズナブルな一泊二日コースでも一人あたり50万円以上するのだ。チトーのブルートレインを1編成丸ごと1日貸し切るよりも「ななつ星」の個室を一部屋だけ一晩使う方が高いのである!
チトーのブルートレインなら、乗車する人数を集めて頭数で割ればさらに割安になるではないか。
「これは…乗りたくなってきた!本気で乗りたいぞ、自分たちだけのために走らせるチトーのブルートレイン!!」
…日本からセルビアまでの往復の航空券代を足しても、例えば10人以上参加者を集めれば「ななつ星」よりも相当安く乗れるチトーのブルートレイン。
天燈茶房亭主は本気でいつか乗るつもりです。参加者が集まればいつでも乗ります!
もし、読者の方で「乗ってみたい」と思われた方が居られたら、是非とも乗ってみて下さい。セルビア鉄道への連絡手配等の相談には応じますよ(笑)
そして、チトーのブルートレインの旅の様子を聞かせて下さいね!
→3:ブルートレインよ永遠にに続く
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