Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Paul Carney

2011-09-17 | SSW
■Paul Carney / Threshold■

  詳しいプロフィールのわからない Paul Carney が 1970 年代初頭に発表した唯一のアルバムです。 「Vacation (Spring 1970)」というタイトルの曲があることから、1970 年の作品だとする向きもありますが、この情報だけでそれを結論付けることはできません。 そこで、あまりに少ないクレジット情報をたよりに、このアルバムそして Paul Carney について探ってみました。 ところが、Stanley Kahan と Billy Arnellで検索しても、ほとんど出てきません。 どうやら二人の共同プロデュース作品はほとんど存在しないようなのです。 1968 年の Billboard 誌に二人の名前を発見しましたが、その時点で Billy Arnell が 19 歳だったことが判明した程度です。 このアルバムが仮に 1970 年の作品だとしたら 21 歳ということになります。 そのことから、Paul Carney もおそらく 20 代前半の若さだったのではないかと勝手に思い込みながら、成熟しきっていない果実を食すように、レコードに針を落としてみました。

  控えめなピアノの音色に導かれて始まる「Save This Wednesday」は、落ち着いたバラード。 次第に厚みを増してきてからの女性コーラスがソフトロック的な佇まいです。 つづく「Lady Love」も似た傾向ですが、今度はホーンセクションが色づけ役として登場。 そのせいで少しファンキーなアレンジに仕上がっています。 「When I’m Not With You」はギターと軸にした音数の少ない楽曲。 リズムセクションが排除されたことで、耐えきれない淋しさや喪失感がじわりと伝わってきます。 ピアノ系の楽曲に戻った「Don’t Go Away」は広がりのあるミディアム。 曇り空の下にいるような翳りからは英国的なものを感じます。 A 面ラストの「I Need To Find Myself」はやや毛色の違うソウルフルなアレンジ。 ホーンセクションも耳障りな感じがして、ここまでの雰囲気を損ねてしまっている気がして残念です。

  B 面に入ります。 「Product Of The Past」は複雑なピアノからプログレ的な展開となり意表を突かれます。 ちょうど Andy Pratt の初期のような異彩を感じますが、ボーカルパートが始まると落ち着きを見せてスケール感のあるストリングスも登場します。 この曲のアレンジはさきほど述べた若き Billy Arnell によるものでした。 つづく「There We We’re Together」は典型的なピアノ系バラード。 のちに映画音楽界で活躍する Lee Holdridge の気品あふれるアレンジが魅力的です。 「Pawned My Soul」はその雰囲気を引き継ぎ、より浮遊感を加えたような仕上がりで、このあたりの流れがアルバムのハイライトという印象です。 つづく「Hangover」は Al Gorgoni がアレンジでクレジットされた小曲。 3 分に満たないインタリュード的な楽曲ですが、間奏部でこのアルバム唯一のギターソロが短めに挿入されてるのは Al Gorgoni の意志表示でしょう。 ラストの「Vacation (Spring 1970)」は逆に 6 分を超える大作です。 この曲ではラストに相応しくPaul Carney のエッセンスがすべて吐き出されていると言えるようなサウンドです。 けして華美なものではありませんが、ストリングスやフルートなどによる荘厳なオーケストレーションと濃淡を鮮明にしたアレンジは見事です。 この曲も Billy Arnell のアレンジということで、彼の才能の片鱗を感じ取ることができました。

  冒頭にも書きましたが、あまりに情報が少ない Paul Carney のアルバム。 おそらくはニューヨーク産だと思いますが、ここに閉じ込められたほんのりとした甘さと切なさは、当時の空気感をそのまま閉じ込めたものでした。 このアルバムは Paul Carney の謎めいた登場と失踪が生み出した、幻のような作品かもしれません。

■Paul Carney / Threshold■

Side 1
Save This Wednesday
Lady Love
When I’m Not With You
Don’t Go Away
I Need To Find Myself

Side 2
Product Of The Past
There We We’re Together
Pawned My Soul
Hangover
Vacation (Spring 1970)

Produced by Stanley Kahan & Billy Arnell
Engineer : Bob Fava

Mercury SR-61345


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