カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

海外武者修行?支援

2009年04月18日 | サイエンス
今日の読売オンラインに「若手研究者の海外武者修行を支援、政府が渡航費や滞在費」というタイトルの記事が出ていた。5年間で1万5000人~3万人の若手研究者や大学院生に渡航費と滞在費を支給し、海外の大学や研究機関へ数か月から1年程度、派遣する構想。300億円の基金創設を、2009年度補正予算案に盛り込む、という。歓迎すべきことである。

若手研究者が海外に留学しなくなってきた傾向は90年代に始まったことである。日本の研究設備の向上やポスドク制度の導入で、海外に行く必要がなくなった状況もある。そして、社会現象として、若い人たちがリスクを避け、「平凡」かつ「安全」な生活を望むようになってきたこともあるだろう。ただ、この「安全神話」も、経済不安の中、崩れていきている。

知的層としてこれからの日本を考え、築いていく人たちが、あまり冒険を望まない。そして、経済が低迷し、社会的にも上昇気流が見えてこない現状にあって、日本と言う国の将来を考えると、いささか不安になってくるのは私だけだろうか?

若い研究者に呼びかけたい。リスクを怖がらず、前向きに未知の世界に飛び込んでみることから、何か新しいものが生まれてくることに気づいてほしい。海外で学ぶことも、その一つであろう。きっと新しい何かが見つけられるはずである。それを求めてまっしぐらに進むことが一番大事だと私は思う。今回の海外派遣支援のチャンスをぜひともうまく使ってほしい。

ところで、本当に日本の中で研究することにくらべて、海外に出て研究するほうが、大変なのだろうか?こういう先入観から、「武者修行」という言葉が三大新聞の記事タイトルになるのだろうが、いささか時代錯誤ではないか?と私は思う。確かに競争主義の原理を原点とする北米社会では厳しい現実に遭遇することもある。研究環境、研究生活という観点から考えると、研究者として日本でキャリアを積んでいくほうがはるかに大変で、苦労が多いことを、大学教授をしている私の日本の知人からの話として知っている。私は北米での研究生活がもう21年になるが、こちらでの研究及び生活環境がまんざらではないと感じられることに、感謝すらしている。

私がよく参加する学会やシンポジウムのポスター会場でこちらの若手研究者が目を輝かせて自分のポスターを説明する光景や、講演発表の会場で積極的に質問をする彼らの姿が、私には研究者としてより自然に写るし、生き生きと感じられる。こういうはつらつさが、日本の若手研究者にもっとあってもいいのではないか?彼らがそうできるような環境を作っていかなければならないと言うのが私の主張である。日本を内から変えていくことにも、予算を投じて力を入れてほしいものだ。




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