久しぶりにいい映画をみた。「
オリヲン座からの招待状」である。映画を見るといっても、最近はすべて飛行機の上での話。
中学高校の頃、私はよく名画座に通った。私のよく行ったのは名古屋伏見にあった名画座(名前が思い出せない...)だったが、オリヲン座は京都にあった名画座である。この映画は時代とともに廃れていく映画館の悲哀の歴史が素晴らしい愛のドラマとして描かれている。まず、浅田次郎氏の原作、三枝健起氏の脚本・監督が素晴らしいと言わざるをえない。そして、配役がいい。宮沢りえがオリヲン座の女将トヨ。宇崎竜堂が演ずる亭主は根っからの映画人で無理な生活がたたって若くして死んでしまう。この亭主が生前乞食同然から拾い上げてやった弟子の留吉(加瀬亮)という青年が、トヨを助けて主人なき後のオリヲン座を盛りたて、何とか16mmのテープを回し続ける。両親を戦争で失い一人ぼっちの留吉はトヨのことが最初から好きなのだが言い出せない。トヨも献身的に働くこの若い青年に対する愛情をつのらせていくのだが最後までその思いはうち明けない。同じ屋根の下で暮らしながら、長い年月が過ぎていく。テレビが家庭に普及し、映画館が流行らなくなる。
そんな頃、がらがらのオリヲン座に近所に住んでいた二人の子供が通うようになる。家庭に恵まれない男の子と女の子はトヨと留吉を両親同様に慕うようになる。そして、この二人は成人して結婚する。さらに長い年月が過ぎ、中年になったこの幼馴染夫婦のもとに、オリヲン座から閉館謝恩最終映画上映会の招待状が届く。妻を演ずる樋口可南子が別居中の夫を誘う。夫は最初は今さらと拒否するが、結局上映のその日、二人は懐かしい京都の路地裏で出くわす。そして、何十年ぶりかでオリヲン座への道を二人で歩いて行くのだ。樋口可南子のこの役もオリヲン座を現代につなぐ重要な役割を果たしている。
トヨは病に伏し入院中で、余命いくばくもない。そして、二人はオリヲン座の閉館を決心したのだ。閉館謝恩映画上映会の当日のその日ばかりは、留吉がトヨを病院からオリヲン座に連れてかえる。最後に先代が心から愛した映画「無法松の一生」が留吉の手で上映される。その映画が上映されているさなかの二階の映写室で、トヨ(中原ひとみ)が留吉(原田芳雄)に聞く。あなたはどうしてこれまでオリヲン座を私と一緒に続けてきたのか、と。留吉は最後に本心をトヨに告白する。あなたが好きであればこそこれまでオリヲン座を守り続けられたのだと。トヨは嬉しそうに留吉の肩に頬を近づける。そして、トヨは「おおきに」と言う。宮沢りえの「おおきに」も中原ひとみの「おおきに」もどちらも本当に素晴しかった。
実に感動のドラマである。宮沢りえが京都ことばを実にうまく使いこなし、好演技を演じている。それは美しかった。いい女優になったものだ。ちなみに日本アカデミー賞を受賞したとか。拍手喝采である。久しぶりにいい映画を見た感動でこの記事を書いている。こういういい日本映画を作り続けてくれることを願わざるをえない。