角川書店
1974年9月 初版発行
282頁
「都市の仮面」
うだつのあがらない営業マンに突如舞い込んだ幸運
一流商社から引き抜かれたのだが仕事は遊ぶことで優雅な生活を享受した後に待っていたのは…
社会の上層部に人生を狂わされる男の話ですが、哀愁や絶望より可笑しみが感じられる終わり方でした
「静かなる市民」
一部の上層社会の人々の為に秘密裏に作られた地下都市
秘密を公にしようとする者はいずれも行方知れずになる
正義を振りかざしても国家権力には勝てないというのはよくある話です
「村人」
祖父の出身地の村からひとりの老人が訪ねてくる
過疎状態になり誰一人住む人のいなくなった村に戻ってくれないか、と頼まれるのだが、東京で生まれ育った主人公には降って湧いたような迷惑な話でしかない
老人が訪ねた相手が次々命を落とす、というミステリー絡みで、面白かったです
「生命取立人」
性交により相手の寿命を受け取り長生きをしている人間がいるらしい
異常長寿者と呼ばれる彼らの寿命を奪うための対策がとられてはいるのだが、裏には次期総裁の椅子をめぐる陰謀が見え隠れしている
政治の泥沼は底知れない恐ろしいものです
「旧約以前」
何をやっても上手くいかず、目立たず、周囲から疎んじられていた男
やがて彼の存在自体が無視され、どんな悪事をしようが誰も何も言わない、何の反応も見せなくなる
好き放題をしながら「俺は万能だ」というのはとんでもない勘違いで、彼は他人からも物理法則からも、自然からも認められず、時間も空間も無くなって、絶対の無の中で想念だけで生きていた
「おまえたちの終末」
年配の男性が若者に説教を垂れる話
世代間の隔絶は永遠に無くならないものです
40年近く前に発表されたものですが、古びた印象は無く、半村さんの描く人間、人間社会の本質が今もほとんど変わっていないことに苦笑いでした
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