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バーバラ・ピム「なついた羚羊」

2015年05月21日 | 海外の作家

 

原題 Some Tame Gazelle
訳・井伊順彦
風濤社
2014年1月 初版第1刷発行
341頁

 

 

羚羊(かもしし)とはカモシカの古名を表すそうです

 

時代は第一次世界大戦後
イギリスのある穏やかな村に暮らすベリンダとハリエットのビード姉妹
ともに50代、独身、オックスフォード大学出身
とくに仕事はしていないようですが住込みの使用人を一人雇い、ゆとりある日々を送っています
性格はずいぶん異なり、姉・ベリンダは内気、妹・ハリエットは活発です
大学の同窓生で地元教区の大執事で妻帯者のヘンリーに30年来ひそかな恋心を抱いているベリンダ
若手副牧師を可愛がり異性との微妙な関係を楽しむハリエット

そんな姉妹を中心にした中流教区民の日常生活を淡々と且つ生き生きと描いていきます

ピムお得意の、機知、諧謔、皮肉が満載

 

我が人生を振り返るベリンダの内面を描いた部分には名言ともいえる表現がされています
庭いじりをしながら、ヘンリーが自分ではない女性を選んだことを思い出します

あの年の冬はとくに寒く、霜のせいで枯れてしまうのではと心配だった。だがムラサキナズナは生き延び、花を咲かせた。植物だって苦しみに何度も耐えているんだ。そう考えるとほんとにすばらしい。すばらしいといえば人間だってそうだ。自分も二十五歳のときに心を傷つけられたけど、時とともに立ち直ったじゃないか。奴隷は自分を縛っている鎖に愛着を覚えるようになるとかなんとか、かつてロチェスター伯爵が述べていた。我が国の一流詩人たちなら、悲しみのせいで死ぬことはない不幸な恋人を取り上げて、たくさん作品を書いているはずだとベリンダは思った。ただもちろん、悲しみゆえに命を落とせばもっと恋物語にふさわしいけれど。ともあれ人間の胸には汲めども尽きぬ希望の泉がある。だから生きていられるのだ、不幸せな場合も多いけれど。

こんなことを考えた直後、自宅へ向かってくる男性に気づいたベリンダが作業着姿を見られたくないと焦っている様は喜劇的で読者にはよい息抜きになります

 

人生は悲喜交々、日常の風景を描く中に人生哲学が散りばめられています

 

 

 


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