日本経済新聞出版社
2011年12月 第1刷
284頁
第3回日経小説大賞受賞
満場一致で選ばれたそうです
2009年、イギリス・コッツウォルズ
醸造メーカーのバイオ事業部に勤務する縣は種苗会社のM&A調査中、田園地帯でレンタカーが故障、困っていたところを助けられた家で英国軍人が書いた手記を手渡される
本書は手記が3/4、現代の縣が1/4で構成されています
手記には、幕末、生麦事件直後の横浜にやってきた軍人と彼の日本語教師、武家育ちの女性・ユキの悲恋が描かれていました
初めて会った時から惹かれあっていた二人ですが
軍人が横浜にやってきたのは幕府の軍事情報探索のため
はっきりとは描かれていませんが彼女が軍人に近づいたのは彼の動向を探るため
英国軍が江戸を攻撃するという噂が広まり軍人には暗殺の影が忍び寄ります
追っ手から逃れるため二人が野いばらの茂みに身を潜める描写があります
息詰まるような緊迫感と野いばらの香り
本書のカバーには群生した野いばらの写真が使われているのですが、まるで奥に二人がいて、じっとこちらを見つめているような気がしてきます
幕末の社会情勢や外国人の見た江戸時代の日本人の美意識、美徳といったものも描かれており勉強にもなる、清潔感に溢れた大人の恋愛小説でした
現代に生きる縣が、手記を読んだことで、自分の生き方を顧みて新しい一歩を踏み出そうとするところで物語は終りますが、彼に関する部分はやや面白みに欠けたのではないでしょうか
それと、手記の前半に「ユキが生きていれば」という件があります
おそらく暗殺騒ぎの後、自害したか軍人を匿ったことで切り捨てられたかだろうとは思うのですが読者には、まだ二人の置かれた状況の厳しさがそれほど伝わらない段階で「ユキが生きていれば」という文言が出てきたのは、興ざめでした
本作に関しては細かい部分を論えば不満は残りますが、今後に期待したい作家さんですね
悲恋と白く可憐な野いばら。そして時の流れ・・・。
舞台背景もバッチリでした。
異国人との悲恋はよくある話かもしれませんが、当時の人の忍耐強さとか人としての資質の高さから、悲恋がより高潔なものとしてこちらに伝わってきますね。
過去の話だけでなく現在への繋がりを描いたのも良かったです。
梶村さんの次作、調べましたら既に出版済でした!
本作と同じように胸に迫ってきそうな恋愛小説みたいです。
近いうちに読みたいな♪