編=池内紀、川本三郎、松田哲夫
新潮文庫
2014年9月 発行
481頁
1914年以降10年間に書かれた中短編小説集
荒畑寒村「父親」
著者の実体験が基になっている作品
社会主義運動に関わり監獄に入ったりしている息子の暮らしぶりを70歳に近い父親の視点で描いています
100年ほど前の吉祥寺駅近辺がまるで田舎なのには驚かされます
森鴎外「寒山拾得」
中国の説話を下敷きにした作品
森鴎外の力量を再認識しました
佐藤春夫「指紋」
イギリスに渡りアヘンを覚えて帰国した「R・N」
常軌を逸した彼の言動に振り回される「私」
幻想味の濃い探偵小説です
谷崎潤一郎「小さな王国」
尋常小学校五年のクラスが一人の転校生によって思い通りに動かされていく
独裁政治の恐怖を描いています
宮地嘉六「ある職工の手記」
著者の少年時代の体験が基になっています
父の再婚の後、家を出て佐世保の海軍工廠で職工となる少年の成長物語
私小説ともいえるかもしれません
車谷長吉さんを思い出す部分もありました
芥川龍之介「妙な話」
海軍将校の若い妻が体験した奇妙な出来事をその兄が友人に語る
病んだ精神から産まれた都会の怪談、怪奇幻想小説です
内田百「件」
人偏に牛、人と牛の合体
死の後、件に生まれ変わった男を描いた夢物語
夢は夢として読むのが良いでしょう
長谷川如是閑「象やの粂さん」
象使いという珍しい仕事をしている男
子供の様に可愛がっていた象が死んだ後、腑抜けのような生活をしていたが、ひょんなことから再び象の世話をするようになる
市井に生きる善良な人間を描いています
宇野浩二「夢見る部屋」
働きもせず終日部屋に寝転んで空想を膨らませる男
今なら「高学歴ニート」、高等遊民と呼ばれる身分にある男の他愛ない日常にふとしのびよる狂気にぞくりとなります
稲垣足穂「黄漠奇聞」
国も場所もはっきりしない
おそらくは中東アラビア半島あたりか
砂漠の中に立派な都市を建設した王が本物の三日月を旗じるしに捉えたいと望んで努力を重ねていきます
神話に始まる壮大な物語の一部
大正時代にこのような物語が読まれていたとは知りませんでした
江戸川乱歩「二銭銅貨」
結びは乱歩
事件の謎、暗号の解読、意表をつくドンデン返し
推理小説と同時に楽しめるのが、細かく描かれる外から聞こえてくる音や室内の様子です
大正という時代が映像として目に浮かびます
このシリーズは発刊順に全巻読破予定!
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