読書と映画とガーデニング

読書&映画&ガーデニング&落語&野球などなど、毎日アクティブに楽しく暮らしたいですね!

高野史緒編「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない」

2011年12月14日 | アンソロジー

東京創元社
2011年9月 初版
278頁


全編、本邦初訳のうえ、現地語からの直接訳は初めてのことだそうです



科学技術の発達した遠い、あるいは近未来を描いた作品

オーストリア
ヘルムート・W・モンマース「ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)」/識名章喜訳
遠未来、宇宙のすみずみに布教したカトリック教会は、異星人やロボット、非ヒューマノイドの枢機卿たちをも含んだ教皇選出会議を行う
30回にならんとする投票の行方を、全宇宙が固唾を呑んで見守る
人類が優性、という空気が感じられるのですが、選ばれたベネディクト17世の後継者は意外にも…



ルーマニア
ナナ・フランツ「私と犬」/住谷春也訳
安楽死禁止法が出る数日前、この国で最後の尊厳死を迎えた息子亡き後の長い生を独りで生きてゆく男性の物語
生きてゆくことに疲れた男性、しかし簡単に死ぬことは許されず、診療所に通い続けるしかない

ロクサーナ・ブルンチェアヌ「女性成功者」/住谷春也訳
主人公はロボットの女性
現代に当て嵌めれば、名誉も地位も財産もあるバリバリのキャリアウーマン
人間との恋愛、結婚、しかし価値観の違いにより結婚生活が破綻へ

いずれも「孤独」を扱った作品です




現実の世界が直面している問題を取り上げた作品

ベラルーシ
アンドレイ・フェダレンカ「ブリャハ」/越野剛訳
ファンタスチカというより現実の物語
チェルノブイリ後に汚染地域に残った人々を描いています
ファンタスチカと現実の境界がいかに流動的なものか
福島を経験した日本はチェルノブイリから目をそむけるどころか、あの悲劇から少しでも多くのことを学んでいくべきなのです



スロヴァキア
シチェファン・フスリツァ「三つの色」/木村英明訳
スロヴァキアの国旗は白、赤、青
ハンガリーは白、赤、緑
この両者の間に起こった民族紛争を描いたもの

シチェファン・フスリツァ「カウントダウン」/木村英明訳
戦闘的平和団体がヨーロッパ十数か所の原発を攻撃対象にするIFもの
世界の終末が迫っていようと日常生活を送る者はいる

ソ連邦崩壊と9・11後の世界が直面する現実的な可能性を取り上げています


旧東ドイツ
アンゲラ&カールハインツ・シュタインミュラー「労働階級の手にあるインターネット」/西塔玲司訳
あるハイテク研究所で働く東独出身の男性のもとに今では存在しないはずの東独ドメインのメールが届く
しかも差出人は男性と同姓同名の誰か
相手を探し出すネットサーフィンの果て存在しないはずのサイトに辿り着いた男性
これは何かの罠なのか、それとも…

政治警察の支配した恐怖の社会主義体制の過去の亡霊
本当に亡霊なのでしょうか




現実の世界から離れてもうひとつの世界を構築しようとする作品

チェコ
ミハル・アイヴァス「もうひとつの街」/阿部賢一訳
もう一つの夢幻的プラハの並行世界を描いたもの
長編の部分訳ですが十分楽しめます



ポーランド
ミハウ・ストゥドニャレク「時間はだれも待ってくれない」/小椋彩訳
カトリックの万聖節(ハロウィン)に現在のワルシャワと重なって既に失われた過去のワルシャワが現れる
時間が流れ去るのではなく重層的に積み重なってゆくというヨーロッパ的な歴史感覚が描き出されている




ハンガリー
ダルヴァシ・ラースロー「盛雲(シェンユン)、庭園に隠れる者」/鵜戸聡訳
いわゆる「中国もの」
かつて竜たちが数千年間殺しあった土地に作られた麗しい庭園の所有者である公のもとにやってきた男
彼は、誰にも見つかることなくこの庭園に一日隠れていることができると言う
やがて、一年でも十年でも、公の一生の間でもこの庭園に隠れていることができる、とも…



ラトヴィア
ヤーニス・エインフェルズ「アスコルディーネの愛-ダウガワ河幻想-」
帝政ロシア時代
ある日突然、正体不明の船がダウガワ河に現れる
水底から誘う女、秘密を隠した地下室、水棲生物に変身する男
複雑に重なりあう幾つかの物語




時代や国を問わず、いつでもどこでも成り立ちそうな寓話

セルビア
ゾラン・ジヴコヴィッチ「列車」/山崎信一訳
名門銀行の上級顧問ホートーニン氏は、ある日、仕事で乗った列車で神と出会う
神はホートニン氏にある問いかけをするのだった





政治的にみた東と西の境界
キリスト教のカトリック圏と正教圏の境界
民族、言語、宗教などの面で実に多用で、さまざまなものが交錯する地域であった東欧独特の現実と幻想の境界の匂いがぎっしりつまっています

あまり一般受けしないであろう本書
大切に持っておきたい一冊です




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12/11 京都 | トップ | 小川洋子 河合隼雄 「生き... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

アンソロジー」カテゴリの最新記事