岩波文庫
1985年4月 第1刷発行
2001年10月 第6刷発行
解説・寺田透
461頁
日露戦争の数年後
福井県丸岡町の農村に暮らす小学一年の高田良平少年が中学一年になるまでの日常と成長を描いています
高田家は格のある家柄ですが、長男・大吉の学費を稼ぐため両親と二人の妹は朝鮮半島へ行っています
大吉は中学の寄宿舎に入っているため丸岡の家では祖父母と良平の3人暮らし
家にくるお坊さんの話、祖父のところに何かと相談にやってくる大人たちや祖父に連れられて「お呼ばれ」に行った折に聞きかじる大人たちの話
解らない言葉も多いのだけれどそれなりに噛み砕き、良平なりの解釈をします
それは、全く見当はずれでもなく、しっかりした考えを持った頭の良い子供だということがわかります
祖父母に育てられていても甘やかされることもなく、家の手伝いも一人前にこなします
おばばに頼まれて素直に「あい」と返事をしてすぐ仕事に取り掛かるところなど、当時は当然のことだったでしょうが、「偉い子だねぇ」と感心します
でも、まだまだ子供
体調不良で参加出来なかった左義長を子供二人でやろうとして火事騒ぎを起こし、大人たちを慌てさせます
周囲に火が移らないよう水の用意もしていた良平には悪いことをしたという意識はありません
「あやうく燃え移るところだった」という大人たちですが「そんなことは絶対ない」と思っています
頭を下げてその場は治まります
強く叱責されたわけではありませんが、やはり納得できない良平
こんな小事件を繰り返しながら少しずつ成長していく良平少年でした
中学に入学し、自分の育った村と「町」の違い、自分とは違う価値観を持つ人間の存在を意識し始めるところで物語は終わります
福井の方言
おばばの昔話や思い出話
子供たちの遊び
大人の会話から伝わってくる伊藤博文暗殺、朝鮮併合、明治天皇崩御などの史実
明治の田舎の暮らしが豊かな言語表現で丁寧に描かれていて飽きずに読み終えることが出来ました
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