キム・ギドク監督の新作は、ベルリン国際映画祭金獅子賞を獲得したこの作品。
主人公のガンド(イ・ジョンジン)は、生後すぐに母親に捨てられ天涯孤独な環境で育ち、情けのかけらも表さない鬼神のような借金取立屋となっていた。高利貸しからの借金を返せない相手のところへ行って、「障碍者になって保険金で支払え、死ぬと保険が面倒だから死ぬな」と言って、工作機械に腕を挟んだり、ビルの屋上でなく途中の階から飛び降りさせたり。
そんなガンドの前に母親だと名乗る女(チョ・ミンス)が現れる。「母親はいない」と冷たくあしらうガンドだが、じっと玄関の外で待ち、債務者の追い込みにもついてきて、勝手に食事の準備をする女に、ガンドは少しずつ人の温もりを感じていく。
「本当に母親かも」という気持ちを疑心暗鬼ながら持ち始め、共同生活を始める2人。一緒に外出したときには、外食をして買い物を楽しんで、ガンドは初めて家族の温もりを知る。セーターを編む女の姿に母の愛を感じ、借金の取り立てもかつての厳しさが影をひそめていく。赤ちゃんが生まれて、家族のために腕を潰して保険金を手に入れようとする若い父親に対して、赤ん坊にギターを弾いてやれ、とこれまでにない言葉をかける。
しかし穏やかに見えた日々は続かない。突然女はガンドの前から姿を消し、携帯電話の向こうから「助けて!」という叫び声が聞こえる。ガンドは必死に母を捜し、かつて借金で追い込んで障碍者にした相手を尋ねて歩くが見つからない。そこへ、かつて債務者を飛び降りさせたビルに母がいるとの連絡が入り。。。
ソウルの発展からポツンと取り残されたかのような清渓川地区、家族でやっているような小さな工場が密集し、工場の入り口や細い路地にも部品や半完成品の在庫が溢れる様子は、ちょっと現代の日本にはないような感じ。日本なら、もうちょっと工場が大きいか、あんなに大きな旋盤などの工作機械は導入していないかのどちらかだと思うけど、高度成長期にはあんなところもあったのでしょうか。「漢江の奇跡」を支えたひとつなのかもしれないけれど、サムスンやヒュンダイと比べると歪な姿だと思います。
韓国映画全般に感じることですが、暴力シーンでスクリーンから伝わってくる痛さは、この映画でもバンバン伝わってきます。工作機械に腕を挟んだり、折れた脚をさらに踏んだり蹴ったりして痛めつけたり。ラストシーンで朝靄の中、軽トラックの軌跡で赤い帯が道路に続くところは、何が起きているか考えるとおぞましいんだけど、映像だけだと直接的な衝撃が少ないのが救いです。
女の息子に対する愛に飲みこまれて、ガンドが感じた母への愛が唯一のものだったからこそ、ああいう結末でけりをつけなければならなかったのでしょう。
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7/6 渋谷ル・シネマ
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