05/01 私の音楽仲間 (386) ~ 私の室内楽仲間たち (359)
泣きぬれて戯る
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
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泣きぬれて戯る
全7部から成る、Beethoven の弦楽四重奏曲、嬰ハ短調。
中央に位置する第4部はもっとも長く、9つの部分から
成っています (これと異なる解釈もあります)。
変奏曲の形を取っていますが、基本となっている調は、
明るいイ長調。 次のように始まります。
[譜例 ①]
テーマを形作るのは、3つ、あるいは4つの音符から成る
モティーフ。 単純な上下動が印象的です。
この上下動は、あるときは5音符、4音符となり、また時に
は、フレーズ全体の特徴的な形にもなります。 動きは、逆
に "下上" に変わることもあります。
長大な第4部が、やっと終るかと思ったとき、このテーマ
が突然、原形で現われます。 ただし、ハ長調で。
「これは何だ! あれよ、あれよ…。」という間にテンポ
が上がり、Vn.Ⅰ は、さらに細かく動き始めます。
[譜例 ②]
やがてテンポが治まると、調は基本のイ長調に。
テーマは、今度は Vn.Ⅱ、Viola が奏でます。
そして、Vn.Ⅰにはトリルの嵐が!
トリルは、上下動の連続です。 また最後の2つ
の32音符も、「はっきり弾くんだよ?」 そう作曲者
が言っているようです。 "Do# Si Do#" は、大事な
"下上動" だからです。
チェロに聞かれる分散和音は、これまでほとんど
現われなかった形。 続く第5部、第7部では重要
な役割を果たします。
第4部は雰囲気が明るく、深刻なところは一切
ありません。 自由な戯れを思わせます。
でも、この殺人的なトリル、何とかしてほしい。
私の眼は白黒。 戯れるどころではありません。
激しく複雑に上下するのは、楽譜を追う眼球です。
そして、いつしか涙眼に…。
これ、眼精疲労? それとも、悔し涙?
われ泣きぬれて、トリルと戯る…。
ボク、まるだよ? ワン! 本当は「蟹とたはむる」だぞー!
[演奏例の音源]は、[譜例 ②]の4小節前 (9/8拍子)
から始まり、第4部の最後までです。
ちなみにこのテーマ、本当は最後にもう一度、ヘ長調で
出て来るのですが、その前後をカットしてしまいました。
Beethoven さん、お赦しください。
[音源ページ①] [音源ページ②]