MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

大船に乗った気分で

2011-01-30 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/30 私の音楽仲間 (249) ~ 私の室内楽仲間たち (223)


            大船に乗った気分で




            (ャ)ィコーフスキィ

      弦楽六重奏曲 "Souvenir de Florence"




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



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               ④ "6" の魔力
               ⑤ 血を吐く苦しみ
               ⑥ 作曲者にも慰めを…
               ⑦ 劇場と激情の間
               ⑧ 信頼の結実
               ⑨ 理性と魂
               ⑩ フィレンツェの密会?
               ⑪ ウクライナの邂逅
               ⑫ 鋭敏な魂
               ⑬ 躍動と沈潜
               ⑭ 大船に乗った気分で





           [音源ページ




 「テンポの速い曲は難しい…。」 どんな楽器でも
言えることですね。

 またこれが、歌や管楽器など、呼吸と密接な関係
にある演奏分野になると、「遅い曲も難しい。」 息が
持たないから、当然でしょう。



 ところが同じことは、弦楽器でも言えるのです。 "呼吸"
とは、直接関係が無いように見えますが。

 ここでも、「長い音を効率良く」作り上げねばならず、
"弓と弦との接点" が問題になります。

 ここが "滑り気味" になると、その影響は "呼吸" や
"聴覚"、"注意力全般" にまで及んできます。




 対策として、「弓に松脂をたくさん塗る。」 「手先や右腕で
弓の角度を調節すればいい。」 …ところが、そうは行かない
のです。 私の場合は、楽器の構え方全体を、絶えず修正
せねばなりませんでした。

 松脂と言えば、今はほとんど塗りません。 せいぜい "10日か2週間に
一回" でしょうか。 お蔭で弓の毛替えも、ここ何年かやっていません。
他に○秘作業もあるからですが。


 何だか変な事を口走っていますね…? 横道に逸れてしまいました。




 また楽器の構え方によっては、自ら "呼吸しにくい姿勢" に
なってしまうこともあります。 呼吸が出来ないために、腕など
の運動が窮屈になるのです。 先ほどとは、ちょうど逆の順序
で悪影響が生じる例です。




 これがアンサンブルになると、事態はさらに複雑になります。
互いに足を引っ張ることもあれば、援助の手を差し伸べ合う
こともあります。

 私が今回体験したのは、後者の方。 お蔭で、目から鱗が
落ちるような経験をすることが出来たのです。



 メンバーは、Violin が私、Uさん、Viola SaさんOさん
チェロが SuさんIkさんです。




 ご覧いただく譜例は、この六重奏曲の第Ⅱ楽章の一部です。

 (ただし原曲どおりではありません。)



 冒頭の荘重な序奏に続き、ViolinⅠが歌い出します。 前奏
が1小節あり、Violin、Viola のピツィカートが、全体のテンポ
を決めます。

 このリズムは、一貫して流れ続けます。 恐らく、ギターの
若き達人、ヴィットリオを思い描いて作曲したのでしょう。

          関連記事 『⑬ 躍動と沈潜



 (この譜例では、途中で省略部分があり、チェロが引き継ぎます。)







 とても歌心に満ちたメロディーですね。 ただ、いい気分に
なって酔しいれてしまい、勝手にテンポを揺らし過ぎると、
"伴奏" を担当する者は "いい迷惑" です。 歌いながらも
正確さが求められるのです。



 でもそれが簡単ではないことを、よくご存じの Saさんは、
「私たちが合わせますから…」と、いつも言ってくれます。

 しかし、"走るクセ" のある私としては、 「"勝手にテンポを
動かす" のを何とかして避けたい」と思い、「In Tempo の枠
の中で歌う」注文を、自分にも課しています。




 もし貴方が、アンサンブル経験の豊富な方でしたら、すぐ
お解りですね? きっと私に忠告してくれるでしょう。

 「伴奏の、細かい音符を、よく聴きなさい!」と。



 ところが、これが大変 "聞こえにくい" ことが多い。 この
ピツィカートは "p" と書かれているので、どうしても遠慮勝ち
になりやすいのです。




 ちなみに、このピツィカート奏法も、どちらかと言うと "走る"
傾向があります。 それは誰でも意識しているだけに、逆に
慎重になり過ぎてしまうことも…。

 メロディーを担当する私にもその意識があるので、今度は
音楽全体が流れなくなってしまいます。



 これは "指ではじく" 奏法なので、発音の瞬間が勝負! 音
が持続しにくいので、かなり強めに、はじかねばなりません。

 と言って、乱暴な音になってもまずいし…。 これにも、弓で
弾くのと同じぐらい重要な "ノウハウ" があります。



 また、大きめに綺麗な音を出してもらったとしても、まだうまく
行かない場合があります。 自分が大きな音を出すと、相手の
音が聞こえなくなりやすいから! 普段から透明な音質を出す
よう、心がけていないと駄目なのです。




 以上の手段を尽くし、それでも相手の音が聞えないときは、
一体どうしたらいいのでしょうか?

 「相手をよく視なさい!」 そのとおりですね。



 これが、弓の "上下左右の動き" を見ればいいのなら、
かなり助けになります。

 しかし、ここはピツィカート。 「手指の動く範囲が小さめ」
なので、よほど眼を凝らしていないと、音符1個分ぐらいは、
簡単にずれてしまいます。



 …というわけで、ここは私にとって、大変しんどい箇所なの
です。 一人で弾くなら一杯気分。 いいご機嫌でやれるの
ですが…。

 この日も、かなり緊張気味に弾き始めました。




 ところが、どういうわけか弾きやすいのです。 とても!



 三連符のピツィカートの聞こえ方は、いつもとそれほど
変わりません。 「メロディー パートが弾き易いように…」
と全員が、努力してくれている様子は、相変わらず、痛い
ほど伝わってきます。

 私が楽だったのは、ここで演奏している、もう一人の方
のお蔭でした。




 ご覧のとおり、ここではチェロⅡもピツィカートをやって
います。

 こちらは、拍の頭。 私には、この "大きなリズム" が
この日、しっかり聞えたのです。



  


 考えてみれば、三連符は「聞こえにくくて当たり前」。
でも私は、このチェロのリズムに乗っていさえすれば
いい! そのことに今更のように気付くと、大変安心
して弾くことが出来ました。

 チェロⅡさんは、私よりも、全体がよく聞えている
はずです。 三連符のリズムを私に伝えてくれたり、
またもし微妙なズレがあっても、きっと間に立って、
聴きながら全体に合わせてくれているに違いあり
ません。



 それ以上に大事なのは、音を出す前の動作です。 一拍目
にピツィカートがあるなら、身構えるために、直前の三拍目の
辺りで、何らかの動きがあるはずです。




 …予め、次の一拍目のタイミングがこちらに解る! それも
身体全体の動きで!

 それは、まさに指揮者の役割です。 お蔭で、私の心理的
負担が大幅に減ったこと、よくお解りいただけるでしょう。

 ちなみに駄目な指揮者からは、"事前には" 何も伝わって
来ません。 "予測を裏切られる" 経験を、私も何度したこと
でしょうか。



 この日、チェロⅡを担当した Ikさん、決して「全体を指揮
しよう」…などと思っていたわけではないでしょう。 しかし、
演奏者自らが音を出すための、一連の準備動作は、指揮
と同じような役割を果たしてくれることがあります。



 全体が、"自然な動き" であれば。

 それこそが、まさにアンサンブル! "音を出す前" が、
問題なのです。




 全曲が終り、Ikさん始め、全員にお礼を伝えたことは
言うまでもありません。

 「とても弾き易かった。 みなさん、ありがとう!」




 突然ですが、ここでカラオケ コーナーです。

 以下のメロディー パートを口ずさみながら、音源と一緒に
演奏してみてください。 (貴方のパートは、実は "かすかに
聞こえる" ようになっています。)



 音域や、多少の音程のズレなど、どうでもいいのです。
それ以上に、リズムとアンサンブルが問題です。

 伴奏からは、三連符が終始聞えています。 ところが
貴方のパートには、二連符 (八分音符) や、四連符 (十六分
音符)
まであります。



 と言っても、細かい音符同士のズレを一々意識する
必要はありません。 却って難しくなります。 三連符を
聴きながらも、先ほどのチェロⅡの奏でる、大きなリズム
に乗るように心がけてください。




 貴方の今回の相手は、私のパソコン ソフト君なので、
一切、テンポは妥協してくれません。

 ソフト君と一緒に歩くことが出来て、慣れてきたら、音源
の音量をだんだん絞ってみてください。 それでも正確に
演奏できたら、貴方はアンサンブルの達人です!



 伴奏がほとんど聞えなくなったら、どんなに心細くなる
ことか…。 お解りですね…。







        
[この部分のカラオケ