MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

フィレンツェの密会?

2010-10-16 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/16 私の音楽仲間 (220) ~ 私の室内楽仲間たち (194)

            フィレンツェの密会?




   この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。

         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



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               ⑧ 信頼の結実
               ⑨ 理性と魂
               ⑩ フィレンツェの密会?
               ⑪ ウクライナの邂逅
               ⑫ 鋭敏な魂
               ⑬ 躍動と沈潜
               ⑭ 大船に乗った気分で




     足もとにいとしいフィレンツェが

       横たわっている素晴らしさ、

         そしてあなたのおそばにいるのだ

           という意識を楽しみました。

      フィレンツェ周辺の風土の何といとしいこと!

                  (ャ)ィコーフスキィ



              (『音楽家の恋文』、クルト・バーレン著、
                    池内紀訳、1996年西村書店
)




 1878年10月、38歳のチ(ャ)ィコーフスキィは、モスクヴァ音楽院の
教授職を辞任します。 もちろん作曲活動に専念するためでした。



 そして、一時期はペチェルブルクに居を定めたものの、やがて
頻繁な旅行生活が始まります。 それはむしろ "放浪" と呼んで
もいいほどのものでした。

 これまでにも、ベルリンなどドイツ、またヴィーン、ジュネーヴ、
パリ、リヨン、ニ―ス、ローマ、ヴェネツィアなどを訪れてはいま
したが、外遊の頻度はさらに増していきます。



 そのお気に入りの地の中に、フィレンツェがあります。




 初めてこの地を訪れた1877年11月は、旅の途中に立ち寄り、
二泊ほどしただけでした。 しかし以来、1878年2月、11月、
1881年2月、11月、1882年3月と頻繁に訪れています。



 ただ、この後は8年間の空白があります。

 作曲者は、モスクヴァ音楽院の教職を、すでに離れていま
したが、その後、作曲家としての名声が国の内外で急速に
高まります。

 その彼が、故国ロシアで放っておかれるはずはありません。
もはや国民的な英雄として扱われることになります。



 1884年には、すでにロシア "定住" を決意していました。
さらに翌年2月には、ロシア音楽協会モスクヴァ支部の
理事長に推されるなど、またしても国内の多忙な生活が
始まります。 その後 1891年のアメリカ旅行などはある
ものの、国外に出る頻度は、これを機にかなり少なくなっ
てしまいます。




 その後、最後にフィレンツェを訪れたのは1890年1月ですが、
それはモスクヴァの気ぜわしさを避け、作曲に集中するため
で、ホテルに2か月間もこもりっ放しでした。

 この地では歌劇『スペードの女王をほぼ完成するとともに、
六重奏曲 "Souvenir de Florence" の構想を固めることに
なります。



 この曲は、通常 "フィレンツェの思い出" と訳されています。
もちろんイタリア的な調べも聞かれますが、ロシア的な雰囲気
が感じられる箇所も多く、"フィレンツェの手土産" と呼びたく
なるほどです。

 しかし、第Ⅱ楽章のギターの爪弾き、第Ⅲ楽章中間部の
跳ね回るようなリズム、終楽章の明るい壮大な響きからは、
確かにイタリアの歌、踊り、空が感じられます。




 前回は、第Ⅰ楽章の二つの主題の関連をお読みいただき
ました。 リズミカルできびきびした第一主題と、ゆったり歌う
第二主題です。

 これは私の勝手な印象ですが、最初の主題からどうしても
感じてしまうのは、モスクヴァなど、都会での忙しい生活です。
それを表わそうと意図したわけではないのでしょうが。



 しかし第二主題の歌は、まさに作曲者の安らぎではないで
しょうか。 美しいメロディーも、また息の長いフレーズも、聴く
者に、「この憩いがずっと続けばいいな…」と感じさせます。

 冒頭でご覧いただいたのは、作曲家が手紙に記した文章
です。 フィレンツェの地への愛着が窺われますね。




 さて、この文には、「あなたのおそばにいる意識を楽しんだ」
とあります。 これ、誰のことなんでしょうか?

 親称ではなく、敬称で書かれているはずなのですが…。



 書簡と言えば、誰でもすぐ連想するのが、例のフォン・メック
夫人
です。 でも二人の間には、「生涯顔を合わせない」という、
固い契約が交わされていました。 彼女であるはずはないので
すが、それとも裏で二人は約束を破っていたのでしょうか?



 では、秘密の女性? あるいは、「女性に対しては恋愛感情を
持てない」と口にした作曲家ですから、同性の恋人でしょうか?




  (続く)




 以下の音源などは、すべて前回と同じものです。



    [音源ページ




     





  






         譜例 ①~③部分の演奏例]


     上記のテーマを中心に連続編集した音源で、鑑賞には向きません