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音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生 』

2009-02-21 08:37:48 | 映画・ドラマ・音楽
昔、「じじい」とか「せんぱい」なんてあだ名で呼ばれていたクラスメートが、中年になって同窓会に出たら、あまりにそのまんまなので吃驚されるということがあります。老け顔の人って、年くっても意外と変わらないものなんですが、かように「相対的に若返る」というのはありえると思います。

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生 』を観て来ました。不思議な御伽噺なんですが、妙なリアリティーがあって違和感を感じませんでした。それは何故かと考えてみたんですが、男と女の関係性において普遍的なものを描いているからなんですね。

一般的に女子の方が発育も早くマセていますから、男子は幼・小・中と常にリードされています。夜中に蝋燭の灯でこっそり遊ぶシーンで、少女のデイジーは堂々としてあっけらかんとしていつのに、「少年」のデイジーはおどおどとして落ち着かない風情です。

10代後半から20代前半は女性の黄金時代です。特に私の場合はバブル期だったので、顔のいい女の子は年上のバブル紳士やヤンエグと呼ばれる社会人に流れる傾向が強く、同世代の男子はお呼びじゃないという感じでした。「世界は自分の手の中にある」という全能感でブイブイいわせている娘だけでなく、ごく普通の女の子でもちょっとどうかと思わせる人も少なくなかった。今も昔も、若い女性だけをやたらとチヤホヤする男性や社会の方にも責任があるとはいえ、同じ時間帯で合コンを平気で掛け持ちしたり、私も結構コケにされた経験を持っています。

デイジーは美貌に加え、バレエダンサーとして評価されていたわけですから、それはもう大変な鼻息です。公演を観に行き楽屋で花束を渡そうとしたベンジャミンに「なんで予め連絡しなかったの」みたいなことをしきりに言うシーンが印象的です。こういう女王様時代は自分中心にまわっている世界のペースを乱されるのが嫌なんですね。ベンジャミンはただ幼馴染みをびっくりさせようとしただけなんですが・・・。レストランで静かに旧交を温めようという提案を蹴って、芝居がはねた後、デイジーはパーティーの方に誘います。そのパーティー会場でベンジャミンは立ち尽くしちゃうんですね。デイジーに恋人と思しき男性がいたということよりも、絶頂期の女性が放つオーラに圧倒されてしまうのです。その後に思わせぶりなモーションがあるのですが、すっかり気圧されてしまったベンジャミンは「ゴメンナサイ」状態になります。

要領のいい女子は推薦入学で大学に入り、またはさっさと短大出てOLになって、おぢさんたちに美味いものを奢ってもらい、休日は海外旅行三昧。それを尻目に男子はというと、受験でモタモタ停滞したりして、タメの女子とは周回遅れになっています。就職後も怖い上司の手前、しばらくは帰れず休めずと雌伏の時期を過ごします。ベンジャミンも10代から20代にかけては、家を出て下働きの船員となり、戦争の修羅場まで経験する修行の時代です。モスクワで不倫してソッチの方も鍛えられますが。。しかし一方で、ダンサーとしてこれからという時に、デイジーは交通事故により一瞬で夢破れ人生が暗転します。

男性は経験を積んだ20代後半から仕事に余裕が出てきて、30代は結構溌剌としてくるものです。肩の力もほどよく抜けてガツガツしないので、私の周囲の妻帯者で遊んでいる人はたいて年下の彼女がいました。ポジションによっては交際接待費の枠を結構持っていたりするのです。ベンジャミンは実の親父がカミングアウトしてくれて遺産を相続したので、金も暇も体力もあって、加えてルックスは世界一美しいといわれるブラピ様ですから、それはもう最高の状態になっています。

女性の方は20代後半から以前の元気がなくなります。10年前に掛け持ちを理由に合コンを早退した同一人物が、特に誘っていないのに3次会まで付いて来たなんていう実話もありました。この時期いささか弱気になるのか、綺麗だった人ほど顔のしわや白髪や体型などを過剰に気にしていたような気がします。外から見たら、さほど容色の衰えを感じないのですが、そんなことを思う私は根本的に女心がわかってないんでしょうね。出産した女性は子育てで家にこもるため、会う機会もなくなります。

そして女性陣は子どもの手が放れた50代前後くらいから「復活」してきます。非常にポジティブになり、輝いている人が増えてくるような気がします。保守的な男性と違って進取の気性に富み、文化的な面や地域の活動などでも精力的に取り組んでいくので、中高年リストラや定年退職で一気に失速し元気を失くす男性は、またもや置いていかれることになるのです。私はバレエ教室を主宰して子供達を教えている50代のデイジーが一番美しいと思いました。若い頃のギンギンギラギラから一皮二皮むけて熟成した何ともいえないしっとり感が出ています。

その後は、長門裕之・南田洋子夫妻のように、ボケちゃって子どもになった奥さんを夫が介護する老後もあるし、勿論その逆もあるでしょう。

こうしてみると、映画では年月に逆行して若返っていく男性と、普通に歳をとる女性の愛を描いていますが、現実の同年代男女の人生も決してパラレルではなく、シーソーゲームというか、あざなえる縄のようなものではないかと思うのです。ベンジャミンとデイジーが中間点で結ばれて一番いいときを過ごすのが1960年代ですが、このときお互いがアラフォーから40代に向かって交差していきます。最近私の周囲で40代前半の男性と少し下の女性というカップルの結婚が続いていることが頭をよぎりましたが、現代は男女がフィットする時期がそのくらいということなのでしょうか。

本作は壮大な大河ドラマです。私は娘のキャロラインと同じ歳で、ベンジャミンは死んだ祖父とほぼ同年代なので、色々と胸に去来するものがありました。アメリカの現代史に造詣があれば、もっと深く鑑賞できたかもしれません。お金も時間もふんだんにかけてつくられたであろう映画ですが、果たしてオスカーとれるでしょうか。ノミネートから漏れていますが、個人的には『レボリューショナリー・ロード』の方が深いと思いました。アカデミー賞授賞式は2日後に迫っています。



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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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TBありがとうございました (なな)
2009-02-21 23:25:01
とっても好きな作品です。
アカデミー,たくさんとってほしいです。
そういえばもう二日後かぁ・・・・
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コメント・TBありがとうございました (音次郎)
2009-02-24 02:57:07
>ななさん、ありがとうございます。
助演女優賞は有望かと思っていましたが、残念でしたね。
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