「親学」のすすめ

またしても教育再生会議が笑わせてくれました・・・。

「親学」は、親も子育て学習をする必要がある、との認識から一部の保守系有識者が提唱している考え方。子育ての知恵や文化を伝えることが主眼で、再生会議では１７日の同会議第２分科会（規範意識）で提言を行う運びとなった。山谷えり子首相補佐官や池田守男座長代理らが概要をまとめた。（毎日新聞）

第２分科会の提言には、バックラッシュ派の論客である高橋詩朗（明海大学教授）がかかわっているらしいので、「徳目」とか反動的な文言が散りばめられているのはわかりますが、内容的には突っ込みどころ満載で、既にネットでも話題になっている代物です。

◇「親学」提言のポイント

（１）子守歌を聞かせ、母乳で育児

（２）授乳中はテレビをつけない。５歳から子どもにテレビ、ビデオを長時間見せない

（３）早寝早起き朝ごはんの励行

（４）ＰＴＡに父親も参加。子どもと対話し教科書にも目を通す

（５）インターネットや携帯電話で有害サイトへの接続を制限する「フィルタリング」の実施

（６）企業は授乳休憩で母親を守る

（７）親子でテレビではなく演劇などの芸術を鑑賞

（８）乳幼児健診などに合わせて自治体が「親学」講座を実施

（９）遊び場確保に道路を一時開放

（１０）幼児段階であいさつなど基本の徳目、思春期前までに社会性を持つ徳目を習得させる

（１１）思春期からは自尊心が低下しないよう努める

（毎日新聞）


諏訪先生の本ではありませんが、「父親力」とかいう類いはナンセンスです。子供は親の全人格を投影しているので、付け焼き刃でどうなるものではありません。

メディアも強調して報じていることもあって、母乳云々を中心に叩かれていますね。そもそも同会議内にも、「政府が押し付けることか」（学識経験者）と官製「家庭生活マニュアル」の作成を疑問視する意見が出ているようですが、中には「そうだよね」と同意できるものもあります。

この１１項目には、妙に具体的だったり、反対に抽象的でようわからんものも混在しています。（３）（４）（９）などは大いに結構だと思いますが、私が脊髄反射的に反応したのは、（７）と（１１）ですね。

たしかに現在の地上波ＴＶの劣悪さは首肯できますが、なぜ親子で演劇鑑賞？？

いくら教育再生会議の委員に浅利慶太がいるといっても、いささか唐突ですね。世界史的にも、その批評精神ゆえに教会にも敵視されたという「演劇」。学生運動華やかし頃も、中心にいる若者達は、一方的な情報しか流さないマスメディアに反抗し、自分達でメッセージを発表する手段を考え出したのが演劇です。アングラ劇場などは反骨精神のシンボルですから、ここにきて突然政府に奨励されて、当の「演劇」の方も困惑しているのではないでしょうか。

この提言は推測するに、昨今の給食費未納や子供の虐待・ネグレクトなどが問題になっていて、世の馬鹿親増殖に「有識者」が業を煮やした結果という側面もあるのでしょう。それにしても演劇鑑賞というのは、やけにハードルが高いなあと。

私は母が演劇好きで、市民劇場という会の会員だったこともあり、よく小さいときに連れられて芝居を見せられました。北村和夫主演の現代劇などが記憶に残っていますから、その回は文学座だったのでしょう。芝居を見て解釈するには、それが余程好きかもしくは相応のインテリジェンスが必要です。また「キャッツ」など人気の公演はチケットも入手困難で、場所も限られていますから、それを日常的に子供に観せてあげられるというのは、それだけで選ばれた人たちではないでしょうか。

浅薄の極みが（１１）です。「熱帯魚の水槽は○℃以下にするように努める」などというのと同じように、非常に軽く言っていますが、「自尊心」というのは、そんなに簡単に扱えるものではありません。第一「思春期からは自尊心が低下しないよう努める」というのは主語がはっきりしません。「親学」というからには主語は親ということになるのでしょうが、自尊感情の涵養は複雑で、親と子の関係性だけで語れるものではないでしょう。

鬱病というのは、この自尊感情の欠如からくるといわれています。この感情が全くなければ、人は何も行動することができませんから、とても大切なものです。よく日本的な「和」の精神と自尊心は併存できないと思われがちですが、根拠レスないわゆる「肥大化したプライド」と違って、真の自尊心を持つ人は、人の立場も尊重できるわけで、この辺りは掘り下げていくと、非常に深いテーマなのです。

教育再生会議の「有識者」たちには、いつも笑わせるだけでなく、たまには「なるほど」と膝を叩くような提言もしてほしいものです。