「中村橋之助改め八代目中村芝翫襲名披露」
「中村国生改め四代目中村橋之助 中村宗生改め三代目中村福之助 中村宜生改め四代目中村歌之助 襲名披露」
このたびの成駒屋襲名披露は、お父さまと息子三人揃ってという晴れやかにお目出たいもの。おのずとお祝いムードにあふれ賑やかな演目揃い、わたしの2年ぶりの歌舞伎座詣はお正月の気分にも似て厳かに青い空が晴れわたる昼公演だった。
はじまりは、『初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)』
三人兄弟の襲名を祝ってつくられた新作舞踊、長唄お囃子も溌剌と鳴り響き、照明もまばゆいばかり。さすがに息のあった三人兄弟は清々しく、お顔立ちや雰囲気こそ似ているものの舞はそれぞれに雄々しさを感じたり手の表情が優美だったり、個性が見えた。ご襲名おめでとう!
『女暫(おんなしばらく)』
襲名公演によせて、共演の役者も華やかだ。「女暫」の巴御前は芝翫の甥っ子にあたる中村七之助が務めている。父上である七代目芝翫さんが大好きだった演目だそう。10月は七代目の隠れ「追善」のようになっているそうで、そうすると孫である七之助が演じるということにもなり、家族で踏襲する歌舞伎という世界を実感した。美しくも威勢のよい巴御前が素晴らしかったし同時に七之助の貫禄も感じ、明らかに少し前の若手が中堅ベテランの域へと満を持していく瞬間だと思いを新たにする。
『お染久松 浮塒鷗(うきねのともどり)』
久松を尾上松也、お染を中村児太郎、女猿曳を尾上菊之助が演じ、華を添えた。
『極付幡随長兵衛(ばんずいちょうべえ)』
いよいよ此の度の主役登場。
役どころは、下級武士とはいえ刀は持たず武家屋敷に抱えられ雑用や力仕事をしていた町奴連中を束ねている親分というところ。幡随長兵衛は顔も広く人望も厚い実在した人物だったそうだ。男気たっぷりの長兵衛がとても合っていた。その板につきぶりは意外なほどで、声も重厚に低音がよく響いていた。橋之助さんといえば線の細い印象が長くあったので、さすが役者さんのお力拝見だった。
芝翫さんの登場が客席後方の扉からで、通路側に座っていたわたしの真横を場内方々にご挨拶をしながら颯爽と舞台へとお役に入っていかれたのはお披露目らしい演出だろうか。
演者さんの舞台とは別に惹かれたのは音、音楽。上手の高い位置にある御簾の向こうから聴こえてくる唄(大薩摩)と三味線の声色と音色が素敵で、お芝居を見る目を中断してうっすら透けて見えるそちらをたびたび見上げていた。力強い演目ゆえ唄はキーは低く聴き惚れる声、三味線は力強くベースのようにずんずん響いて魅了された。この低音の音色に出会うためだけに歌舞伎鑑賞するのでもいいくらい。
歌舞伎の愉しさを多々味わえた、またの機会が待ち遠しい。
佐藤可士和さんのプロデュースによる祝い幕。モダンシック。