全生涯で30数点の絵画を残したオランダ・デルフトの画家フェルメールの作品7点を含むデルフトの巨匠たちの絵画展が東京都美術館で開催されている。
ほとんどが室内画で床の大理石タイルの市松模様が「遠近法」を意識させる。隣り合った部屋の扉が開き隣室との関係性、空間の広がりを感じさせる。窓からの光が暗がりの中ににじむように拡がる唯一の光源として登場人物に立体感を与える。
フェルメールはその数少ない作品の中で色々な試行錯誤もあったのだろうが、「左上方からの光が差し込む室内」という舞台設定にたどり着く。
図学で影を作図する時、光は左上45度から当てる。単純な図形にその光を当てて作図したものを上下逆に眺めると図の凹凸が逆に見えてくる。左上なら自然で右下からだと不自然だと認識してしまうわけだ。
人間の頭に刷り込まれた、生理的にも、もっとも物質が立体的に見える理想の角度にフェルメールはたどり着いたわけだ。
そのもっとも得意とする背景の中であらゆる物語を一つの画面の中に封じ込め語り尽くす一つのスタイルが完成されている。
日本を代表する映画監督・小津安二郎が常にローアングルでとらえた日本家屋の中で、家族の情景を描きつづけたのと似ている。
ただし、もっとも印象に残った作品といえば、唯一例外ともいえる屋外の風景を描いた「小路」であった。
建物を画面と平行において真正面からとらえており、その外壁の質感が緻密なリアルさで描きこまれた中に配置された人物の生活感、特に二人の子供がこの絵画に見飽きない魅力を与えていた。