★★★★☆
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
主演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ
2006年 ドイツ
ベルリンの壁崩壊数年前の東ドイツ。国は市民の自由な行動や思想を厳しく規制し、互いに監視し合うことを奨励していた。 国家保安局シュタージのヴィスラー大尉は、危険分子を尋問するその手を決して緩める事のない完全な国粋主義者。
そんな彼が人気劇作家ドライマンの監視にあたる事になる。ドライマンは思想的に優秀とされながらも、うさんくささを感じ取った大臣によって要注意人物にあげられてしまったのだ。ヴィスラーはドライマンの家に盗聴器を仕掛け、昼夜問わず彼と恋人である女優クリスタの生活をただひたすら監視し続ける。
彼らの生活は、家族もなくただ国に忠誠を誓う孤独な中年男、ヴィスラーとはかけ離れたものだった。盗聴し、彼らの会話・行為の全てを記録し続けるヴィスラーの心にやがて変化が起こる・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
こんなにぐっときたラストは久しぶりでした。この映画はラストの、最後の台詞のためにあったと言っても過言ではない。
途中途中で泣かせる映画は沢山あるが、最後の一瞬で、見る人の感情を爆発させる映画はそう多くない。ドライマンの本の1ページに書かれた感謝の言葉に、孤独な中年男ヴィスラーが求めていたものがあった。(=人と関わって得る事の出来る人生の潤い)それを得た実感、この上ない至福の思いが集約されていた。今まで暗闇の中で生きて来た男の前で、光射す天国のドアが開かれた瞬間だった。
ドライマンは敢えて直接言葉をかけずにその著書に感謝の気持ちを託した。ヴィスラーが人知れず自分たちを守ってくれたように、自分もまた自分らしく思いを伝えたのか。
二人は互いに孤独を恐れる似た者同士であったのかも。(劇中、ドライマンはそう評されている)ヴィスラーの真意は分からずとも、彼に同類の匂いを感じたのでしょう。そしてそれを「これは私の本だ」と理解するヴィスラー。まれに見る秀逸なラストです・・・。
ドライマンらを初めて見た時から、特別視していたヴィスラー。当初はクリスタの美しさに心動いたのかとも思っていたが。
劇中、明確に語られる事はなかったが、おそらくはかつてヴィスラーも物書きまたは芸術関係への志があったのかもしれない。
自分の筋書き通りに、クリスタが政府高官の元へは行かず、ドライマンに戻った行為のいきさつをリポートされ、「いい文章だ」と悦に入る。
いつしか体制側に身も心も売り、忘れかけていたもう一人の自分を、ドライマンたちに重ね合わせていたのだろうか。
隣人同士が監視し合い、密告し合い、言論・表現の自由もなかった東ドイツにおける壁の崩壊の重みを、この映画によって再認識。上級高官らのモラルの低下に象徴されていたように、崩壊も必然だったのか。
どんな状況下にあっても、人と人との心の交流は存在する。当たり前の事が難しい時代にあって、霧が晴れたように二人の抱擁が実現したラスト。本当に見事です。
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
主演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ
2006年 ドイツ
ベルリンの壁崩壊数年前の東ドイツ。国は市民の自由な行動や思想を厳しく規制し、互いに監視し合うことを奨励していた。 国家保安局シュタージのヴィスラー大尉は、危険分子を尋問するその手を決して緩める事のない完全な国粋主義者。
そんな彼が人気劇作家ドライマンの監視にあたる事になる。ドライマンは思想的に優秀とされながらも、うさんくささを感じ取った大臣によって要注意人物にあげられてしまったのだ。ヴィスラーはドライマンの家に盗聴器を仕掛け、昼夜問わず彼と恋人である女優クリスタの生活をただひたすら監視し続ける。
彼らの生活は、家族もなくただ国に忠誠を誓う孤独な中年男、ヴィスラーとはかけ離れたものだった。盗聴し、彼らの会話・行為の全てを記録し続けるヴィスラーの心にやがて変化が起こる・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
こんなにぐっときたラストは久しぶりでした。この映画はラストの、最後の台詞のためにあったと言っても過言ではない。
途中途中で泣かせる映画は沢山あるが、最後の一瞬で、見る人の感情を爆発させる映画はそう多くない。ドライマンの本の1ページに書かれた感謝の言葉に、孤独な中年男ヴィスラーが求めていたものがあった。(=人と関わって得る事の出来る人生の潤い)それを得た実感、この上ない至福の思いが集約されていた。今まで暗闇の中で生きて来た男の前で、光射す天国のドアが開かれた瞬間だった。
ドライマンは敢えて直接言葉をかけずにその著書に感謝の気持ちを託した。ヴィスラーが人知れず自分たちを守ってくれたように、自分もまた自分らしく思いを伝えたのか。
二人は互いに孤独を恐れる似た者同士であったのかも。(劇中、ドライマンはそう評されている)ヴィスラーの真意は分からずとも、彼に同類の匂いを感じたのでしょう。そしてそれを「これは私の本だ」と理解するヴィスラー。まれに見る秀逸なラストです・・・。
ドライマンらを初めて見た時から、特別視していたヴィスラー。当初はクリスタの美しさに心動いたのかとも思っていたが。
劇中、明確に語られる事はなかったが、おそらくはかつてヴィスラーも物書きまたは芸術関係への志があったのかもしれない。
自分の筋書き通りに、クリスタが政府高官の元へは行かず、ドライマンに戻った行為のいきさつをリポートされ、「いい文章だ」と悦に入る。
いつしか体制側に身も心も売り、忘れかけていたもう一人の自分を、ドライマンたちに重ね合わせていたのだろうか。
隣人同士が監視し合い、密告し合い、言論・表現の自由もなかった東ドイツにおける壁の崩壊の重みを、この映画によって再認識。上級高官らのモラルの低下に象徴されていたように、崩壊も必然だったのか。
どんな状況下にあっても、人と人との心の交流は存在する。当たり前の事が難しい時代にあって、霧が晴れたように二人の抱擁が実現したラスト。本当に見事です。