「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「トベラの思いを」

2006-01-23 19:13:27 | 和歌
 
 何時もの散歩道の脇にはトベラが植えられているが、葉の間から小さな赤いものが見えた。近寄ってみると、それはトベラの実であった。お腹が空いていたからであろうか、瑞々しく美味そうに見えた。果実が三つに割れて、中から小さなお菓子のような種が、「食べて、食べて」と迫っている風情だ。色合いは明るい深紅で、しかも透明な蜜に覆われて糸を引いている。手を伸ばして摘み取り、口に含んでみたい衝動に駆られたが、その時、道行く人が通り過ぎて、辛うじて思いとどまった。

  
 



             陽だまりにトベラは口を思いきり
  
             開きてかざしぬ真紅の果実を



             いかでかはかくもそそるやくれないの

             いろあざやかにとべらのかじつは



             いとあつきくちづけににていとをひく

             とべらのおもいをたれやうけまし



 隣には、果実が割れて久しく日が経ったのであろうか、ベンガラ色に変色しているのが見えた。日を経てもなお、つややかで美味しそうに見えた。後から思い返せば、虚庵居士は余ほど空腹だったのかもしれない。

 トベラの実を見つめて、ヨダレを垂らす虚庵居士をご想像あれ。 



 



             日を経れば色合い深みを増しにけり
  
             歳ふる女(ひと)の色香にも似て