玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「派遣村」叩きに日本の国民性を思う(2)

2009年01月08日 | 日々思うことなど
まず、前の記事について言い訳めいた補足を二つほど。

「サイエンスZERO」を見て初めて山岸教授の研究を知ったように思われたかもしれないが、実は以前から「日本人は他国民と比べて他者を信頼する傾向が低い」という調査結果は知っていた。阿部謹也の「世間」論なども読んだことがあり、「日本社会って生ぬるいようで世知辛い」とわかっているつもりだった。番組を見て意外に感じたのは、たとえて言えば「ちゃんと勉強せずに試験を受けたけどなんだかいい点が取れそうな気がした。戻ってきたテスト用紙を見てびっくり・がっかり・やっぱり」という感じである(なんだかよくわからないたとえですみません)。

前の記事で世間の「派遣村」叩きと山岸教授の調査結果を結び付けて論じたのはなにも「日本はダメだ」「日本人は最低だ」と貶めるためではない。むしろ私はなるべく日本のいいところ(「とてつもない日本」)を見ていきたいほうである。必要もないのにやたらと日本(日本人)ダメ論を吹聴して「自分は違う、俺様は偉いんだ」とそっくり返る連中は右左問わず大嫌いだ(そういう手合いが多すぎる)。
それならなぜ「派遣村」叩きと民族性を結びつけたのかといえば、まるで南北アメリカとヨーロッパ・アフリカの海岸線がぴったり合うように「この二つはもともと一つのものだ」と考えるのが私にとって自然だからだ。目の前にガンダムMK-IIとGディフェンサーの玩具があったら、どうしても合体させてスーパーガンダムにしてみたくなるのと同じである(ますますわかりにくいたとえでごめんなさい)。ガンダムに興味がないとか、Mk-IIとGディフェンサーは別々に飾っておきたいと思う方はどうぞお好きなように。


危機に遭遇したときその人の本性が表れるという。
昼行灯と呼ばれ軽く見られていた大石内蔵介は主君切腹の知らせにうろたえず見事赤穂城の受け渡しを成功させた。逆にそれまで立派だと認められていた人が醜態をさらして大恥をかくこともある。
去年の秋に始まった世界的経済危機は、期せずして困難や破局に直面した各国の国民性を明らかにするはずだ。日本人が「なるほど立派な人たちだ」と感心されるのか、見苦しいエゴイズムにとらわれて「浅ましい連中」とさげすまれるのかの分かれどころである。
自分が外国人だったら、という視点で「派遣村」騒動を見てみる。
経済的に困窮した人たちが寄り集まりボランティアの援助を受けるのはどこの国でも珍しいことではない。「派遣村」の存在自体には違和感を持たないだろう。だが、「豊かな」「良識ある」日本人が貧困者に向ける視線の冷たさにはおそれを抱く。「ハラキリの美学」と思うかもしれないし、「だから日本は経済成長したのか」と納得するかもしれない。しかし私には「なんて身勝手で冷酷なんだろう」「封建思想が染み付いている、市民として助け合う責任感がない」と軽蔑される可能性がいちばん高いように思えてならない。

今回の世界的経済危機がどれほど深刻なものになるのか、あるいは予想外に影響が少なくてすむのか(ぜひそうであってほしい)、経済知識ゼロの私には見当もつかない。未来のことはわからないが過去のことなら本を読めばある程度わかる。64年前、フィリピンで破局を迎えた日本軍のありさまを伝える本がここにある。

Amazon.co.jp: 日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21) (角川oneテーマ21): 山本 七平: 本

この本は評論家・山本七平が陸軍専任嘱託のアルコール技術者だった小松真一の手記「虜人日記」をもとに語った日本人論だ。小松の「敗因二十一ヵ条」には現代にも通じる日本人と日本的組織・社会の問題が示されている。
敗因二十一ヵ条

一、精兵主義の軍隊に精兵がいなかった事。然るに作戦その他で兵に要求される事は、総て精兵でなければできない仕事ばかりだった。武器も与えずに。米国は物量に物言わせ、未訓練でもできる作戦をやってきた

二、物量、物質、資源、総て米国に比べ問題にならなかった

三、日本の不合理性、米国の合理性

四、将兵の素質低下(精兵は満州、支那事変と緒戦で大部分は死んでしまった)

五、精神的に弱かった(一枚看板の大和魂も戦い不利となるとさっぱり威力なし)

六、日本の学問は実用化せず、米国の学問は実用化する

七、基礎科学の研究をしなかった事

八、電波兵器の劣等(物理学貧弱)

九、克己心の欠如

十、反省力なき事

十一、個人としての修養をしていない事

十二、陸海軍の不協力

十三、一人よがりで同情心が無い事。

十四、兵器の劣悪を自覚し、負け癖がついた事

十五、バアーシー海峡の損害と、戦意喪失

十六、思想的に徹底したものがなかった事

十七、国民が戦いに厭きていた

十八、日本文化の確立なき為

十九、日本人は人命を粗末にし、米国は大切にした

二十、日本文化に普遍性なき為

二十一、指導者に生物学的常識がなかった事

第二項「物量」第七・八項「技術力」の問題は現代日本に無関係といってよさそうだ(細かく見ていけばいろいろあるだろうが)。第四項の「戦死者」もいない。逆に言えば、ほかの問題点は60年以上経ってもたいして変わっていない。
第一項「精兵主義の軍隊に精兵がいなかった」というのは、過去の精神論(大和魂)に堕して実力を育まなかった日本軍の姿であり、今日の自己実現ガンバリズムと硬直したシバキ主義(過剰な自己責任の押し付け)だ。第九項「克己心の欠如」第十項「反省力なき事」第十一項「反省力なき事」あたりの実例は新聞や週刊誌にいくらでも載っている。第十二項「陸海軍の不協力」は今でいえば自民党と民主党のくだらない政争(漢字の誤読をあげつらったり)か。

「派遣村」周辺で見られたのは第十三項「一人よがりで同情心が無い事」第十九項「日本人は人命を粗末にし、米国は大切にした」の二点、そして第二十一項「指導者に生物学的常識がなかった事」も厚生労働省の対応が2ちゃんねる的「世論」に流されていたらそうなるところだった。
どうも日本人は「思想的に徹底したものがなく」「戦いに厭きて」いるときにかえって「同情心を無くし」「人命を粗末にする」傾向があるらしい。

敗因21 指導者に生物学的常識がなかった事
敗因19 日本は人命を粗末にし、米国は大切にした

生物学
生物学を知らぬ人間程みじめなものはない。軍閥は生物学を知らない為、国民に無理を強い東洋の諸民族から締め出しを食ってしまったのだ。人間は生物である以上、どうしてもその制約を受け、人間だけが独立して特別な事をすることは出来ないのだ。

日本人は生命を粗末にする(一部)
日本は余り人命を粗末にするので、終いには上の命令を聞いたら命はないと兵隊が気付いてしまった。生物本能を無視したやり方は永続するものではない。
特攻隊員の中には早く乗機が空襲で破壊されればよいと、密かに願う者も多かった。


 以上の二つの小松氏の言葉は、氏の『虜人日記』の「見方・考え方」の基調であり、ある意味では原点であろう。
(中略)
 最初に記したように、私が、本書を読んで「三十年ぶりに本ものの記録とめぐりあった」と感じた一番大きな点は、氏が人間を「生物」と捉えている点である。
(中略)
 いわゆる「残虐人間・日本軍」の記述は、「いまの状態」すなわちこの高度成長の余慶で暖衣飽食の状態にある自分というものを固定化し、その自分がジャングルや戦場でもまったく同じ自分であるという虚構の妄想をもち、それが一種の妄想にすぎないと自覚する能力を喪失するほど、どっぷりとそれにつかって、見下すような傲慢な態度で、最も悲惨な状況に陥った人間のことを記しているからである。
 それはそういう人間が、自分がその状態に陥ったらどうなるか、そのときの自分の心理状態は一体どういうものか、といった内省をする能力すらもっていないことを、自ら証明しているにすぎない。これは「反省力なき事」の証拠の一つであり、これがまた日本軍のもっていた致命的な欠陥であった。従って氏が生きておられたら、そういう記者に対しても「生物学的常識の欠如」を指摘されるであろう。
 氏は、ある状態に陥った人間は、その考え方も生き方も行動の仕方もまったく違ってしまうこと、そしてそれは人間が生物である限り当然なことであり、従って「人道的」といえることがあるなら、それは、人間をそういう状態に陥れないことであっても、そういう状態に陥った人間を非難罵倒することではない、ということを自明とされていたからである。

第9章 生物としての人間 p225-227


説明は不要と思うがあえて付け足しておく。
山本七平は「残虐人間・日本軍」を「暖衣飽食」した人々が非難罵倒するのは「生物的常識」と「自省力」を欠いていることの証だ、と語っている。これは「怠け者の元派遣失業者」を食事と住まいに不安のない人々が蔑視する「派遣村」の構図と何も変わらない。
「日本は余り人命を粗末にするので、終いには上の命令を聞いたら命はないと兵隊が気付いてしまった。」
かつて絶対的命令を下したのは「上官の命令は天皇の命令」の日本軍だ。今は主権者たる国民が「世論」を使って末端の「兵隊」を死地に追いやる。人間を大事にしない国に未来はあるのだろうか。


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4 コメント

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Unknown (ABC)
2009-01-09 11:38:28
国会周辺で警戒の警視庁機動隊車両は、派遣村デモ隊襲来で、平時の2倍増
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警視庁所属の、防護盾つきショベルカーまでなぜか配置されていた。
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日比谷公園・霞門前で待機する派遣村に扇動された連中
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行進する、「派遣村」に扇動された連中の前にはなぜか「護憲」スローガンの車が
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デモ隊の先頭部分には、「安保破棄」と書かれたのぼり竿がw。
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内閣府近く、「北方領土返還要求看板」と、派遣村デモ隊「守れ憲法」街宣車
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国会裏手で、派遣村デモ隊を歓迎する、民主、公明、社民、共産の議員団 
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国会裏手で派遣村デモ隊を歓迎する、民主、公明、社民、共産の議員団 その2

こういうことをやってるから冷たい目で見られるのも自業自得じゃないですか?
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日本はなぜ敗れるのか (potato_gnocchi)
2009-01-09 23:43:40
本題と多少ずれますが、山本氏の「日本はなぜ敗れるのか」、大変な良書であることに賛成します。田母神問題とも相通ずるものがあると思いますが、この本に書かれている日本人の諸問題は、今に至る問題点と同根のものが多いと思います。思想的にはいわゆる穏健な「右」であった山本七平氏(したがって本書の中にも、日本の労働運動や市民運動を例に出して批判的に記述するものが多いと思います)が記述した日本と日本人の問題点だからこそ、現在の狭量なネット住民に読んで欲しいものだと痛感します。

…山本七平氏が今の「派遣村」を見たらどう発言するのでしょうか、それは気になりますが。
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Unknown (Gl17)
2009-01-10 11:13:51
些細に混入した「敵方の政治性」をどうしても許せない、弱者問題なんかどうでもいい、という極めて政治的な反応がどんな眼で見られるか。
そういった意見を表明しブログに記す等した場合にどんな評価をされるか。
それに関しては勿論100%自業自得、自己責任だと思いますよ。
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Unknown (Unknown)
2009-01-11 21:43:58
>「敵方の政治性」をどうしても許せない、弱者問題なんかどうでもいい、という極めて政治的な反応
寧ろ、その本質を歪めた解釈で相手を下におく論法が、よけいに話を混乱させていると思います
“弱者問題なんかどうでもいい”とは(ネットの煽りを除いて)誰も考えていないと思います
※この辺、左右の論客共に言えるのですが、ネット掲示板の煽りや中傷を、自説にあわせて都合の良い様に解釈し過ぎですね
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