とね日記

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ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全

2015年03月22日 00時06分22秒 | 物理学、数学
ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全

内容紹介:
本書は、「一般の5次方程式が根号で解けないことをきちんと証明する」ことを頂上(ピーク)として、そこに向かって一歩一歩、しっかりと登っていく本です。前提としているのは、高校数学の知識です。それがしっかりと理解できていれば読めるようになっています。ピークへの過程に出てくる定理には、証明が全て書いてあります。一番易しいルートを選択しながら、途中から急に難しくなることなく、最初から最後まで、同じ丁寧さで解説していきます。 2013年刊行、504ページ。

著者について:
石井俊全(いしいとしあき)
1965年東京生まれ。東京大学建築学科卒、東京工業大学数学科修士課程卒。大人のための数学教室「和」講師。書籍編集の傍ら、中学受験算数、大学受験数学、数検受験数学から、多変量解析のための線形代数、アクチュアリー数学、確率・統計、金融工学(ブラックショールズの公式)に至るまで、幅広い分野を算数・数学が苦手な人に向けて講義をしている。著書に『中学入試 計算名人免許皆伝』『中学入試 カードで鍛える 図形の必勝手筋』『数学を決める論証力 大学への数学』(いずれも東京出版)『まずはこの一冊から 意味がわかる線形代数』『まずはこの一冊から 意味がわかる統計学』(ベレ出版)がある。(石井先生の著書をAmazonで検索する。


理数系書籍のレビュー記事は本書で270冊目。

ガロア理論を制覇するための決定版。

「一般の5次方程式が根号で解けないことのきちんとした証明を、いちばんやさしい筋道で理解し感得する。」

と銘打った本書は画期的な本だ。これまでにない詳しさで定理を積み重ねることで、ガロア理論を「完全に証明する」ための道筋を一歩ずつたどった本なのだ。

- ガロア理論の啓蒙書を読んだけれども、最後の方の5次方程式が根号で解けないところの説明・証明がクリアにわからない。
- そこで、専門書を手に取ってみたが挫折した。
- でもやはり、5次方程式が根号で解けないことの証明が気になるので読んでみたい。

このような読者のために書かれている。

特徴:

1)証明がこの本に全部書いてある。(省略が全くない。)
2)初めから終わりまで同じ丁寧さで解説している。
3)例から説明している。
4)高校数学を履修した人であれば読める。
5)一番やさしいルートを選択している。

とはいえ僕がかなり手こずったことは否めない。500ページあまりを読み終えるのにまるまるひと月かかった。本書は昨年9月に大栗博司先生の「素数の話、解の公式の話(朝日カルチャーセンター)」を受講するための準備として購入していた。結局講座には間に合わず、やっと今になって読み終えることができた。

僕が買ったのは第2刷だ。正誤表や詳細目次、サンプルページはベレ出版のホームページで確認することができる。

ガロア理論の頂を踏む(ベレ出版)
http://www.beret.co.jp/books/detail/487

本書のおおまかな流れは次のとおり。(画像クリックで拡大)



第4章から第5章にかけては、一般に「最小分解体道」、「正規道」、「アルティン道」という3つのルートが知られている。本書はこのうち「最小分解体道」に沿って解説を行っている。

「アルティン道」をたどる本としては「ガロア理論入門 (ちくま学芸文庫): エミール・アルティン」が有名だ。この本は名著として知られ、高校数学参考書や旺文社大学受験ラジオ講座、代々木ゼミナールで教鞭をとられていた「寺田文行」先生が翻訳をしている。僕も高校時代、受験生のころは寺田先生の「数学鉄則シリーズ」や代々木ゼミナールの講座でお世話になった。定年退官されたときのお写真は「このページ」でご覧いただける。

ガロア理論入門 (ちくま学芸文庫): エミール・アルティン



第6章でピークの定理を証明し「5次方程式が根号で解けない。」ことが示される。

ピークの定理:
方程式 f(x)=0 の解が根号で表される ⇔ 方程式 f(x)=0 のガロア群が可解群である


章立ては次のとおりだ。

第1章:「整数」
第2章:「群」
第3章:「多項式」
第4章:「複素数」
第5章:「体と自己同型写像」
第6章:「根号で表す」

詳細の目次は、ベレ出版のホームページで確認できるが、ここにも載せておこう。(画像はクリックで拡大)

  

  

  


実際に読んでみると第4章の「複素数」までは楽に進めた。ここまでは群論の入門書としても読むことができる。しかし、第5章以降はとても手こずった。分厚い本だけに前の章までに導いた数々の定理を忘れてしまうので、戻って確認しなければならず、かなりの忍耐力が要求される。

本書の特徴の3つ目「初めから終わりまで同じ丁寧さで解説している。」は正しいのだが、これは証明のすべてを記憶している著者だからこそ主張できることであって、読者にとっては同じ程度の難易度勾配で証明の理解が進んでいくわけではない。登山にたとえると第5章から上り坂はきつくなる。ちょうど富士山のような形で上り坂はきつくなっていると僕は感じた。

ガロア理論については3年前に「数学ガール/ガロア理論:結城浩」で学んでいる。この本は最終章の1歩手前までは、比較的易しく、読者は楽しみながら読み進めることができる。しかし、最終章はいきなり「絶壁の登山」になっていた。数学ガールシリーズは最終章がいきなり難解になるという印象を僕は持っている。数学ガールシリーズは青春小説、恋愛小説の部分にページが割かれているから、500ページまるごと数学の記述が占めている本書のほうを好む人もいるだろう。

だから、本書は今のところ入手できる中では、いちばん読者に優しいガロア理論入門書であり、完全に理解するための本として決定版だと言えるのだ。


数学ファンにとってガロア理論を制覇することは、いくつかある大きな夢のうちのひとつである。これまで挫折を繰り返して、苦い思い出をお持ちの方には特に本書をお勧めしたい。


ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全




関連記事、関連ページ:

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

代数系入門: 松坂和夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055c0887eb88f94bceb53b859524c952

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfdc31385bef53baf2bf1b81c98d77f3

Gの夢~ 解けない方程式の謎を解く ~
http://galois.motion.ne.jp/


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