100円ショップで「球の衝突実験」に使う道具をそろえてみた。カラフルで素敵だ。球を突くための小さな孫の手が可愛い(笑)こんな買い物をしたのも「ファインマン物理学 I: 力学」を再読しはじめたのがきっかけである。
力学の問題なんて「エネルギー保存則」と「運動量保存則」やその元となる「ニュートン力学の3法則」さえ覚えていれば何のことはない。でも本当にそうだろうか?
球の衝突の実験について検索しているうちにiPhone用の素晴らしいアプリを見つけた。Newton's Cradle (ニュートンのゆりかご)と呼ばれているもので、見るからに東急ハンズ系。
Newton's Cradleの説明(iPhone用)
http://ipodtouchlab.com/2008/08/5-newtons-cradle-226.html
iPhoneをお持ちでない方は次のページで遊んでみてほしい。
Newton's Cradle: フラッシュ動画
http://www.chumby.com/guide/widget/Newton%27s%20Cradle
この遊びでわかるのは落とした球と同じ個数の球が跳ね上るということだ。でも遊んでいるうちに疑問が沸いてきたので実験をしてみることにした。
「中川のビジュアル物理教室」というサイトに「逐次衝突」というJavaアプリがあったのでこれを利用させていただいた。(わざわざ100円ショップで買った意味ないじゃん!)
実験1)
左は衝突前、右は衝突後の画像である。落とす数と跳ね上がる数が同じというのがNewton's Cradleですぐわかる現象だ。2つ落とせば2つ跳ね上がる。
右端で跳ね上がる球が1個で速度が2倍であってもよいような気がする。「運動量保存則」は満たされているのだから。でも、どうしてそうならなかったのだろう?運動量は質量 m と速度 v を掛けた mv であらわされる。衝突前後ですべての球の運動量の合計値が一定だという意味である。
自然はどうして跳ね上がる個数を2つにするという選択をしたのだろうか?右端にある球たちは左端で何個の球が衝突したのか知っているわけではないのにである。
答は「運動エネルギー」も保存されなければならないからだ。運動エネルギーは 1/2*mv^2 で計算される。つまり跳ね上がる個数が1つで速度が2倍だと運動エネルギーの合計は衝突後に2倍に増えてしまう。(ちょっと計算してみればわかる。)
実験2)
それなら落とす球を1つにして質量を2倍にしたら、実験1と同じく2つ跳ね上がるのだろうと思って試してみたら予想ははずれてしまった。どうしてだろう?
実験1と同じように2つ跳ね上がっても「運動量保存則」と「運動エネルギー保存則」は両方とも成り立っているはずなのにである。
実験3)
逆に跳ね上がる一番右の球を大きくしてみたらどうだろうか?左から2個落とせば一番右のが1個だけ跳ね上がるのだろうと思ったら、またも予想はハズレ。
実験4)
それじゃ小さいのを1つだけ落とせば一番右のが1つだけ半分の速度で跳ね上がるのかなということで試してみたら、これもダメ。今日はサエていない。でもどうして?
実験5)
小さいのを2つ落としても、跳ね上がりはばらけてしまう。。。ヤケになってきた。法則性がつかめない。
実験6)
これでもダメだ!!小さいのだけ跳ね上がってほしかったのに。。。
実験7)
でも基本に戻って考えたら理由がわかった。つまり同じ質量の球どうしが衝突するときだけ「速度の交換」が行われるということ。
質量が同じ場合の「速度の交換」は次のような感じである。いちばんシンプルなNewton's Cradleだ。
一般的に質量が違う場合は「運動量の交換」は行われるが質量が違うのだから速度は2つの球で交換されない。
実験8)
つまり質量が違う場合はこのように「運動量の交換」だけ行われている。(そして「運動エネルギー保存則」は成立している。)
実験9)
以上のことを踏まえた上で最後の実験の結果を考えてみよう。吊り下がった一番左の赤い球は単に力を右の球に伝達しているのではない。そして落ちてくる球と速度交換も行われていないから衝突後は全体的にばらけてしまうのだということが理解できる。
つまり実験1がうまくいったのは同じ質量の球それぞれが1組ずつ、ごくわずかの時間で球と球の間で順番に「作用・反作用の法則」が働いて速度交換が行われていたからなのである。
2個同時に落としたとき、落とした右側の球は衝突により静止する。そして直後に落ちてくる2つ目の球から力を受けて右隣の球に力を伝える。落ちてくる球の数ぶんだけ同じことが行われるから振り子の右端から球が「ひとつづつ同じ速度で」跳ね上がる。個数が一致するのはこのためである。これが瞬間的におこるので落とした個数と同じ数の玉がくっついた状態で跳ね上がるように見えるのだ。
素粒子物理学では引力や斥力の原因を「粒子が交換される結果」であるとしている。同種のものが出会うとき何かが交換されるという意味で共通している普遍法則の1つのような気がしてきた。
原子核を構成する陽子と中性子も電荷を交換することで陽子が中性子に、中性子が陽子に変化し、それが絶えず行われているのだ。原子核の中でも量子力学は正確に成り立っていて、2種類の「演算子」の間で交換法則が成り立っているかどうか調べることは量子力学で重要な役割を果たしている。量子力学では運動量、エネルギー、物体の位置などは「演算子」として取り扱われるからだ。
また、物理学を勉強していくと「保存則」は「対称性」と一対に結びついていることがわかるようになる。「運動量保存則」は「空間的対称性(併進対称性)」に、「エネルギー保存則」は「時間的対称性」に、そして「電荷の保存則」は「鏡像対称性(反対称性)」に結びついているのだ。
そういえば「ハイゼンベルクの不確定性原理」も運動量と位置、エネルギーと時間がペアになっている。そしてNewton's Cradleにそれらのことが垣間見られているのだ。感動的に奥が深い。。。
今回の球の衝突の実験について言えは、空間的に平行移動したり時間の流れを逆転しても力学法則はそのまま成り立っている。それがニュートン力学だ。
ところで「ガウス加速器」というのをご存知だろうか?これのことだ。
どうしてこんな現象がおきるのだろうか?「運動量保存則」や「エネルギー保存則」は成り立っていないように見える。
こちらの動画でもっと詳しく見ることができる。
次の動画はガウス加速器の多重連結。だんだん凶器化してきた。。。
ガウス加速器の作り方と詳しい解説は次のページで読むことができる。
ガウス加速器:
http://www.eneene.com/omoshiro/23g/main.html
つまり磁石によるクーロンポテンシャルが鉄球に対して水平方向にポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)を与えているのだ。ちょうど地球の万有引力ポテンシャルの磁気ポテンシャル版になっている。鉄球が磁石に近づくとポテンシャルエネルギーが運動エネルギーに転換されるという理屈。鉄球は磁石からエネルギーをもらうわけではないことに注意すべきだ。だから磁力による位置エネルギーを加味して考えればガウス加速器の運動でも「エネルギー保存則」は成立している。
しかし衝突の前後で「運動量保存則」は成立していない。これは種明かしをせず読者への宿題としておこう。(ヒント:運動量保存則の定義に戻って考えればすぐわかる。)
ちなみにガウス加速器で使うマグネット球はこちら、鋼鉄球はこちらのページから購入することができる。「とね書店」は商売熱心だ!(笑)
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力学の問題なんて「エネルギー保存則」と「運動量保存則」やその元となる「ニュートン力学の3法則」さえ覚えていれば何のことはない。でも本当にそうだろうか?
球の衝突の実験について検索しているうちにiPhone用の素晴らしいアプリを見つけた。Newton's Cradle (ニュートンのゆりかご)と呼ばれているもので、見るからに東急ハンズ系。
Newton's Cradleの説明(iPhone用)
http://ipodtouchlab.com/2008/08/5-newtons-cradle-226.html
iPhoneをお持ちでない方は次のページで遊んでみてほしい。
Newton's Cradle: フラッシュ動画
http://www.chumby.com/guide/widget/Newton%27s%20Cradle
この遊びでわかるのは落とした球と同じ個数の球が跳ね上るということだ。でも遊んでいるうちに疑問が沸いてきたので実験をしてみることにした。
「中川のビジュアル物理教室」というサイトに「逐次衝突」というJavaアプリがあったのでこれを利用させていただいた。(わざわざ100円ショップで買った意味ないじゃん!)
実験1)
左は衝突前、右は衝突後の画像である。落とす数と跳ね上がる数が同じというのがNewton's Cradleですぐわかる現象だ。2つ落とせば2つ跳ね上がる。
右端で跳ね上がる球が1個で速度が2倍であってもよいような気がする。「運動量保存則」は満たされているのだから。でも、どうしてそうならなかったのだろう?運動量は質量 m と速度 v を掛けた mv であらわされる。衝突前後ですべての球の運動量の合計値が一定だという意味である。
自然はどうして跳ね上がる個数を2つにするという選択をしたのだろうか?右端にある球たちは左端で何個の球が衝突したのか知っているわけではないのにである。
答は「運動エネルギー」も保存されなければならないからだ。運動エネルギーは 1/2*mv^2 で計算される。つまり跳ね上がる個数が1つで速度が2倍だと運動エネルギーの合計は衝突後に2倍に増えてしまう。(ちょっと計算してみればわかる。)
実験2)
それなら落とす球を1つにして質量を2倍にしたら、実験1と同じく2つ跳ね上がるのだろうと思って試してみたら予想ははずれてしまった。どうしてだろう?
実験1と同じように2つ跳ね上がっても「運動量保存則」と「運動エネルギー保存則」は両方とも成り立っているはずなのにである。
実験3)
逆に跳ね上がる一番右の球を大きくしてみたらどうだろうか?左から2個落とせば一番右のが1個だけ跳ね上がるのだろうと思ったら、またも予想はハズレ。
実験4)
それじゃ小さいのを1つだけ落とせば一番右のが1つだけ半分の速度で跳ね上がるのかなということで試してみたら、これもダメ。今日はサエていない。でもどうして?
実験5)
小さいのを2つ落としても、跳ね上がりはばらけてしまう。。。ヤケになってきた。法則性がつかめない。
実験6)
これでもダメだ!!小さいのだけ跳ね上がってほしかったのに。。。
実験7)
でも基本に戻って考えたら理由がわかった。つまり同じ質量の球どうしが衝突するときだけ「速度の交換」が行われるということ。
質量が同じ場合の「速度の交換」は次のような感じである。いちばんシンプルなNewton's Cradleだ。
一般的に質量が違う場合は「運動量の交換」は行われるが質量が違うのだから速度は2つの球で交換されない。
実験8)
つまり質量が違う場合はこのように「運動量の交換」だけ行われている。(そして「運動エネルギー保存則」は成立している。)
実験9)
以上のことを踏まえた上で最後の実験の結果を考えてみよう。吊り下がった一番左の赤い球は単に力を右の球に伝達しているのではない。そして落ちてくる球と速度交換も行われていないから衝突後は全体的にばらけてしまうのだということが理解できる。
つまり実験1がうまくいったのは同じ質量の球それぞれが1組ずつ、ごくわずかの時間で球と球の間で順番に「作用・反作用の法則」が働いて速度交換が行われていたからなのである。
2個同時に落としたとき、落とした右側の球は衝突により静止する。そして直後に落ちてくる2つ目の球から力を受けて右隣の球に力を伝える。落ちてくる球の数ぶんだけ同じことが行われるから振り子の右端から球が「ひとつづつ同じ速度で」跳ね上がる。個数が一致するのはこのためである。これが瞬間的におこるので落とした個数と同じ数の玉がくっついた状態で跳ね上がるように見えるのだ。
素粒子物理学では引力や斥力の原因を「粒子が交換される結果」であるとしている。同種のものが出会うとき何かが交換されるという意味で共通している普遍法則の1つのような気がしてきた。
原子核を構成する陽子と中性子も電荷を交換することで陽子が中性子に、中性子が陽子に変化し、それが絶えず行われているのだ。原子核の中でも量子力学は正確に成り立っていて、2種類の「演算子」の間で交換法則が成り立っているかどうか調べることは量子力学で重要な役割を果たしている。量子力学では運動量、エネルギー、物体の位置などは「演算子」として取り扱われるからだ。
また、物理学を勉強していくと「保存則」は「対称性」と一対に結びついていることがわかるようになる。「運動量保存則」は「空間的対称性(併進対称性)」に、「エネルギー保存則」は「時間的対称性」に、そして「電荷の保存則」は「鏡像対称性(反対称性)」に結びついているのだ。
そういえば「ハイゼンベルクの不確定性原理」も運動量と位置、エネルギーと時間がペアになっている。そしてNewton's Cradleにそれらのことが垣間見られているのだ。感動的に奥が深い。。。
今回の球の衝突の実験について言えは、空間的に平行移動したり時間の流れを逆転しても力学法則はそのまま成り立っている。それがニュートン力学だ。
ところで「ガウス加速器」というのをご存知だろうか?これのことだ。
どうしてこんな現象がおきるのだろうか?「運動量保存則」や「エネルギー保存則」は成り立っていないように見える。
こちらの動画でもっと詳しく見ることができる。
次の動画はガウス加速器の多重連結。だんだん凶器化してきた。。。
ガウス加速器の作り方と詳しい解説は次のページで読むことができる。
ガウス加速器:
http://www.eneene.com/omoshiro/23g/main.html
つまり磁石によるクーロンポテンシャルが鉄球に対して水平方向にポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)を与えているのだ。ちょうど地球の万有引力ポテンシャルの磁気ポテンシャル版になっている。鉄球が磁石に近づくとポテンシャルエネルギーが運動エネルギーに転換されるという理屈。鉄球は磁石からエネルギーをもらうわけではないことに注意すべきだ。だから磁力による位置エネルギーを加味して考えればガウス加速器の運動でも「エネルギー保存則」は成立している。
しかし衝突の前後で「運動量保存則」は成立していない。これは種明かしをせず読者への宿題としておこう。(ヒント:運動量保存則の定義に戻って考えればすぐわかる。)
ちなみにガウス加速器で使うマグネット球はこちら、鋼鉄球はこちらのページから購入することができる。「とね書店」は商売熱心だ!(笑)
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はじめまして。
記事がお役に立ててよかったです!
以下の系は、「簡単」ではありません。
「壁で囲まれた中に、数本(5本?)の固い円筒が、玉が通る程度の間隔で密集している。
そこへ、固い玉を、ぶつける」
これは、初期値がある値x0 と、x0+ε で、結果が全く異なる初期値依存カオスです。
(ある円筒に当たったところx’が、円筒のr以内なら、反射。
x’が、r+ε なら、素通りなので)
コメントありがとうございます。
表題は反語表現で「力学は簡単じゃないですよ。」という意味のつもりなので、ケチをつけたことになりませんのでご安心を!
kafukaさんが紹介された例のように、古典力学にも複雑系にも「初期値カオス」などのカオス現象がありますよね。この分野も興味がありますので、余裕がでてきたら学んでみたいと思います。