とね日記

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よくわかる電磁気学:前野昌弘

2012年04月17日 21時48分01秒 | 物理学、数学
よくわかる電磁気学:前野昌弘

今度こそ納得する物理・数学再入門:前野昌弘」がとてもよい本だったので、前野先生のお書きになった電磁気学と量子力学の教科書のほうも気になっていた。

両方ともこの2年のうちに出版されたばかりで、アマゾンやブクログでの評判がとてもよい。本の売上も定番の「電磁気学:砂川重信」や「電磁気学:長岡洋介」に迫る勢いである。

今回読ませていただいた「よくわかる電磁気学:前野昌弘」の内容は他の定番教科書2種類とほぼ同じで、大学の物理学科では電磁気学I、電磁気学IIという科目で教えられているようだ。(数学専攻だったので僕は物理学科のカリキュラムは詳しくない。)おおざっぱに言えば高校物理I、IIで学ぶテーマをベクトル解析、微積分を使って理論的に体系付け、マックスウェルの方程式に至るまでを解説である。(詳細目次はこの記事の最後の部分を参照。)

本書をお書きになった琉球大学の前野先生は、ネット上のハンドル名「いろもの物理学者」として知られている。

先生のホームページ:
http://homepage3.nifty.com/iromono/
http://irobutsu.a.la9.jp/

Wikiのページ: 
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/cgi-bin/pukiwiki/index.php

本書(電磁気学)のサポートページ:とても充実している。
http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrEM/index.html


電磁気学は奥が深く、ベクトル解析のgrad, div, rotや偏微分記号(∂)を学びたての初学者が物理と結びつけながら学ぶのは容易なことではない。先生ご自身も学生時代に苦労され、教える立場になってからは講義をしながら学生たちがどこでわからなくなっているかをノートにまとめ、それに加筆することで本書が完成したのだ。

だから本書は今どきの学生のレベルや素朴な疑問が反映されたものとなっている。Javaアプレットによる美しいCGも先生ご自身で作成し、電場や磁場など物理的な実感とベクトル解析や微積分の図形的イメージを直観的に結びつけてくれる。この点については他書より断然優れている。grad, div, rotのイメージについては本書に加えて「物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎」の第5章「ベクトルのrotと電磁気学」を読めば申し分ない。

数式の導出過程のていねいさ、演習の分量や質についても含め全体的なバランスもよいと思った。電磁気学を学ぶ初期の時点で本書に巡り会える学生は幸せだと思う。昔からある定番の教科書がいかに優れたものであっても年月がたてば風化してしまうし、著者の先生からアドバイスいただけることなどまずあり得ない。実際に講義の現場に立ち、自分の学んだことをすべて教えようと意欲に燃えている前野先生だからこその本だと思った。

僕自身は他に何種類か電磁気学の教科書を読んでいたので、本書に書かれていることの8割ほどのことは理解していた。なので復習も兼ねながら実際に読んで本書のよさを実感してみたかったわけだ。

僕が特によいと思ったのは第10章の磁性について詳しく解説されている部分と第11章の「動的な電磁場」だった。磁性の本質は古典電磁気学では説明できない部分が多いが、それでも可能な限り詳しく説明していただいているので「磁性って結局何?」という素朴な疑問を持っている学生にとっては、電磁気学だけでは解決できない自然の奥深さを感じることができるだろう。そして、それが量子力学への入り口となる。

本書は300ページほどの分量でページ数の制限によるためだと思うが、前野先生が本書の「おわりに」でお書きになっているように、

- 交流回路
- 電磁気学のゲージ理論としての側面
- 特殊相対論の枠組みでの電磁気学
- 解析力学と電磁気学の関連

などについては触れられていない。これらの内容は次のようなサイトやより高度な教科書で補うとよいだろう。僕としては本書に含めることができなかった内容は「よくわかる電磁気学2」として執筆してほしいと思った。

- 「EMANの電磁気学」および「EMANの相対性理論」の第3部
- 「理論電磁気学:砂川重信
- 「電磁気学の基礎 III:太田浩一」
- 「マクスウェル理論の基礎―相対論と電磁気学:太田浩一
- 「マクスウェルの渦・アインシュタインの時計―現代物理学の源流:太田浩一


なお高校物理I、IIのように天下りな記述では満足できない意欲的な高校生や電磁気学ってどういうものだろう?という社会人には「これならわかる理系の電磁気学(高橋真聡著)」のほうをお勧めする。今回紹介した教科書よりもずっと敷居が低い。

本書を執筆した後、前野先生は同じようなスタイルで量子力学の教科書を執筆されている。いわば本書の姉妹編。

よくわかる電磁気学:前野昌弘
よくわかる量子力学:前野昌弘

 

もちろん、僕が次に読むのは「よくわかる量子力学:前野昌弘」である。読後のブログ記事はここをクリック。


なお、学生への講義経験が存分に活かされ、親切でわかりやすい教科書という切り口では、以下の山口大学の芦田先生のお書きになった2冊を僕は紹介したい。

熱力学を学ぶ人のために:芦田正巳
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4274067424

統計力学を学ぶ人のために:芦田正巳
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4274066711

上記2冊はPDFファイルとして公開されている。
http://collie.low-temp.sci.yamaguchi-u.ac.jp/~ashida/work/lecture.html


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よくわかる電磁気学:前野昌弘


はじめに

第0章:電磁気学の歴史とその意義
- 電気と磁気はどのように発見されたか
- 電磁気学の発展
- 現在における電磁気学と電磁気以後の物理学
- 電磁気が重要である理由

第1章:真空中の静電気力と電場
- 静電気
- クーロンの法則(逆自乗則、ベクトルで表現するクーロンの法則)
- 重ね合わせの原理
- 電場Eと電気力線(電場Eの定義、電気力線、電気力線の力学的性質)
- いろんな電荷分布における電場Eの計算(有限の長さの線上に広がった電荷による電場E、円状の電荷による電場E、球殻上の電荷による電場E)
- 電荷分布から電場Eを求める式
- 立体角と電気力線
- 章末演習問題

第2章:ガウスの法則と電場の発散
- ガウスの法則(電気力線の流量(flux)の保存、立体角から考えるガウスの法則)
- 複数および連続的な電荷が存在する時のガウスの法則(面上に広がった電荷による電場E、一様に帯電した無限に長い棒、一様に帯電した球、平行平板コンデンサ)
- 電場Eの発散:ガウスの法則の微分形(直交座標系における発散、発散ぼない電場Eの例、div E=ρ/ε0の簡単な例)
- 極座標でのdiv(極座標のdivの導出、∇を使った記法に関する注意、極座標のdivを使って電場Eを求める)
- 章末演習問題

第3章:静電気力の位置エネルギーと電位
- 1次元の静電気力の位置エネルギーと電位(力学的エネルギーの復習(1次元)、1次元の静電気力の位置エネルギーと電位)
- 3次元の空間で考える電位(3次元の空間における位置エネルギー、電位と電場Eの関係)
- rotと位置エネルギーの存在(位置エネルギーが定義できる条件、仕事が経路んい依存しない条件、rotのイメージ:ボートの周回、rotのイメージ2:電場車)
- 電位の満たすべき方程式(位置エネルギーの微分としてのクーロン力、ポアッソン方程式、ラプラシアンの物理的意味)
- 電位の計算例(一様な帯電球、無限に広い板、電気双極子)
- 静電場の保つエネルギー(位置エネルギーは誰のもの?、電場のエネルギー-電荷と電位による表現、電場の持つエネルギー-電場Eによる表現、平行平板コンデンサの蓄えるエネルギー)
- 電場の応力(電気力線は短くなろうとする→電場の張力、電気力線は混雑を避ける→電場の圧力、応力から考える静電気力)

第4章:導体と誘電体
- 導体と電場・電位(導体表面の電場E)
- 導体付近の電場(点電荷と平板導体、平行電場内に置かれた導体球)
- 静電容量
- 誘電体と分極(分極)
- 真電荷と分極電荷-静電気学の基本法則
- 強誘電体と自発分極
- 誘電体中の静電場の持つエネルギー
- 章末演習問題

第5章:電流と回路
- 導体を流れる電流
- 抵抗を流れる電流 - オームの法則
- ジュール熱
- 電池と起電力
- キルヒホッフの法則(電流の保存則、電位の一意性)
- 合成抵抗
- 回路を閉じた時に起こること
- コンデンサの充電
- 章末演習問題

第6章:静電場から静磁場へ
- 磁場とは何か(磁石の作る磁場、電流の作る磁場、磁場中の電流の受ける力、磁極の正体)
- 章末演習問題

第7章:静磁場の法則その1-アンペールの法則
- 無限に長い直線電流による磁場
- アンペールの法則
- 磁位
- アンペールの法則の応用例(ソレノイド内部の磁場、平面板を流れる電流)
- 章末演習問題

第8章:静磁場の法則その2- ビオ・サバールの法則
- ビオ・サバールの法則(微分形の法則から場を求めること、アンペールの法則との関係、線積分で書いたビオ・サバールの法則、ビオ・サバールの法則のもう一つの導出)
- ビオ・サバールの法則の応用(円電流の軸上の磁場、円電流の軸上以外での磁場)
- 章末演習問題

第9章:静磁場の法則その3-電流・動く電荷に働く力とポテンシャル
- 無限に長い直線電流間の力と、アンペアの定義
- 電流素片の間に働く力
- 導線の受ける力と動く電荷の受ける力(ローレンツ力、ローレンツ力を受けた荷電粒子の運動、ホール効果)
- ベクトルポテンシャル(数学的な定義、Aの物理的意味)
- 章末演習問題

第10章:磁性体中の磁場
- 磁性(反磁性、常磁性、強磁性)
- 磁場の表現-磁束密度Bと磁場H(BとH、透磁率)
- 例題:一様に磁化した円筒形強磁性体
- 媒質が変わる場合の境界条件
- 章末演習問題

第11章:動的な電磁場-電磁誘導
- 静的な場と動的な場
- ファラデーの電磁誘導の法則
- 導線が動く時の電磁誘導のローレンツ力による解釈(仕事をするのはいったい誰か?)
- 磁束密度の時間変化と電場(時間変動する電磁場の場合の電位)
- 自己誘導・相互誘導(自己インダクタンスと相互インダクタンス)
- コインの蓄えるエネルギー
- 章末演習問題

第12章:変位電流とマックスウェル方程式
- 変位電流(マックスウェルによる導入、変位電流は磁場を作るか?)
- 電磁波(電磁波の方程式)
- 電磁場の運動量
- 電磁運動量
- 直流回路で運ばれるエネルギー
- 章末演習問題

おわりに

付録A:ベクトル解析の公式
- 外積
- 直交座標、円筒座標、極座標の基底
- 微分
- div, rot, gradの相互関係(gradのrotが0であること、rotのdivが0であること、ストークスの定理、よく使う公式、rot(rot A)=grad(div A)-⊿Aの直観的説明)

付録B:練習問題のヒント

付録C:練習問題の解答

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3 コメント

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前野先生 (アルキメデス)
2015-09-28 17:47:41
とねさん
前野先生は素晴らしい方ですね

欧米では研究者とは別に優れた教師
優れたサイエンスライターの評価が高いらしいですね

数年前京大が授業がよくないと

提携先の大学から交換留学かなんかの契約を取り消されたとかいう話を聞いたことあります

私は教育大学の高校数学教員養成課程で学びました

一番授業がうまかったのは

名大教養部長までされた岸正倫先生でした

やはりいろんな学部の学生に教えてられたからでしょうか
返信する
Re: 前野先生 (とね)
2015-09-28 17:50:56
アルキメデス様
はい、前野先生は素晴らしい方だと思います。

余談:申し訳ございませんが、いただくコメントの数が多すぎてすべてに返信することができません。(僕は会社員ですので。)
今後いただくコメントも公開承認させていただきますが、返信可能なものについてのみ返信させていただきます。
返信する
すいません (アルキメデス)
2015-09-28 17:55:03
おいそがしいのに
お返事ありがとうございます
返信する

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