ぼく(4)

2020-03-31 07:13:21 | 童話
『お母さんとお医者さんがお話しをして、ぼくはもう少し経ったら離乳食も食べるんだよ。』
『離乳食って、おいしいのかなあ?』
『食べたことが無いから分らないよ。』
『ぼくは食べたことがあるよ。オッパイに比べておいしくなかったので、ベェと出しちゃったよ。だけれど、今はちゃんと食べているよ。』
『ふぅ~ん、えらいね。』

『ぼくは君達より五ヵ月早く産まれたお兄ちゃんだから偉いんだよ。』
『何が偉いの?』
『う~んとね、離乳食を食べているからエライんだよ。』
『ふぅ~ん。』
『ぼくも五ヵ月くらいすると離乳食を食べるから偉くなるのかなあ。』
『そうだね、僕達赤ちゃんは生まれてから五ヵ月くらいになると離乳食を食べ始めるので、みんな偉くなるんだね。』
『そうだね。』

ぼく(3)

2020-03-30 07:18:50 | 童話
それからね、僕達はみんなテレビを見ているから、日本以外の国で起きている戦争や病気のこともお話しするよ。
『あの国とあの国で戦争をしていているから、たくさんの人がケガをしていて、その中には僕達と同じ赤ちゃんもいるんだよ。』
『早く戦争を止めて、みんなで仲良くすればいいのにね。』
『あの国で恐ろしい病気が流行しているから、みんなも気をつけようね。』

そして、楽しいこともお話しするよ。
『お母さんのお腹の中に居る時は、体がフアフアと浮かんでいて気持ちが良かったね。』
『そうだね、特にお母さんが歩いている時が一番フアフアとしていて気持ちが良かったね。』
『そうだね。』
『だけれど、お母さんのお腹から外へ出て来た時は寒くてビックリしたね。』
『そうだね、寒かったね。ぼくは思わず泣いてしまったよ。』
『ぼくも泣いたよ。』
『わたしも泣いたわ。』
『なんだ、みんな泣いたのか。泣いたのはぼくだけかと思っていたよ。』

ぼく(2)

2020-03-29 07:17:54 | 童話
ぼくは生まれる前からいろいろな事を知っていたし、妖精とお話しをしていたんだよ。
今も妖精が見えるけれど、大人の人には見えないんだって。
お姉ちゃんやお兄ちゃんも大きくなったので、妖精は見えないと思うよ。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも、小さい頃にはみんな見えていたんだけれど、見えていた事を忘れてしまっているんだ。

ぼくもみんなと同じように、大きくなると忘れてしまうのかな?
きっとそうだよね。
だからいろんなものが見えている今が一番忙しいんだ。
大人の人は、ぼくが忙しくしている事を知らないだけなんだ。

昨日は家で飼っている犬とお話しをしていたし、今日は、さっきまで遠い外国の赤ちゃんと楽しくお話しをしていたんだ。
遠い所と何も使わないでお話をする事を、大人の人はテレパシーと言っているみたいだね。

お母さんがお父さんに、新生児健診でぼくを病院へ連れて行くと言っていたけれど、他の赤ちゃんとお話しができるから楽しみだなぁ。
大人の人は僕達がお話しをしていることが分からないけれど、病院に居る時みんなとたくさんお話しをしているんだよ。

何のお話しかって?
みんな、自分のお母さんの自慢をするんだ。
『ぼくのお母さんが一番美人だよ。』
『ぼくのお母さんの方が優しいよ。』
『ぼくんちの方が、兄弟が多いよ。』
僕達は、まだしゃべることができないけれど、みんなとは目と目でお話しをしているんだ。
だからたくさんの赤ちゃんでお話しをしている時は、あっちを見たり、こっちを見たり、忙しいんだ。

ぼく(1)

2020-03-28 09:21:41 | 童話
今、産まれて十日目のぼくは、お母さんに抱っこをしてもらって幸せです。
あれっ、お父さんとお姉ちゃんとお兄ちゃんが居ないよ。そうか、今日は、お休みの日ではないんだ。
お父さんは電車に乗って会社へ行ったのかな?

ぼくは、生まれてから外へ出たことが無いので電車に乗ったことがありません。
だけれど、お母さんのお腹の中に居る時にお母さんと一緒に電車に乗ったことは覚えているんだ。電車はゴトンゴトンと楽しかったよ。

お姉ちゃんは自転車に乗って中学校へ行ったのかな?
ぼくがお母さんのお腹の中に居る時は転ぶと危ないので、お母さんは自転車に乗らなかったんだ。
だから、ぼくは自転車を知りません。

お兄ちゃんは歩いて小学校へ行ったのかな?
ぼくもお母さんのお腹の中に居る時に、お母さんといっぱい歩いたよ。歩くのも楽しいよね。
だけれど、お母さんが歩いていない時に、お腹の中のぼくだけが歩いて、お母さんのお腹を中からギュ~と押したことが有ったんだ。その時、お母さんは『あらあらっ。』と言っていたんだ。

ぼくがドンドン大きくなっていくと、お母さんのお腹の右側や左側がニュー、ニューと膨らんで、そのたびにお母さんが
『あらあらっ。』、
『あらあらっ。』
と言っているのを、ぼくはお腹の中で聞いていたんだけれど、楽しかったよ。

グー、グー、グー(4)

2020-03-27 09:07:17 | 童話
僕が目をさますと、映画のスクリーンの中では、ロケットから大きなアンテナを出して、電波の来ている方角と距離を測っていた。
クルーたちが
『この方角のまま、あと3日飛ぶと電波を出している星に着くね。』
『そうだね、このまま流星に気を付けて飛んで行こう。』
と話しをしていた。

そして、3日後にロケットの船長が
『順調に飛行しているので、あと5時間で目的地に着きます。』
とクルーのみんなにアナウンスした。
『あと5時間か、やっと着くね。』
『どんな星で、どんな生き物がいるのだろうかなぁ。』
『間もなく着陸します。』

外に出るので、みんな宇宙服を着てロケットの外から出て周りを見渡したが、赤茶色の土と岩以外は何も見つからなかった。
そして、宇宙用の自動車で少し高くなった丘の上に登った。すると、丘のふもとに宇宙船が有るのを発見した。
『あれはっ、XY星の探査に成功し、5年前に地球に帰還する時に流星とぶつかって行方不明になった無人の探査機だ。』
と船長が言った。
探査機は遭難信号を地球へ何年間も送り続けていたのだ。

そして、丘を下りて行って探査機に乗り込んで中を調べた。
『XY星にしか無い、新たなエネルギー物質は無事だ。この貴重なデータを持ち帰ろう。』
と船長は喜んだ。そして、クルー全員でエネルギー物質を僕達のロケットに乗せかえた。
当然、クルーの僕も手伝った。
『これから地球に向って飛んで行きます。』
ロケットはゴーと大きな音をたてて、飛び立った。
『帰りは土星や火星には寄らずに、そのまま地球に向って飛行するらしいから、ロケットの中で寝るよ。』
とお父さんが言った。
今度起きたら僕はどこにいるのかなぁと思った。

『今日は日曜日でも、早く起きなさい。お父さんと一緒に宇宙探検の映画を見に行くのでしょ。』
『あれっ、今度は家の中だ。ロケットの中でも、映画館の中でもないや。まだ映画館へも行っていないのだった。
本当の僕は今どこにいるのかなぁ?』

   おしまい