サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 10473「シャーロック・ホームズ」★★★★★★☆☆☆☆

2010年07月26日 | 座布団シネマ:さ行

『アイアンマン』のロバート・ダウニー・Jrと『スルース』のジュード・ロウが、名探偵シャーロック・ホームズと相棒のジョン・ワトソン博士を演じるミステリー大作。国を揺るがす謎の敵を前に、ホームズとワトソンの強力なタッグで壮絶な闘いを繰り広げる。共演は宿敵ブラックウッドに『ワールド・オブ・ライズ』のマーク・ストロングほか、レイチェル・マクアダムスら。『スナッチ』のガイ・リッチー監督が作り上げた、激しいアクションが満載の新ホームズに期待したい。[もっと詳しく]

過去のホームズの映像が、ごっちゃになってしまっていたが・・・。

シャーロック・ホームズのお話を読み出したのは、小学校の時だったろうと思う。
ちゃんとした本ではなく、少年雑誌の付録か中綴じで、挿絵付きの子供向きのダイジェスト版だったように思う。
なぜ覚えているかというと、それまでチャンバごっこをやっていた悪ガキたちが、いきなり西洋かぶれをしたかのように、ホームズごっこをやった記憶があるからだ。
誰かがおやじさんのハンチング帽子やステッキやパイプや虫眼鏡を拝借してきて、「ところでワトソン君」などと、なにを推理できるわけでもないのに、考えるフリをするのだった。
「君は学校の砂場で遊んでいたね」とか、相手の砂だらけの肘をみながら、もったいをつけて「推理」するのだった。
同時期にホームズと同じように、遊びに取り入れられたのは、モーリス・ルブランの「ルパン」だった。
現実にも「ルパン対ホームズ」の小説も何篇かあるのだが、もちろんこれもモトネタは漫画雑誌か少年雑誌の読み物記事だった。



それからホームズに関しては、60篇ともいわれるシリーズ小説のどれとどれを読んだのか、記憶がごちゃまぜになっている。
好きだった「荒地」の詩人の鮎川信夫訳も結構読んだし、新しいところではたまたま昔の知り合いでもあったので日暮雅道新訳で、何篇か読み返したりもしている。
またホームズには多くのパロディ版やパスティーシュ版などもあったりして、それもなかなか面白い。
小説だけではなく、海外のテレビシリーズのホームズものが日本でもいくつか放映されたりしたが、それも結構見たり、DVDで暇つぶししたりもした。
映画もサイレントやトーキーの時代から繰り返しホームズは題材にされているので、もうそれがたとえば新しいところはマイケル・ケインが扮したものなのか、ロジャー・ムーアが扮したものなのか、それ以外もたくさんのホームズを演じた役者がいたが、記憶の中でごっちゃになっている。



今回のガイ・リッチー監督版『シャーロック・ホームズ』は、ホームズにロバート・ダウニー・Jr.、ワトソンにジュード・ロウという魅力的な顔ぶれ。
予告編で見る限りでは、「あなたの見たことのないホームズ」なんてことが謳ってあるので、ホンマカナ?という思いで、見始めたのだった。
結論から言えば、なかなか面白かった。
自分の中の、ホームズ+ワトソン像が、どのあたりからなんとなく固まってきてしまったのかもうわからないが、なんとなくこんなに激しく動き回るホームズや、いつも皮肉られてばかりいるような印象のワトソンが、ホームズと互角に渡り合っている姿には、意表をつかれた。
もちろん、シャーロキアンではない僕のようなものであるが、しかし一応のコナン・ドイルのホームズ主要シリーズを翻訳で読んでいるにしても、やはり過去の映像作品のイメージが強烈に残り過ぎていて、本作のホームズには改めてびっくりさせられたのだろう。
けれども、「本当はこちらのほうが原作に近いんだぜ」というような、ガイ・リッチー監督のしてやったりのコメントを見るにつけ、ふむふむなるほど、と思うのであった。



記憶を甦らせるために、「ミステリーマガジン」のホームズ特集の大昔の雑誌が書棚の片隅に埃をかぶっていたので、少しベッドに寝転びながら、チラホラ目を通した。
たしかに、ホームズはストラディベリウスを所有するようなヴァイオリン好きだし、ボクシング、フェンシング、バリツ(武術)が得意である。
化学実験オタクなようなところがあり、薬物依存も相当なもので、一時期は退廃的なディレッタント主義で、周囲は結構閉口している。
ワトスンもアフガン戦争帰りであり、結構行動的でもある。
ワトソンがメアリー嬢と結婚するのは1888年と記録されているが、その7年ぐらい前にホームズとの出会いがあり、逆算すると今回の映画のホームズの年齢は30代半ばに当たることになる(設定を変えているかもしれないが)。



この映画のレヴューで、「こんなホームズ創作は作者のドイルに失礼である!プン・プン!」といったお怒りの声もあったが、それは当たらないと思う。
こんなに有名人であり、もしかしたら誰でもシャーロキアンたる部分をちょっとは持っていそうなキャラクターを、もう一度過去の膨大なホームズの映像作品(つまりつくられたイメージ)を大幅変更するような冒険は、とても困難なことだと思うからだ。
なにをどうしても「イメージが違うじゃん!」というお怒りの声が殺到するのは当然だからだ。
でもそのイメージにしたって、僕もそうなのだが、当人もどこかのテレビシリーズなどに影響されて、勝手に持ってしまっているホームズ像に過ぎないかもしれないのに。



ホームズのもっともホームズたる由縁は、その瞬間の観察力にある。
演繹的な消去法で、膨大な知識ベースから、矢継ぎ早に「真実」を言い当てるところが妙である。
けれど、これが小説であれば、「ワトソン君・・・」以下の叙述で、ホームズの推理の理由を説明することが出来るのだが、一本の映像作品でそれをやられると、大きなお話がまるで進まなくなってしまう。
それをこの『シャーロック・ホームズ』では、終盤近くにいままでの伏線(ホームズが現場で観察したものそしてそこから導き出された推理)をフラッシュバックのように連続して開陳して、それはそれとして観客をアクション、サスペンスに向かわせるのである。
このあたりの脚本・演出手法は、なかなかのものである。
19世紀末から20世紀初頭にかけての、ヴィクトリア時代のロンドンの雰囲気も、さもありなんと思わせる。
スタッフリストを見れば、とんでもない一流そろいである。監督もホームズマニアらしいが、結構、楽しんでやっているに違いない。



ベーカー街221Bのホームズのアパート、彼の推理力はもちろん植物学や地質学や化学や薬学の豊富な引き出しが背景になっているが、決して書物の知識からの密室の博学の徒ではない。
とことん怪しげな実験を繰り返し、あらゆる階層の職業や生活を実地に観察し、街の隅々を歩き回りして得られた実学である。
だから逆にその見事な演繹的推理は、あらゆる推理小説の古典となっているわけだ。
「本当はわたし(ホームズ)のようにちゃんと観察してみれば、誰にだってこれぐらいの推理に辿り着けるんだよ」というように。
そのフェアさのようなものが、愛される由縁でもあるのだろう。
しかし、ホームズそのものの人間像は、なかなか難解であり、謎も多く、そこがまた世界中のシャーロキアンを、現在に至るも夢中にさせる要因となっている。
ホームズ女性論からホームズ実在論まで、あらゆる細部にわたって、世界中で熱心に愉しみながら、シャロキアンは研究と議論に忙しい。



ところで、今回は黒魔術をカモフラージュに使うブラックウッド卿との対決が主題だが、女性嫌いのホームズを虜にするアイリーン・アドラーの背後には、ホームズの永遠の好敵手であるジェームズ・モリアーティ教授の影がチラホラしている。
これは続編への布石でもあろうが、ロバート・ダウニー・Jr.でいえば『アイアンマン』シリーズよりもこちらの続編の方が、僕としてはちょっと楽しみである。
いきなり小学生の頃の「ホームズごっこ」の場面を思い出してしまったが、モリアーティ教授役にいつも手を上げていたのは、近所の歯医者の息子の村田君だった。
村田君はなんか黒いマントかなんかを持ち出して、今から思うと仕事場からチョロまかしてきたのだろうが、鋭い犬歯の模型みたいなのを口に含んで、自慢気だった。
考えてみればちょっと村田君は、ドラキュラ伯爵とモリアーティ教授の区別がよくついていなかったのかもしれないな(笑)。


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14 コメント

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続編は (KGR)
2010-07-27 12:49:17
2011/12/16(全米)ガイ・リッチー監督と、ロバート・ダウニーJrは決定のようです。
ジュード・ロウ、レイチェル・マクアダムスも続投の見込み。

誰がモリアーティ教授をやるのでしょう。

日本公開もいつごろか気になります。
KGRさん (kimion20002000)
2010-07-27 14:51:56
こんにちは。
そうですか。やはり決定ですか。
楽しみですね。
モリアーティ教授は、だーれでしょうね。
昔の役者さんだといろいろ思い浮かぶんですけどねぇ。
こんばんは♪ (ひろちゃん)
2010-07-28 00:10:47
ロバートファンですので、アイアンマンより
こちらが楽しみとのご感想は嬉しいような
困ったような(笑)私は両方とも好きなんで(笑)ホームズって60篇もあるんですか(+_+)
私も結構読んでいた記憶があるのですが
きっとその半分も読んでいないんだと思います
(ーー;)かなりヒットしたので続編は決定したようでそれも嬉しいです♪
画像のクマちゃん欲しい(笑)kimionさんの
クマちゃんじゃあないですよね(笑)
ひろちゃんさん (kimion20002000)
2010-07-28 01:06:11
こんにちは。

残念ながら、僕のクマちゃんじゃないです。
適当に拝借した画像。
ロバートも結構、麻薬に溺れた時期があったけど、ホームズも重度の薬物中毒だった時期があり、そこも面白かったですね。
Unknown (かからないエンジン)
2010-07-31 17:01:42
どうも、TBありがとうございます。
あまりホームズものは読んだことがありませんでしたが、娯楽映画として気楽に楽しむことが出来ました。
続編でのモリアーティ教授のキャストには「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」などで有名なダニエル・デイ・ルイスが候補に挙がっているようです。いや、待ち遠しいですね。
かからないエンジンさん (kimion20002000)
2010-07-31 18:08:08
こんにちは。
ふーん、そうなんだ。
彼は、名門一家だし、メジャーな賞もたくさんとってますよね。
イザベル・アジャーニとの子供がいるし、今のお相手はアーサー・ミラーの娘で才女のレベッカ・ミラーですからねぇ。
なかなか凝った演技が期待できそうですな。
アバウトイメージ払拭 (メビウス)
2010-08-01 22:46:12
kimionさんこんばんわ♪TBが遅れてしまって申し訳ありません・・--;

自分は原作にもまるで手を付けていないので『誰も見た事も無い・・』っていうキャッチにはちょっと響かなかったものの、それでもホームズ=知的な雰囲気みたいなアバウトなイメージは持ってたので、本作のワイルドホームズは凄い面白かったですね♪ハエを集める変人ぶりも発揮すれば悪漢をボコボコにする格闘家ぶりもカッコイイですし、何よりワトソンとのテンポ良い掛け合いが最高でしたねぇ。続編は来年の年末と聞いていますので、また変人ホームズ早い時期に観れると思うと今から楽しみですね♪

※ちなみに自分はモリアーティ役の噂はブラピと聞いてるのですが・・・^^;
メビウスさん (kimion20002000)
2010-08-02 01:37:43
こんにちは。
ブラビですか。
おやおや。
それもまたなかなか期待しちゃいますね。
今回のモリアーティは、結局、手タレだったわけね。
こんにちは (de-nory)
2010-08-07 22:34:57
いつもありがとうございます。

もはや、アクション映画。
切り口が変わっていて、楽しめましたよ。

モリアーティ教授も多分登場の次回作。
期待です!
de-noryさん (kimion20002000)
2010-08-07 23:23:05
こんにちは。
企画としては、とてもうまいところを突いていますね。愉しい映画でした。

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