
ギリシャで『タイタニック』に続き、映画史上第2位の興行収入を記録した、ギリシャ版『ニュー・シネマ・パラダイス』ともいえる感動の人間ドラマ。本作が映画デビューとなる子役のマルコス・オッセと祖父役のベテラン、タソス・バンディスの心温まる交流にいやされる。スパイスをとおして美味しく健康に食べることと、人生哲学を孫に教え込む祖父の賢さに古き良き時代のノスタルジーと食欲を同時に呼び覚ます傑作。[もっと詳しく]
料理の複雑で重層的なスパイスのように
1959年のコンスタンチノープルの美しい町並み。スパイス屋を営むおじいちゃんのところに、ファンス少年はいりびたる。
「料理の味を与えるスパイスが目にみえないように、大切なものはいつも目に見えない」
おじいちゃんは、スパイスを貯蔵する屋根裏部屋で、魔法のようにスパイスの講義を少年にしてくれる。
「スパイスは天文学」
おじいちゃんは、いくつかのスパイスを机の上に太陽系の惑星の配置の順に並べ、それぞれの惑星の神々に比喩させて、ひとつまみのスパイスを少年に味わわせる。
近くに住むサイメという名の少女。
彼女だけが、その秘密の空間に招待される。
彼女はイスラム風の踊りを披露しながら、屋根裏部屋の親密な時間を共有する。
1964年。長い歴史年代にわたるトルコとギリシャの複雑で入り組んだ紛争の歴史。
緊張するキプロス情勢の中で、コンスタンチノープルに住むギリシャ人たちは、アテネに強制移住(国外退去)をさせられる。
おじいちゃん、ファンス少年、サイメの、夢の時間は終わりを告げる。
おじいちゃんだけを残し、アテネに移住したファンス家族。
ファンスは料理の得意な少年、青年期を過ごし、天文学者になる。
そして、35年後、あのおじいちゃんが、アテネを訪ねてくるという。
ファンスと年老いた親戚たちは、歓迎の宴を準備するのだが・・・。
この監督、そして本作で大人になったファンスを演じるジョージ・コラフェイス、そしておじいちゃんを演じるタソス・バンティスという味わい深いふたりの役者さん、この3人の経歴を見ると、コンスタンチノーブルに生まれ、やはり64年の強制移住でこぞってアテネに移住している。
この作品は、監督の自伝とも言えるものだ。
結局、オスマントルコ帝国の衰退の歴史の中で、ギリシャは地中海を越え、この美しい街にも侵攻する。
そして、トルコ・ギリシャ間の長年にわたる紛争、停戦、地位協定・・・。
したがって、コンスタンチノーブルは、イスラムの礼拝とギリシャ正教が混在した街になっている。
そして、詳しくは勉強していないが、この地に住み着いた人々は「ピザンツ系ギリシャ人」にあたり、ギリシャ本土の人たちとは風習や生活感覚に差があり、やはり、どちらからも疎外を受ける「マージナル(境界的)」な存在であったようだ。
習慣的特徴でもあるのか、このギリシャ人たちは、方向を見定めるとき、自分の体を羅針盤のようにして、土地の磁力あるいは匂いの様なものを感知するのだ。
そのしぐさをとても、ユーモラスに作品のなかのいくつかのシーンに差し挟んである。
この映画にはいくつもいくつも愛すべきシーンがある。
冒頭の宇宙の星雲の中を、なにやら赤い物体が渦を巻いて、浮遊しながら移動している。
しばらくして、それが<赤い傘>だとわかる。 その<赤い傘>をもっているのは、幼馴染のサイメだ。
再会したサイメとのシーンにも、その<赤い傘>は使われている。
そして、35年ぶりに訪れた誰もいないスパイス屋。
床の上に朽ちているスパイスを拾い上げてみると、少年の日のように、その部屋は、光り輝き、スパイスや野菜たちが、星雲のように、主人公の周りを周回しだすのだ。
「映画を見る幸福」というのは、こういった小品のなかに隠されている(ギリシャでは空前の大ヒットをしたらしいが)。
そして、大切なものは、そんなに多くはないこと。
歴史はひとりひとりの人生ではいかんともしがたいけれど、そこに住んだ人々、家族の間に、ちゃんと、刻み込まれていくこと。
料理の複雑で重層的なスパイスのように、人生はインスタントな解釈で理解するようにはできていない。
僕たちもまた、自分の体の中に、たいせつな羅針盤をもっているはずなのだ。
TBさせてくだサイ
イタリア映画やギリシャ映画や、家族で食事をするシーンがほんとうに大切なものとして、描かれていますね。
レストランは別として、たいがいの欧米映画の食卓の風景の貧しいこと。
なんてことを思ったりします。
マイナー国の映画、いいですよね。
ギリシアではテオ・アンゲロプス(だっけ?)が好きです。『永遠と一日』なんていろいろ考えさせられます。
ハリウッドを除けば、すべてがマイナー国ともいえますけどね。
テオ・アンゲリオプレスは、別格の人。
いま、ちょっと、あの長時間に耐えられないかも。
むしろ、浄化?
心がきれいになってる感じです。
こちらからもTBさせてください。
映画は映画にしか過ぎないのに、本当に大切なところで、自分に自信を与えてくれたり、修正をしてくれたり、叱責してくれたりします。
総合芸術の持つ喚起力だと思いますね。
スパイスって、調合が難しいですからね。
人生もそんな感じかな。
この作品は、終わりかたが気に入りました。
インスタントでない人生 さまざま考えて感じて
なんだかとても良い気持ちにさせてもらえた映画でした♪
「インスタントでない人生」というのは、いい表現ですね。
これからもよろしく。