サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

review 10480「PUSH 光と闇の能力者」★★★☆☆☆☆☆☆☆

2010年08月22日 | 座布団シネマ:は行

政府に特殊能力者として開発された人間と、彼らの能力を利用したい当局との攻防を描くSFサイキック・アクション。『ラッキーナンバー7』の俊英ポール・マクギガンが、第二次世界大戦時に実際に育成されていたという超能力スパイの逸話を基に映画化。主演は、『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』のクリス・エヴァンスと『宇宙戦争』のダコタ・ファニング。葛藤(かっとう)する能力者の姿や、スタイリッシュなアクションに注目。[もっと詳しく]

これはプロモーション用のデモ映像に過ぎない。

「超能力」という存在には、どこか惹かれるものがある。
人間の能力というのは、「びっくり人間」というのはいるにはいるが、あるいはスポーツや芸術やの世界で超絶の水準を目にすることはあるが、平均すれば「人間らしさ」の閾値に納まっている。
しかし「超能力」というのは、その閾値をはるかにはみ出た存在である。
そうした能力の多くを、昔から神話・伝説・物語の世界では「魔力」と呼び習わしてきた。
そして善と悪、光と闇という対立項を与えてきたのである。
また能力を持つものの貴種流離譚や悲劇性や自然とのかかわりなども、必ずといっていいほど構造化してきたのである。
しかし近代以降、科学の発達に伴って、「超能力」を巡って、単なるファンタジーや怪奇やといった世界では飽き足らず、説明を求めるようになってきている。
それがどれほど、滑稽なこじつけであろうが、疑似科学であろうが、誇張であろうが、はともかくとして。



もちろん、「超能力」の研究は、国家単位でさかんにあるいは秘密裏に行われてきた。
スプーンを曲げるくらいならテレビショーにしか過ぎないが、軍事利用されれば最強の軍隊を持つ可能性もある。
あるいは一国の政治判断を謀略によって狂わせたり混乱に陥れたりすることができるかもしれない。
それらは「X−ファイル」として封印されたり、マッド・サイエンティストの狂気の実験として闇に葬られたりもしたのだろう。



「超能力」は先天的な突然変異のミュータント由来かもしれないし、宇宙からの外部注入によるなにかかもしれないし、高度に訓練された身体能力や五感の能力が異常に発達して実現されるものかもしれない。
けれども、結局人間とは何か、人間の脳とは何か、心身のメカニズムとは何か、ということはまだまだ解明されていないことは多い。
また「超能力」はひとつの畸形の発現であるとみなすこともできるし、フリークスに「超能力」の萌芽を見出そうとする研究も伝えられている。
もっといえば、本来人間はそうした「超能力」を持っていたのだが、人類史の時間の中で喪われてきたのだと強調する論者もいる。



「超能力者」が群をなして登場するエンタテイメントにはことかかない。
最近の映画作品でいえば『XーMENシリーズ』『ファンタスティック・フォーシリーズ』がそうだ。
テレビシリーズでいえば、『HEROES』であり、僕も1から3シーズンまでDVDでお付き合いしている。
今回の『PUSH 光と闇の能力者』は着想的にいえばこの『HEROES』のパクリでないかと思う部分もあるが、『HEROES』だって、それまでの能力者群の戦いの多くのノベルズの集大成といえばいえなくもない。
本当を言えば、「超能力」をめぐる物語をひとつの叙事詩とみなせば、膨大な物語の集積が必要となる。



すべての英雄譚の原型とされるトールキンの『指輪物語』を持ち出してもいいし、事実上の世界最長のノベルズである(超能力物語ではないが)、先日残念なことに夭逝した僕と同じ年の栗本薫の『グインサーガ』シリーズ全150巻ぐらいあっても、僕たちは飽きることがない。
映画作品という制約はあるが、『PUSH 光と闇の能力者』は製作費の関係だろうが香港を舞台にして、この『超能力者』たちの世界のごくごく一篇を映像化したに過ぎない。
だからいくら謎の政府監視機構である「ディヴィジョン」の実験から逃走したひとりの「PUSH(精神操作能力)」を持つ女性を、念動力や未来予知力を持ったエスパーたちが助け出す物語だと説明されても、そんなのは予告編に過ぎないですねぇという感想になってしまうのだ。



日本で生み出された「超能力者」たちの戦いという意味では、もっとも好きなのは中国の伝奇物語(『水滸伝』など)を日本にローカライズ化した滝沢馬琴の全98巻の江戸伝奇小説の『南総里見八犬伝』だ。
この馬琴の物語構造が、後の多くのノベルズやコミックやアニメやゲームの原型となってきたことはいうまでもない。
その途方もない運命的な縮図を「野球」の世界に置き換えて見事に収拾がつかなくなってそのぶちきれように拍手喝さいを浴びた『アストロ球団』もこの系譜だし、もちろん名作『ドラゴンボール』もそうだ。
白土三平の忍者シリーズもある意味「超能力者」の戦いだし、山田風太郎の奇怪な忍法シリーズもフリークスの全員登場という感じだ。
『HEROES』や『PUSH 光と闇の能力者』なんかよりよほどスマートに超能力者の一群を描いたのが、石森章太郎の『サイボーグ009』だ。
僕ならこの009を、数百億かけてジェームズ・キャメロン監督に3D実写にしてほしいところだ(笑)



『PUSH 光と闇の能力者』は、消化不良の駄作だが、テレビシリーズでもなんでも掘り下げれば面白いのになあと思う箇所は、いくつかはあった。
冒頭の第一世代のウォッチャーである母親が拘束され連行される途中で落とした一個のビー球。このビー球がころころ転がって、物語の水先案内をする。ここなんかはとてもしゃれていたのに。
また演技達者ではあるが、いつまでも生育不良で「アメリカの安達祐実化現象」を心配してしまうウォッチャー能力を持つダコタ・ファニングが、珍しく太腿見せまくりで頑張っているのはよかったし、見る角度によってはデヴューの頃のソフィーマルソーを彷彿とさせるタレ目のカミーラ・ベルも色気はあった。
音響波動で物体を崩壊する香港の親子の大笑い超能力も、発展のさせ方はあるはずだ。
まあ、どちらにしても、『PUSH 光と闇の能力者』は、こういう路線でいかがですか?というデモ用のプロモーション映像みたいなもので、この黒人監督のポール・マクギガンの能力にはあまり期待はしないものの、もう少しドーンと予算を持ってこれるプロデューサーが欲しいところだ。

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