米国のテレビ番組でコメンテーターとして強硬策を唱える人物を軍需企業が後押ししている実態を伝える短いコラムです。
タイトルは
How the Defense Industry Bankrolls Pro-War Pundits
主戦派コメンテーターを防衛産業がいかに財政的に支えているか
今回もまた、非営利のオンライン・マガジン『Truthout』(トゥルースアウト誌)から採りました。
書き手は、以前にも一度このブログで訳出したことのある Thom Hartmann(トム・ハートマン)氏。
原文はこちら
http://www.truth-out.org/opinion/item/26218-how-the-defense-industry-bankrolls-pro-war-pundits
(なお、原文の掲載期日は9月15日でした)
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How the Defense Industry Bankrolls Pro-War Pundits
主戦派コメンテーターを防衛産業がいかに財政的に支えているか
2014年9月15日(月)
デイリー・テイク・チーム、トム・ハートマン・プログラム
米「軍・報・産複合体」がわが国の公共電波を汚染している。
目下、ISIS(イラク・シリア・イスラム国)とこのテロ組織に関するわが国の対応をめぐって議論が続いているが、米国民は、いわゆる「政策専門家」が主流メディアに登場し、米国の軍事行動以外に採るべき道はないと主張するのをいよいよ頻繁に目撃している。
ところが、実際のところ、これらの戦争や軍事行動の売り込みに躍起な「政策専門家」は、単にわが米国の「軍産複合体」のサクラであることがめずらしくない。そして、彼らは脅威を喧伝するこれらのふるまいのおかげでたんまりと対価を得ている。
ここしばらくわが米国のテレビ番組を席巻しているこれら多数の「政策専門家」のうち、何人かの者をめぐってその正体を『ネーション』誌のリー・ファンが明らかにした。
たとえば、そのうちの一人は元陸軍副参謀総長のジャック・キーン氏だ。
キーン氏は「戦争研究所」(ISW)の所長である。リズ・チェイニー女史やネオコンの重鎮ビル・クリストル氏などもこの研究所のメンバーとして名を連ねている。この研究所を資金的に支えているのはわが国の最大手であり、もっとも巨額の収益を挙げている防衛関連企業の数社だ。
ISISの事態急迫をめぐるキーン氏の意見、考察は数々のメディアで報じられた。たとえば、ニューヨーク・タイムズ紙やBBCなどで。
同氏はまた、「客観報道」を自称するあのフォックス・ニュースにもたびたび登場し、この防衛企業が後押しする見解を一般視聴者に売り込んでいる。
しかし、リー・ファンが明らかにしたように、キーン氏は主流メディアで意見を開陳していない時はヒマを持て余しているわけではない。
なぜなら同氏は軍事請負企業アカデミ社(前身はブラックウォーター社)の顧問であり、戦車と航空機メーカーのジェネラル・ダイナミクス社の取締役会の一員であり、また、さまざまな防衛関連企業と提携している投資会社の「事業パートナー」であるからだ。
ジェネラル・ダイナミクス社の仕事だけとってみても、キーン氏の報酬は2004年以来毎年6ケタ台を記録している。昨年は25万ドルを超えた。
というわけで、何を驚くことがあろうか、米国最大手の防衛関連企業から巨額の報酬を得ている人間がテレビに出演し、新たな戦争と紛争を人に向かってかき口説いたとしても。
防衛関連企業にとって、新たな戦争は新たな収益源を意味し、それは元陸軍副参謀総長のジャック・キーン氏にとっては新たな実入りを意味する。
もう一人、例に挙げよう。CNNの常連であるフラン・タウンゼント女史だ。ブッシュ政権に仕えていた人物で、テレビ出演の際には執拗にISISに対する軍事行動を拡大するよう主張していた。
そう、女史もまた、キーン氏と同様に、防衛関連企業、米国軍産複合体と複数のかかわりを持っている。
「公共説明責任イニシアティブ」によると、女史は防衛関連企業と取り引きのある2つの投資会社で、あるポストを占めるとともに、防衛関連企業 Decision Sciences 社の顧問を務めている。
これまた、何が驚きだろうか、タウンゼント女史の地位と履歴をふり返れば、彼女がCNNに出演して米国はISISに対しより強大な軍事力を行使すべしと説いたところで。
要するに、一般国民に向けて合法的大量殺人が売り込まれている-----巨大軍需企業から莫大な富を得ている一群のサクラたちによって。
これは見下げはてたふるまいだと思われようが、残念なことに、こうした事情はつい最近始まったことではない。
これまたリー・ファンが言及していることであるが、2008年にニューヨーク・タイムズ紙は、一群の元軍幹部が米国の最大手でかつもっとも収益力の高い企業数社から給与を得ていることを報じた。彼らはテレビに出演し、ブッシュ政権の企図するイラク侵攻を後押しした。
ISISにからむ目下の事態が深刻さを増す中で、米国民は状況について偏りのない、客観的な意見を提供されてしかるべきである。武力紛争の拡大によって利益を上げられるような存在から直接財政的な支えを得ている意見ではなく。
現今のジャーナリズムには利益相反が目に余る。そろそろ事態を転換すべき時だ。
もしテレビ局が識者を招き、ISISや軍事力の行使その他について意見を表明させたいならば、彼らの利益相反、また、彼らの収入の源泉について明らかにすべきである。
もしある人物が巨大軍需企業のお抱えコメンテーターとなっているならば、彼が武力攻撃や軍事行動を推奨するにあたり、米国民は彼の忠誠心がどの辺りに向いているかを知る権利がある。
これは実に単純な話である。
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[訳注と補足など]
・訳文中の
「軍・報・産複合体」(原文は military media industrial complex)
は、もちろん、「軍産複合体」(military industrial complex)が元の表現です。
この表現については、以前のブログの訳注で少し解説しました。
念のため、再度、以下に引用しておきます。
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military-industrial complex(「軍産複合体」または「産軍複合体」が日本語の訳語としてほぼ定着しています)という言葉は、アイゼンハワー大統領が退任演説で用いたことから有名になりました。
ウィキペディアから引用すると、
軍産複合体(ぐんさんふくごうたい、Military-industrial complex)は、軍需産業を中心とした私企業と軍隊(及び国防総省の様な軍官僚)と政府が形成する政治的・経済的・軍事的な勢力の連合体を呼ぶ概念である。 この概念は特に米国に言及する際に用いられ、1961年1月、アイゼンハワー大統領が退任演説において、軍産複合体の存在を指摘し、それが国家・社会に過剰な影響力を行使する可能性、議会・政府の政治的・経済的・軍事的な決定に影響を与える可能性を告発したことにより、一般的に認識されるようになった。米国での軍産複合体は、軍需産業と軍(国防総省)と政府(議会、行政)が形成する政治的・経済的・軍事的な連合体である。
(以下略)
ということです。
この場合の complex の「複合体」という訳し方は日本語としてちょっとわかりにくい。「協同事業体」の方が分かりやすさとしてはまだましです。「ある目的(または事業、プロジェクトなど)のために提携、協同してことにあたる、ひとまとまりの企業や組織群」を意味すると考えていいでしょう。
military-industrial complexとは、要するに、軍という国の組織・省(役人)と軍需産業(民間企業)が結託・癒着してお互いに利益をむさぼる体制のことです。ふつうは、暗黙に、これに政治家(議員など)も要素としてふくみます。
日本語らしい言い回しとしては「政・官・財の癒着構造」に近いかと思います。
役人は天下りやリベートなど、政治家(議員)は選挙資金の提供、票の取りまとめ、企業側は発注、発注額の拡大、自分に有利な法律の制定などのメリットを享受します。
この有名な military-industrial complex という表現をもとにして、いろいろな言い回しが作られました。
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すなわち、トム・ハートマン氏の言う
「軍・報・産複合体」(military media industrial complex)
は、上の「軍産複合体」(military-industrial complex)に、media(報道界)を加えたものです。
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今回の話題は、例によって、『デモクラシー・ナウ』さんで先に取り上げられていました。^^;
主戦論者にお金を払うのは誰か? 軍事行為を支持するテレビ出演者の利害相反が明らかに
http://democracynow.jp/node/8242
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