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気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

英国のメディア監視サイト・5-----英大手新聞が不都合なブログ?を突如打ち切り

2015年02月08日 | メディア、ジャーナリズム

リベラル派とされる英国の大手紙『ガーディアン』が、イスラエルの軍事行動とガザの天然ガス資源との結びつきを報じた自社サイト内のブログを突如打ち切りにしました。

英米の大手メディアでは、自国側の軍事行動の主要動機のひとつが天然資源掌握である点を指摘することはやはりタブーであるようです。

これまでにもここで複数回紹介した英国のメディア監視サイト『Media Lens』(メディア・レンズ)が、このブログ閉鎖の顛末をわかりやすく伝えてくれました。

イスラエルの軍事行動とガザの天然ガス資源との関係の話題自体はすでに現在、ネットで検索すれば複数のサイトで取り上げられています。
私のブログでは、例によって、「メディアの偏向」という観点から今回の文章を選びました。

タイトルは

‘Grievous Censorship’ By The Guardian: Israel, Gaza And The Termination Of Nafeez Ahmed’s Blog
(英ガーディアン紙による『嘆かわしい検閲』: イスラエル、ガザ、アーメド氏のブログの打ち切り)

です。

原文はこちら↓
http://www.medialens.org/index.php/alerts/alert-archive/2014/782-grievous-censorship-by-the-guardian-israel-gaza-and-the-termination-of-nafeez-ahmed-s-blog.html

(なお、原文の掲載期日は昨年の12月8日でした)


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‘Grievous Censorship’ By The Guardian: Israel, Gaza And The Termination Of Nafeez Ahmed’s Blog
英ガーディアン紙による「嘆かわしい検閲」: イスラエル、ガザ、アーメド氏のブログの打ち切り


2014年12月8日


英ガーディアン紙に定期的に文章を発表しているナフィーズ・アーメド氏は、この7月にある見解について検証した。その見解とは、イスラエルがガザ沖合いの莫大な天然ガス資源を開発するのに好都合な「政治環境」の創出を目指しているというものだ。この天然ガス資源は2000年にガザの沖合いに発見され、埋蔵量が1兆4000億立方フィートで、40億ドル相当の市場価値を有すると推定されている。

アーメド氏はイスラエルの国防大臣モーシェ・ヤアロン氏の言を引用している。ヤアロン氏の発言の主旨は、「ハマスを根絶やしにする」ための軍事行動の一推進力となっているのは、パレスチナ人がみずからのエネルギー資源を開発するのを阻止しようというイスラエルの意思であるというもの。アーメド氏はさらにアナイス・アントリーシアン氏の言も引いている。カリフォルニア大学の発行する著名な『ジャーナル・オブ・パレスチナ・スタディーズ』誌において、アントリーシアン氏は、イスラエルのふるまいが大規模な戦略の一環であるとして、次のように述べている。

「(その戦略とは)パレスチナの土地と天然資源を開発・搾取すべく、それらをパレスチナ人から引き離し、そうすることによって、パレスチナの経済的発展を阻止することである。あらゆる公式の協定とはうらはらに、イスラエルは、名目上はパレスチナ自治政府の管轄下にある天然資源をすべて掌握し続けている。土地、水から海洋資源、『炭化水素資源』に至る一切を、である。」

アーメド氏が7月9日にこの文章を発表すると、ソーシャルメディアでのシェア数がたちまち6万8000件におよび、ガザ紛争にかかわるガーディアン紙の記事中でずば抜けて注目を集めるものとなった。ところが、それはアーメド氏がガーディアン紙に書いた最後の文章となった。翌日には、氏の『アース・インサイト』という名の、環境、エネルギー、経済に関する危機的状況をあつかうこの貴重なブログは、突如打ち切りとなったのである。

『アース・インサイト』のブログ記事は約300万の閲覧者を計上し、ガーディアン紙のもっとも人気のある環境関連ブログである。これまで口コミで急速に閲覧者を増やし、世界中のメディアで取り上げられることになった文章を何度も掲載してきた。
たとえば、元CIA職員のロバート・スティール氏との「オープンソース革命」をめぐるインタビュー記事(フェースブックで4万4000件のシェアを記録)、国内の社会運動家や政治的反対派を対象とした米国防省の『ミネルバ・プロジェクト』と英国防省の取組み(4万7000件のシェア)、あるいは、NSAの大規模な監視・盗聴活動と気候変動、エネルギー、経済の影響に関する米国防省の戦略との不思議な結びつき、等々である。

ガーディアン紙はアーメド氏と袂をわかったけれども、皮肉なことに、傑出した調査報道に贈られる『プロジェクト・センサード賞』を2015年に同氏が勝ち得たのは、今年前半に同氏がガーディアン紙に書いたウクライナをめぐる文章のおかげであった。アーメド氏は2014年にもこの賞を獲得しているが、これもまた同氏がガーディアン紙に書いた最初の記事が受賞の根拠であった。それは2013年に掲載されたもので、食料暴動を「ニュー・ノーマル(新たな常態)」と捉えた文章である。また、アーメド氏は今年、英イブニング・スタンダード紙の『パワー1000』のひとりに選出された。「運動家: 環境保全活動家」の部における「ロンドンのもっとも世界的に影響力を有する人物」としてである。

以前にガーディアン紙とオブザーバー紙の記者であったジョナサン・クック氏は以下のように発言している。

「アーメド氏は実にまれなタイプのジャーナリストに属する。つまり、ほかの誰もが見逃すか見て見ぬふりをするテーマを取り上げるジャーナリストである。氏は毎回、企業が富を収奪する世界的なシステムに関し、さまざまな点をつなぎあわせて提出する。もし報道という仕事が企業側の関心事項ではなく、真にニュースの観点から推進されていたら、アーメド氏の元に執筆依頼が押し寄せるだろう」

実にあっぱれなほめっぷりである。もしこれが本当であれば、ガーディアン紙がアーメド氏と縁を切ったのはひかえめに言っても奇怪なことのように思われる。


ガーディアン紙の「いらだった、気ぜわしげな」反応

現在、アーメド氏は自分が「ガーディアン紙の検閲を受けた内実」を明かしている。氏は、2013年の4月以来、信頼できるブロガーとして定期的にガーディアン紙のサイトに直接、文章を載せることが許されていた。7月に問題のガザの文章を発表したとたん何が起こったのかをアーメド氏は次のように説明する。

「文章をサイトにかかげた翌日、私はアシスタント・ナショナル・ニューズ・エディターのジェームズ・ランダーソン氏から電話を受けた。彼の声音はいらだった、気ぜわしげなものだった。あれこれ言葉を弄することなしに、ランダーソン氏はごく簡潔に私のブログがただちに打ち切りになることを告げた。理由は、私の文章が不正確なため、事実にまちがいがあったためではなく、度外れて中傷に傾いていたためでもなかった。また、なんらかの点で私が報道倫理に反したとか、契約違反を犯したというわけでもなかった。ちがう。あのガザの天然ガスをめぐる文章は『環境にかかわる文章ではない』。したがって、ガーディアン紙の環境関連サイトに掲載するには『不適切である』。これがランダーソン氏の言い分であった」

アーメド氏はこの「過剰な反応」に「仰天」し、「少なからず困惑」した。いかなる懸念が生じようと穏便に解決を図ることが可能なはずであった。しかし、ランダーソン氏は「きっぱりとそれを拒絶し、ただ私にこう語るだけだった。『君の関心の向かうところは、次第にガーディアンの環境サイトにかかげるにはふさわしくないと思えるものになっている』、と」

これはまったくおかしな話であった。アーメド氏がガーディアン紙と合意した権限には、ブログの文章で「環境、エネルギー、経済の危機に関する地政学」をあつかうことがふくまれていた。そもそもアーメド氏がブログの執筆を申請した際、同氏は過去の文章をいくつか見本として提出していたが、その中にはイスラエルの軍事行動とガザの天然ガスとの関連にふれた文章もあったのである。これらの穏やかな抗議もまったくかいがなかった。1時間も経たないうちに、アーメド氏はガーディアン紙で権利関係をあつかう職員から電子メールを受け取り、自分の契約が終了したことを知らされた。しかし、アーメド氏の言い分によれば、ガーディアン紙との契約上の義務に関して、同氏の側には何の落ち度もないのである。

「むしろ契約上の義務に違反したのはガーディアン紙の方であって、私のブログの内容は私が決定できるという自由を、ガーディアン紙は単にそれが気に入らないという理由で奪ったのである。これこそ検閲という名に値する」

この「嘆かわしい検閲」は、アーメド氏による2014年6月の記事をガーディアン紙が掲載したことを考えれば、いよいよ露骨なものに感じられる。
その記事のタイトルは、
「イラクからの負の反動: 際限ない石油依存が生んだISIS」
というもの。そして、リード(前文)は
「欧米によるペルシア湾岸諸国のイスラム聖戦士の重用がネオコン最愛のパートナー、『イスラム教徒のフランケンシュタイン』を生んだ」
となっている。
ガーディアン紙の環境サイトの編集者であるアダム・ヴォーン氏は、この記事の掲載を許可した上に、アーメド氏に対して記事の出来は「けっこうだ。よく書けている」と伝えていた。

アーメド氏はシニカルな調子で次のように述べる。

「なるほど、ISISと石油依存に関する記事は『けっこう』だ。しかし、イスラエル、ガザ、天然ガスをめぐる争いにかかわる記事はそうではない、と。 いったい正気なのだろうか? 沖合いの天然ガス資源は環境のカテゴリーに属さないと言うのだろうか? どうもガーディアン紙にとっては、パレスチナに関するかぎり、事情は異なるらしい。そのガザ地区の環境はと言えば、イスラエル国防軍の空爆によって木っ端微塵の惨状を呈しているのであるが」

イスラエルの政策とガザの資源との結びつきについては、上のクック氏も以下のように述べている。

「この話題はガザを報道する際、また、欧米の介入を批判する際に中核をなすべきものだ。この介入には、英国自身、戦争犯罪者としてトニー・ブレアがかかわっている。彼は欧米の共同謀議に加わって、ガザの人々にその正当な富を分配することを拒んだ。しかし、ガーディアン紙は、他のメディアと同様、この話題を黙殺した」

クック氏は、アーメド氏との契約打ち切りをめぐりガーディアン紙があげた理由を厳しく批判する。

「リベラル派メディアで働く環境ブログの執筆者が、天然資源の支配と戦争との関連を検証することを推奨されないとは、信じがたいほど理に欠けた話である。前者は地球温暖化と密接にかかわっているし、後者は一般市民の死と生態系の劣化をもたらすのに」

そして、クック氏はこう結論づける。

「要するに、アーメド氏は割り当てられた範囲からひどく逸脱したわけではない。あまりに深く踏み込んだのだ。その領域はイスラエルとパレスチナの紛争にかかわるもので、ガーディアン紙が信を置くごく少数の記者またはコメンテーターにかぎってあつかいを許しているものだ。アーメド氏は、慎重に選ばれた者のみが立ち入ることを許された領域にうっかり足をつっ込んだのである」


きわめて遺憾」ではあるが、「前例がまったくないわけではない」

アーメド氏は、自分の契約打ち切りの件を11月27日に明らかにした。その後数日は、ガーディアン紙の関係者でジョージ・モンビオ氏以外は、誰ひとりこの事実にふれさえしなかった。コラムニストのモンビオ氏は質問を受けて、以下のように手短に答えた。

「私はこの件に関しては何も知らない。が、事実を質してみるつもりだ」

また、以前ガーディアン紙に寄稿していたグレン・グリーンウォルド氏は、本サイトからのツイートに対してこう返した。

「この出来事については全然事情を知らない。しかし、アーメド氏の言い分には強い説得力がある。ガーディアン紙が何と答えるか非常に興味をそそられる」

モンビオ氏からはその後何も言ってこない。われわれはシェイマス・ミルン氏に質問を送ってみた。同氏は、モンビオ氏と同様、長年ガーディアン紙に定期的にコラムを寄稿している。質問は、アーメド氏の「嘆かわしい検閲」なる主張に対してなんらかの対応をするかどうかであった。数日ほど間をおいて、ミルン氏は以下のような返事を送ってきた。

「もちろん対応する。ガーディアン紙、オブザーバー紙では従業員の95パーセントが組合に入っている(私はNUJ(訳注: 英国ジャーナリスト組合)の議長でもある)。この件について調べてみる」

本サイト、また他の人々も、オーウェン・ジョーンズ、リチャード・シーモア、デビッド・ウエアリングなどの各氏にくり返しこの件について意見を求めた。いずれもガーディアン紙に寄稿し、剛毅な、独立独歩のコラムニストと目されている士である。しかし、彼らは今のところ賢明な沈黙をたもっている。われわれがこれまで著書やこの「メディア・アラート」のコーナーで幾度も述べてきたことだが、このような展開は想定内のことであるし、理解できることでもある。つまり、ジャーナリストが自分の雇用主(または将来そうなるであろう人物)に対して批判的な言辞を書きつけることは栄達の道をみずから閉ざすことに等しい。であるから、期待できるのはせいぜいこれらの問題が「内密に」論議されることぐらいであろう。はたせるかな、アーメド氏は、ガーディアン紙の「内部および外部の」ジャーナリストの数人から個人的に伝えられた。君の経験は「きわめて遺憾なものではあるが、前例がまったくないわけではない」、と。

アーメド氏はさらに述べる。

「英国のとある刊行物で編集幹部をつとめ、ガーディアン紙の論説欄にもたびたび寄稿している人物が私にこう言った。自分の認識では、イスラエル・パレスチナ問題の記事は一切、ガーディアン紙の論説欄の編集主幹であるジョナサン・フリードランドによって『厳しく統制』されている、と」

また、アーメド氏は他の複数のジャーナリストからも、フリードランド氏は実質上、中東紛争に関するガーディアン紙の「お目付け役」であると聞かされた。フリードランド氏がきわめてイスラエル寄りであることは、確かに同氏自身の書いた文章を少し読んだだけでもわかる。すでに述べたようにジョナサン・クック氏は元ガーディアン紙の記者で、現在はナザレに腰をすえたフリーのジャーナリストであるが、このあたりの事情をいやというほど承知している。「イスラエルに対するガーディアン紙の過去から現在に至る支持」をクック氏は指摘し、その大方はフリードランド氏が主導し、かつ、後押ししていたと言う。フリードランド氏は「イスラエルに関して、醜悪な、ひどく熱狂的な見解」を持っているそうである。同氏が今年オーウェル賞受賞者のひとりになったことは皮肉な意味でふさわしいことであった。

大勢の人々がアーメド氏の文章を読み、フリードランド氏にそれについての返答を求めた。同氏は12月4日にアーメド氏に返信し、当該ブログの打ち切りに自分はいっさいかかわっていないと主張し、次のように述べている。

「貴殿がガーディアン紙に文章を載せていることを自分はまったく知らなかった。契約が打ち切りになったことを知らなかった。ほんの数時間前までガザの天然ガスに言及した貴殿の文章のことをつゆほども知らなかった。それに、私は貴殿の言う7月の何日間かは休暇をとって海外にいた。きっぱり言わせてもらうが、貴殿の件に関して、私の関与はとことんゼロである」

アーメド氏はこれにこう応じた。

「私が『ミディアム』に書いた文章についての貴殿の解釈は正しくありません。[…] 私は、私の契約の打ち切りに関して、貴殿が関与したと示唆しているわけではありません。私はその事情をみじんも存じません。なにしろ、打ち切りになったのは寝耳に水の、反倫理的な、不法なやり方だったのですから」

イスラエル・パレスチナ問題におけるガーディアン紙の検閲、そして、この点でのフリードランド氏の大きな役割を指摘したアーメド氏の文章の主旨を、フリードランド氏は返事の中で巧妙に素通りした。
アーメド氏は幾人かのジャーナリストに言葉をかけたが、彼らは、

「今回の私のような経験は前例がないわけではないと言い、貴殿の名前をあげたのです。彼らによれば、[…] それは、ガーディアン紙全体に深く浸透した気風の一部とのことでした。彼らは匿名を条件に話してくれたのですが、この気風をはぐくむにあたっては、貴殿が中核的な役割をはたしたと言っています。また、イスラエルを批判する正当な記事を、貴殿は報道上実質的な根拠なしに没にしたとも語りました。私は単に彼らの言葉をそのまま伝えただけです」

先週の終わりまでにガーディアン紙は一般購読者の疑問の声の高まりを受け、そしておそらくは社内の記者の一部からさえそうした声があがったために、同紙の親会社は、明らかにダメージの押さえ込みを図って、簡潔な声明を出した。オーウェルの『1984年』の一節を想起させる、ガーディアン・メディア・グループによるその声明はこう告げる。

「[アーメド氏は]ガーディアン紙の正規の社員に属していません。本紙掲載の同氏のブログ『アース・インサイト』があつかう題材は環境と地政学との結びつきをめぐるものでした。しかし、幅広いテーマをあつかう同氏の文章が当初の趣旨からあまりに甚だしく逸脱することがたび重なったために、われわれはブログを終了する結論に至りました」

「あまりに甚だしく」とはどの程度を意味するのか-----この点の説明は必要と見なされないのである。以前にチョムスキー氏も指摘したことであるが、もっとも「リベラル」とされるメディアにおいてさえ、許される議論には限界がある。「ここまでは来たるを得べし、しかし、ここを越ゆべからず」である(訳注: 旧約聖書『ヨブ記』からの引用)。イスラエルを支持する強力な圧力団体が、報道内容をふくめ、英国の政治をこのような「許容できる」範囲にとどめることに手を貸している。アーメド氏の契約がかくも唐突に打ち切られた経緯は、ガーディアン紙の事情に精通した内部告発者が現れないかぎり、われわれは正確に知ることはできない。
しかしながら、ガザの天然ガスを念頭に置いたイスラエルの軍事行動に関するアーメド氏の洞察力に富んだ文章に対して、ガーディアン紙がこれほどすばやく、かつ、激烈な反応を示したことは、きわめて異様であり、特筆に値する。

ガーディアン紙との間で起こったことをアーメド氏が公開すると決めたことはまったく賞賛に値する。何も言わずにおく行き方も十分にあり得たはずである。つまり、ガーディアン紙が適当な譴責をおこなった後、ふたたび契約を続ける見込みが期待できた。もしくは、他の「大手」新聞との契約の可能性も残されていた。
アーメド氏は述べる。

「ガーディアン紙は、私との契約において同紙が擁護すべきである論説の自由をみずから侵犯した。私がこのことを明らかにしたのは一般市民の利益に資すると信じているからである。市民は、世界に冠たるリベラルの声と称し、ピュリッツァー賞受賞歴を誇るこの新聞が、こともなげに検閲をおこない、イスラエルのかかげる軍事行動の根拠をゆるがす事項について、報道を停止させたことを知るべきなのである」

過去の事象を手がかりとするなら、アーメド氏は、ガーディアン紙、他の「大手」報道機関、また、以前は支持してくれた企業ジャーナリストの大半から「アブナイ」存在と見なされるだろう。企業の不可侵領域に踏み込んだ人間のひとりに数えられることになろう。つまり、企業ジャーナリストが遵守すべき第一原則-----『汝の雇用主を批判するべからず』-----を破った人間として。

似たような事情は Giulio Sica氏の場合にもうかがえる。Sica氏は2007年から2013年の間、ガーディアン紙でサブ・エディターとして働き、折にふれ記事も書いてきた。その一方で、「反戦デモや地球温暖化に関連するデモに参加していた。エコ・スピリチュアル系とアナーキスト系の組織の混交といったような集団の人々に立ち混じって」。Sica氏は、この方面の関心はガーディアン紙で歓迎されるだろうと思っていた。残念ながら、同氏は10月に次のように書くに至った。

「私がある日気づいてガッカリしたことだが …… 実際のところ、ガーディアン紙には、少しでも進歩的あるいはスピリチュアル寄りのものに対しては、あからさまな軽侮を示す風土があるように思われた。また、きわめてうさん臭い内部駆け引きもあった。私はそれに対して公式のルートを通じて堂々と強く異議をとなえたが、何のかいもなかった。結局、私の契約は打ち切りを告げられた」

公衆は、ガーディアン紙では「どんな意見も歓迎される」と信じ込まされている。何と言ってもガーディアン紙は「右翼の信奉する価値観ではなく、リベラルで人道的、左寄りの価値観」に土台を置いていると見なされているからだ。
しかし、Sica氏の言うには、

「意見の割れる問題について論じることは奨励されなかった。いや、むしろ、暗黙的に忌避される感触があった。たとえば、私がわずかでも欧米の主流メディアの喧伝することに批判的な言葉を述べたとしよう。自分の意見であっても他人の意見を伝えるものであってもかまわない。政府の(当時の労働党政権の)経済政策が新保守主義的であるとか、ブレア元首相はあやまった前提に基づき英国を戦争に駆り立てた廉で戦争犯罪人として裁かれるべきだ、等々、こういった主旨の見解を示唆する。すると、これに対する反応は大抵がいきなりのこき下ろしか気まずい沈黙であり、堂々と進んで議論するといった展開にはならない。政治にかかわる社内での会話は『ニュー・レイバー』(新しい労働党)の政策方針に沿った形のものであるように思われた」

Sica氏はむしろガーディアン紙が右に傾きつつある雰囲気を感じ取っている。

「あの2001年9月11日の出来事以来、数々の点で右派は一段と過激になったけれども、ガーディアン紙も-----リベラルな大手報道機関も概して-----右寄りに舵を切ったように思われる。彼らは戦争や「人道的介入」を全面的にではないにせよ支持し、また、1960年代には反体制的思考と見なされていたものに対して総じて冷笑的態度をとる。このような変容によって、彼らは、多文化的な階級闘争が次第に偏狭さを強めることに対して有効に異議をとなえることができない、もしくは異議をとなえたがらない」

そして、Sica氏はこう締めくくる。

「ガーディアン紙を左派、リベラルの報道機関として遇するのは自己欺瞞であり(また、同紙は文化的多様性、多分野横断的性格を装っている)、それは厳しく問い直されなければならない-----真にバランスのとれた、英国の左派・急進派・リベラル派の観点を代表、反映する報道機関を構築するために」

ガーディアン紙は自分自身をリベラルだと信じているかもしれないが、現実には「人種的単一文化」に属し、視野のせまい上流中産階級の世界観の特徴をすべてそなえている。


権力の守護者

このサイトでたびたび言及したことであるが、ガーディアン紙は、企業メディアの「風土」の中でリベラル派に属する。また、ガーディアン紙自身、みずからのイメージを報道のための寛容な広場として提示し、進んで権力者に責任を問う存在として描く。くわえて、同紙は、スコット・トラスト・リミテッド(2008年にスコット・トラストから移行)の庇護の下での報道の自由をおおいに自慢にしている。
かかる次第であるから、同紙は、一見したところ、あたかも企業組織ではないかのような印象を人にあたえる。しかし、実際は、同紙を所有しているのはガーディアン・メディア・グループであり、その運営は大きな影響力を有する取締役会のメンバーが指図している。彼らはエリートであり、銀行や保険会社、広告会社、消費者向け商品をあつかう多国籍企業、電気通信会社、情報テクノロジー大手、ベンチャー投資会社、報道企業、マーケティング企業、『世界経済フォーラム』の参加企業、その他、大規模な事業会社や金融会社などで働いた経歴を有する、広い人脈を誇る人間たちである。言い換えれば、この取締役会のメンバーには、過激なまでに非妥協的な環境運動家、人権運動家、平和活動家、労働組合支持者、NHS支持者(訳注: NHSは英国の国営医療保険制度)、シェア居住提唱者などはふくまれていない。既存の体制を脅かすおそれのある人物も見当たらない。
アーメド氏は次のように語る。

「もしガーディアン紙がこのようなありさまであるならば-----同紙が一流の新聞であることは疑いないが-----、それなら、われわれが報道に関して深刻な問題をかかえていることは明らかである。要するに、主流派のメディアはある強力な利益集団-----その利益が経済、企業、思想のいずれにかかわるかは別として-----の不当な影響下にある」

そして、氏はこう締めくくる。

「私たちが目下直面しているさまざまな危機-----地球温暖化、エネルギー供給の不安定性、金融危機、経済格差の拡大、種の絶滅の増加、海洋の過度の酸性化、食料危機、対外政策の強硬化、警察国家の台頭、等々-----これらの危機が同時に襲いかかってくる深刻さに思いを致し、一方で、これらの危機の真因と可能な解決策を提示する上で現在のメディアの大半が非力であることを考えれば、私たちには、ニュースと情報に関して信頼でき、説明責任を負う新たなメディアが必要である」 。


デビッド・クロムウェル、デビッド・エドワーズ


推奨される行動

アーメド氏は、企業メディアの報道に代わる有望な存在として、クラウド・ファンディングの手法を採用した、独立系の報道組織を起ち上げる構想を明らかにした。当面の目標は、同氏のフルタイムの調査報道を可能にすることである。これに成功した場合の次の段階のことも同氏はすでに考えている。すなわち、専用のウェブサイトを持つ、マルチメディアの、一般市民の力を結集した新しい調査報道共同体である。筆者は将来、この組織に新たな調査報道を依頼するとともに、私の活動領域においてもこの組織に参加するすぐれたジャーナリストの力を借りたいと思っている。本サイトをご覧になる方々もアーメド氏の新たな試みにぜひ支援の手を差し延べられんことを。
同氏の拠点は
https://www.patreon.com/nafeez?alert=1
である。


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[補足と余談など]

今回の文章も米英または欧米のいつものパターンを衝いたものになっています。

米英または欧米が他国に介入や侵攻をおこなう際、主要動機のひとつに資源掌握があることを大手メディアが表だって報じることはほとんどありません。「自由」や「民主主義」のため、近年は「テロとの戦い」というスローガンが大々的に喧伝されます。
特に英米とイスラエルに関しては、大手メディアの「報道自粛」、「自主規制」や「内部検閲」は甚だしいようです。

リベラル派の代表と目されるガーディアン紙がこんなありさまですから後は推して知るべしです。

これらの報道自粛、内部検閲については、このブログでたびたび取り上げました。代表的なものは例えば、

・ニューヨーク・タイムズ紙の腐敗
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/e65b803d9cd1f4369f6c8b5bfc09a9f8

また、軍事行動と資源掌握の関係については、

・イラク戦争から10年-----勝者はビッグ・オイル(巨大石油企業)
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/a660ded32f1d08a841f0948fd2be6be7

などです。
まだ読んでない方はぜひご一読を。

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はじめまして (motty_1945)
2015-02-10 09:01:45
『ガーディアン』紙による、「イスラエルの軍事行動とガザの天然ガス資源との結びつきを報じた自社サイト内のブログを突如打ち切り」の情報に関心があり、検索によってたどりつきました。もっと早くから貴サイトのこと知っていれば・・・と思いました。ジャーナリズムの自主規制などがようやく問題視されネット上でも話題にされることが多くなってきた昨今、貴重な情報をありがとうございます。そして、益々のご活躍をお願い申し上げます。
返信する
レスありがとうございます (吉田秀)
2015-02-10 12:38:05
motty_1945様、レスありがとうございます。

「ジャーナリズムの自主規制などがようやく問題視されネット上でも話題にされることが多くなってきた昨今」
そうでしょうか。そうだといいのですが ……

日本の大手メディアもこのガーディアン紙その他と同じ病に侵されていますから、自分たちからその欠陥を大々的に報道することはなく、この問題はなかなか人々の意識にはのぼりにくいですね。

せめてネットでは警告を発し続けたいと思っていますが。
これは、『Media Lens』さんが引用したことのあるチョムスキー氏の言葉を借りれば、「つまようじで10トントラックを動かそうとする試み」ですね ^^)
(以前のブログの「英国のメディア監視サイト・2-----企業ジャーナリズムをめぐって」もぜひご一読を)
返信する
Unknown (motty_1945)
2015-02-11 10:27:54
 「英国のメディア監視サイト・2-----企業ジャーナリズムをめぐって」を読ませていただきました。今や世界的に、メジャー紙に非「プロパガンダ紙」を求めるのがまったく困難な状況にあるようです。日本においても例外ではなく、特にISILによる邦人人質惨殺以後安倍政権によるメディアなどに対する<政権批判自粛圧力>は相当なもので、古賀茂明氏、映画監督の想田和弘氏、今井一氏などからは、「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」が発せられるほどです。
 自分には、米国(もちろん「米国民」の意ではありません)が、ウクライナを介してロシアに圧力をかけ屈服を強いるにあたり、まるで<核戦争も辞さず>臨んでいるようにも思われ、目の前が真っ暗になり悲観のどん底にくれた時期もありました。加えて、翼賛体制に驀進する日本の状況に直面している現在、にもかかわらずかえって目の前がほんのり明るくなり始めています。それは、米国(と、それを宗主国とする勢力)はすでに絶頂期を過ぎ衰退の下り坂にさしかかっているという実感に拠ります。それはあのG7が機能しなくなり、G20がそれに代わりはじめたことなどに伺われます。また、米国の<お膝元>の中南米で、ヴェネズエラ・ボリビアなど反・非米諸国の台頭があり、さらに米国とキューバとの国交回復の動きなどにも感じられるのです。そして最近ですが、ネット上のサイトで勇気づけられる記事に遇いました。もうご存知かと思いますが、藤永茂氏の『私の闇の奥』というサイトで、です(<http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru>)。
「ロジャバ革命」、初めて知りました。こういう情報は、「プロパガンダ紙」からは決して得られません。長くなりますが以下に一部を引用させていただき、このコメントもおしまいにします。(大変長くなり申し訳ありません)
 PS:「翼賛体制」に一穴をあけるべく、貴サイトの益々のご活躍をお願い申し上げます。

===引用開始===
「ロジャバ革命」と呼ばれる政治的状況の展開はその顕著な一例です。それを、その事実と意義をはっきり詳しく我々に告げようとする専門家は一人も見当たりません。
 シリア北部、トルコとの国境に近いコバニの町とその周辺で、イスラム国はその発祥以来初めての決定的な軍事的敗北を喫しました。コバニの死闘をスターリングラードの死闘と並べる声さえ聞こえてきます。そして、その勝利の原動力は女性戦士たちであったのです。イスラム国の軍隊に立ち向かったクルド人部隊に女性兵士も多数加わったというのではありません。男性部隊(YPG)と女性部隊(YPJ)が肩を並べて共々に闘ったのです。コバニの勝利に象徴される「ロジャバ革命」が女性革命だとされる一つの理由がここにあります。もし、「ロジャバ革命」のこの重要な本質が、専門家たちによって広く世に伝えられたならば、世界中の本物のフェミニストたちは歓呼の声を上げるに違いありません。
===引用終わり===
返信する
再度のレスありがとうございます (吉田秀)
2015-02-12 12:39:19
motty_1945様

返信が遅くて申し訳ありません。

>古賀茂明氏、映画監督の想田和弘氏、今井一氏などからは、~が発せられるほどです。

そうですね、何か太平洋戦争に突入しつつある昭和初期の時代はこんな雰囲気だったのかなと思わせられるぐらいです。


>~米国(と、それを宗主国とする勢力)はすでに絶頂期を過ぎ衰退の下り坂にさしかかっている~

相対的にはこれに間違いないですね。ただ、これを意識した米国がどんな強硬、やぶれかぶれの手段に訴えようとするかはやや懸念材料です。
それを危ぶんだ内容の英語のコラムがあり、訳したいのですが、時間がなくて原文をコピー、ファイルにして保管しているだけになっています。
訳したい文章はたくさんありますが、「積読」状態ならぬ「積訳」?状態。 (^^;)


>~藤永茂氏の『私の闇の奥』というサイト~
存在は知っておりますよ。以前に訳出の過程で、疑問点その他を検索した際に遭遇しました。
以前のブログの回の「一ジャーナリストの孤独な闘い」の末尾のコメント欄で紹介させていただきました。

ただ、私は能力の限界からテーマを広げるのを恐れております。
今のところ中東問題やフェミニズム関連の話題が中心になった文章をこのブログで取り上げる気持ちはないんです。藤永茂氏のような適任者がおられますから。
このブログでは今後も「メディアの偏向報道」を衝く文章を主に取り上げていきたいと思っています。

「ロジャバ革命」については勉強になりました。中東問題については私はまだまだ常識さえ知らないので、藤永氏のブログのような存在はありがたいです。

丁寧なご感想と「ロジャバ革命」についての情報ありがとうございました。



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うーん (sada)
2015-02-25 15:35:01
ガーディアンは最近下のようなイスラエル批判記事をトップで報道してたりするので、
http://www.theguardian.com/world/2015/feb/23/leaked-spy-cables-netanyahu-iran-bomb-mossad
確かにガーディアンはパレスチナ問題をあまり取り上げない ようには感じますが、この一件をもってガーディアンはイスラエルに批判的な記事は載せないというのはちょっと言い過ぎかなもと感じます。
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うーん (吉田秀)
2015-02-25 17:24:56
sadaさんは本当にこのブログの文章を読んでるんでしょうか。

「~ガーディアンはイスラエルに批判的な記事は載せない~」
などとは、私も『メディア・レンズ』の筆者もアーメド氏も誰も言ってないと思いますが。

今回の事件は、イスラエルに批判的な文章の中でも特にイスラエルにとって急所となる事柄、もっとも不都合な事柄-----つまり、軍事行動と天然資源掌握の意図の結びつき-----を報じたとたんにアーメド氏が首を切られたらしいということです。

批判的な記事をいっさい載せないメディアというのなら話は簡単です。
そこまであからさまなら一般人も最初から相手にしません。

ところが「客観報道」を看板にかかげながら、隠微な、姑息なやり方で偏向報道がおこなわれていることが問題なんです。

つまり、中国やロシアが同じようなことをおこなった場合、その件について批判的な記事が複数回-----5回とか-----書かれるような場合でも、イスラエルがおこなった場合は2、3回にとどまる、とか、中国やロシアに対しては強い非難の口調で書かれるのに対して、イスラエルの場合はそれほど強い口調ではない、とかいうことです。

そういういわばタチの悪い偏向報道がまかり通っているのが現状です。

イスラエルに批判的な文章はいっさい載せないとか、さすがにガーディアン紙をはじめとする英米大手メディアはそこまでバカではありません。
一応「客観報道をしている」と言い張れる程度の批判的な記事は許しているわけです。

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