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気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

チョムスキー氏語る・5(続き)-----人類は生き延びることができるか

2014年12月30日 | 国際政治

前回の続きで、後半の部分です。
ただし、タイトルが別につけられています。

こちらのタイトルは
The Prospects for Survival
(人類存続の見込み)
となっています。

原文はこちらで読めます↓
https://zcomm.org/znetarticle/the-prospects-for-survival/


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The Prospects for Survival
人類存続の見込み


By Noam Chomsky
ノーム・チョムスキー

初出: New York Times Syndicate

2014年4月2日

本文章は、『核時代平和財団』の後援により2月28日にカリフォルニア州サンタバーバラでおこなわれたチョムスキー氏の講演に手を加えたもので、2部構成の後半に当たる。


前半の文章では、政府当局者にとっていかに国家安全保障が重要な事項であるかを探りました。ただし、この場合の安全保障とは、国家権力とその主要な支持者、ごく少数の私企業にとってのそれです。かかるがゆえに、政府の政策は国民の精査から遮断されなければならぬということになります。

この見方に沿えば、政府のふるまいの数々はみごとに理にかなっています-----集団自殺にも理屈があるという意味と同様に。核兵器による瞬時の壊滅さえ、国家権力にとっては、懸念事項の中で高い位置を占めたことは決してありませんでした。

冷戦時代の後期から例をひっぱってみましょう。1983年の11月にアメリカの主導する北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアの防空体制を探るために軍事演習を実施しました。空や海からの攻撃、さらには核兵器の使用を示唆する動きさえ模擬的な演習をおこないました。

この演習はきわめて緊迫した時期におこなわれたのです。欧州には戦略ミサイル「パーシングⅡ」が配備されつつありました。レーガン大統領は、あの「悪の帝国」のスピーチをおこなってまもなく「戦略防衛構想」、いわゆる「スター・ウォーズ」計画を発表していました。ロシア側はこれを実質的に先制攻撃のための枠組みと見なしました。しかし、ミサイル防衛なるものをこう解釈するのはすべての陣営の標準的な見方でした。

当然のことながら、これらの動きはロシアをおおいに警戒させました。米国と違って、ロシアは非常に脆弱な存在であり、歴史上何度も侵略をこうむっています。

あらたに公開された公式記録によると、この時の危機の深刻さは歴史家がそれまで考えていた程度をはるかにうわまわっています。昨年の『ストラテジック・スタディーズ』誌では、ドミトリ・アダムスキー氏がこう述べています。NATOの演習は「あやうく(ロシアの)予防的核攻撃を誘い出す前奏曲となるところであった」、と。

また、これが一触即発の唯一の例というわけでもありません。1983年の9月にロシアの早期警戒システムは米国からのミサイル攻撃を感知し、最高レベルの警報を鳴らしました。ソビエトの軍事要綱では、このような攻撃に対しては自身の核攻撃で報復する手はずが整えられていました。

ソビエト側の当時の担当係官であったスタニスラフ・ペトロフ氏は、これは誤作動であると直感的に判断し、上司に報告するまいと決めました。われわれが今こうして無事にこの出来事を話題にしていられるのは同氏の職務怠慢のおかげなのです。

一般市民の安全が最優先事項でなかったことは、レーガン政権だけでなくそれ以前の政権も同様でした。このような無頓着さは現在に至るまで続いています。それどころか、大惨事一歩手前の事故が何度となく起こっていました。それらは、最近上梓されたエリック・シュローサー氏による恐ろしい著書『指揮と統制: 核兵器、ダマスカス事故、安全という幻想』においてくわしく報じられています。

米戦略空軍の最後の司令官であったジョージ・バトラー氏は次にような感慨を記しています。人類がこれまでのところ核時代を生き延びることができたのは「技術、運、神慮が手を携えたおかげであった。私としては、後者が一番大きな役割を果たしたのではないかと考えている」、と。この見方に異を唱えるのはむずかしいでしょう。

人類の存続に対する脅威を米国政府が決まってほとんど意に介さない様子は実に常軌を逸していて、言葉では表現できないほどです。

1995年、すなわち、ソビエト連邦の崩壊からそれなりの時間を経過してから、米戦略軍(STRATCOM)-----これは核兵器を管轄する部署です-----は、『冷戦時代後の抑止力の骨子』と題する研究報告を発表しました。

その柱となる結論は、米国はたとえ核を持たない国に対してでも核の先制攻撃の権利を保有すべしというものです。さらには、核兵器はいつでも使用可能な状態でなければならぬとも述べています。なぜなら、それは「いかなる危機もしくは紛争に対しても影響力を発揮する」からです。

かくして核兵器は常時利用されます。強盗が店に押し入り銃を突きつけるものの決して発砲しない、ちょうどそういうような用いられ方ではありますが。この本質的な性格は、ペンタゴン・ペーパーズを暴露したダニエル・エルズバーグ氏がくり返し強調するところです。

米戦略軍の報告書はさらにこう助言しています。
「政策策定者は、敵が何に重きを置くかを判断する際、過度に理性的であるべきではない」。すべてを標的としなければならない。「われわれがまったく理性的であり、沈着冷静であると相手に思わせることは得策ではない。米国は、その重要な国益が攻撃された場合、理性をうしない、報復的な挙に出る可能性がある-----このようなイメージが、すべての敵対者にわれわれが投影する米国像の一部であるべきだ」。

また、こうも述べています。
「[我が国の戦略的観点からすれば、]いくつかの要素が『制御不能』の恐れありとの印象をあたえること」、そして、それにより核攻撃の脅威を常時相手に感じさせることは「好都合である」。

この報告書には、核拡散防止条約の要求する責務にふさわしい調子はほとんど見当たりません。条約は核兵器の惨禍を地球からなくすために「誠実な」努力をするよう求めているのですから。報告書から響いてくる声は、むしろ、ヒレア・ベロックが1898年にマキシム式機関銃について詠じたあの有名な二行連句をもじったものでしょう。すなわち、

Whatever happens we have got,
The Atom Bomb and they have not.
(何があろうと我らには原爆あり、
あいつらにはなし)

今後の展開もあまり期待できません。米連邦予算局が昨年12月に報告したことですが、核兵器の備蓄のために米国は向こう10年間で3550億ドルを必要とする見込みです。また、1月には、ジェームス・マーティン核不拡散研究所が、今後30年間で核兵器に1兆ドルが費やされるとの推計を発表しています。

そして、言うまでもなく、軍備競争の参加者はアメリカ一国だけではありません。バトラー氏が述べたように、私たちがこれまで破滅をまぬがれることができたのは奇跡に等しい。私たちが幸運を試し続ければ続けるほど、奇跡の継続を願って神の配慮を頼みにすることはむずかしくなります。

核兵器に関しては、人類絶滅の脅威を回避する術を私たちは少なくとも原理的には知っています。つまり、核兵器を廃棄することです。

しかしながら、将来を見据える時、もうひとつ、恐るべき危険が影を投げかけています。すなわち、環境災害です。これを回避する術があるかどうかさえ分明ではありません。しかし、私たちがぐずぐずすればするほど、その脅威は大きくなります。しかも、それは遠い未来のことではないのです。ですから、政府当局がこの問題にどのように取り組んでいるかを見れば、国民の安全に対する政府当局の配慮の真摯さが明確に浮かび上がってくるはずです。

ところが、米国は目下、「エネルギー自立の100年」を高らかに宣言しています。米国は「次の100年のサウジアラビア」になると鼻をうごめかしています。しかし、「次の100年」は、もし現行の政策が継続されれば人類の文明にとって「終わりの100年」になる恐れがあります。

オバマ大統領は2年ほど前、石油のおかげで栄えるオクラホマ州の町クッシングで演説しましたが、この演説を「地球上の生き物に死を告げる高らかな鐘の音」と感じる人さえいるかもしれません。

オバマ大統領は誇らしげに次のように述べ、それは盛大な拍手をもって迎えられました。
「現在、私の政権下において、アメリカの原油産出量は8年ぶりの高水準となっています。この点は皆さんにぜひ知っておいていただきたい。ここ3年間で、私は関係当局にうながし、天然ガスと石油の掘削のために、総計23の州において、広大な土地の開発を許可しました。また、現在、海底油田の候補地の75パーセント以上を調査、開発しています。稼動中の掘削装置数は4倍に増え、記録的な水準です。さらには、新規の石油パイプラインと天然ガスのパイプラインを敷設し、地球を一周しても余りあるほどの長さに達しています」。

これに対する拍手喝采は、安全保障に関する政府の取組みについても重要なことを物語っています。つまり、産業界の利益は確実に安泰を保障されるということです。「米国本土において原油と天然ガスの産出量を増やすこと」は、大統領が約束したように、今後もエネルギー戦略の「きわめて重要な構成要素」であり続けると考えられるからです。

その産業界は、目下、大規模なプロパガンダ作戦を展開中です。一般大衆に地球温暖化は、たとえ実際に起こっているにせよ、人間の活動に由来するものではないと信じ込ませるためです。これらの試みは一般大衆のよけいな理性を抑え込むことをねらっています。大衆は、科学者たちが総じてほぼ確実であり、見通しが暗いとするこの脅威について、ずっと懸念を抱き続けています。

つまり、乱暴に言えばこういうことです。今日の資本主義の倫理尺度においては、「自分の孫たちの運命よりも将来のボーナスが増えることが大事である」。

さて、そうすると、人類存続の見込みはいかなるものでしょうか。見込みが明るいとは言えません。けれども、より大いなる自由と公正のためにこれまで何世紀もの間努力したきた人々の成し遂げたことは、私たちに遺産として残されています。それを受け継ぎ、今後の世代にひき渡すことは可能ですし、しなければならないことです。それも、時をおかずに、です-----もし人類のまっとうな存続の希望を私たちが捨て去るのでないならば。この対処の仕方によって、私たちがどのような生き物であるかが何よりも雄弁に明かされるでしょう。


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[訳注と補足と余談など]

■訳文中の

「1983年の9月にロシアの早期警戒システムは米国からのミサイル攻撃を感知し、最高レベルの警報を鳴らしました。~」

の出来事については、以下のサイトでくわしく取り上げられています。

UKトピックス | BBCワールドニュース‐英国放送協会の国際 ...
https://www.bbcworldnews-japan.com/uk_topics/view/0000235


■訳文中の

「~最近上梓されたエリック・シュローサー氏による恐ろしい著書『指揮と統制: 核兵器、ダマスカス事故、安全という幻想』~」

については、下記のサイトで紹介されています。

先に少しばかり引用させていただくと、

事故により
「もし爆発していたら、半径27キロ圏の住民は確実に命を失い、ワシントン、ボルチィモア、フィラデルフィア、ニューヨークに死の灰が降り注ぎ数百万の犠牲者がでていたと推定されている。」

もうひとつの事故では
「もし、これが爆発していたら、当時ビル・クリントンが知事をしていたアーカンソー州は消滅していただろう。」

http://lgmi.jp/detail.php?id=2012
原爆事故、ニアミスの恐怖 ~フランス田舎暮らし(32)~:LGMI
lgmi.jp/detail.php?id=2012


また、いつものことながら、Democracy Now! Japan(『デモクラシー・ナウ・ジャパン』)さんもこの話題を取り上げていました↓

33年前に米国がかろうじて回避した核ホロコースト 
しかし今も破滅の危険が
http://democracynow.jp/dailynews/13/09/18/3


■上にふれたエリック・シュローサー氏のこの著書
(原題は Command and Control: Nuclear Weapons, the Damascus Accident, and the Illusion of Safety)
は、日本のどこかの出版社が翻訳にとりかかっていて近々出版される手はずにすでになっているのでしょうか。
これはまさしく「必読書」と言うほかありません。


■訳文中の

「その産業界は、目下、大規模なプロパガンダ作戦を展開中です。~」

に関連して言うと、この話題は本ブログの以前の回で取り上げました↓

地球温暖化の否定に躍起となる石炭・石油企業
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/6ba08428bcd9343a2cad59b2a8b6fd56


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