目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

真夏の方程式 ★★★★

2013-07-25 07:39:04 | ★★★★
真夏の方程式

横浜ブルク13でレイトショーで鑑賞。
原作シリーズは何作品か既読。ドラマと前作映画、TVSPは全て観ています。

(以下あらすじ)
東野圭吾原作、福山雅治が天才物理学者・湯川学を演じる人気シリーズの劇場版第2作。子ども嫌いで有名な湯川が、10歳の少年・恭平と海辺の町で夏を過ごすことになり、事件に巻き込まれていく姿を描く。手つかずの美しい海が残る玻璃ヶ浦で海底資源の開発計画が持ち上がり、その説明会に招かれた湯川は、宿泊先の旅館「緑岩荘」でひとりの少年・恭平と出会う。やがて旅館の近くで男性の変死体が発見され、遺体の身元が「緑岩荘」に宿泊していた元捜査一課の刑事・塚原だということがわかる。地元警察は塚原の死を転落死として処理しようとするが、現地入りした捜査一課の岸谷美砂は、塚原の死に不可解な点があることに気づき、湯川に事件解決への協力を依頼する。吉高由里子、北村一輝らシリーズのレギュラー陣に加え、杏、風吹ジュン、前田吟らが共演。監督は前作「容疑者Xの献身」と同じく西谷弘。
(以上映画.comより)

これは久しぶりにTVドラマ原作で傑作が出てきたように感じました。どうしても、ガリレオと言うか、東野圭吾が描いてきた湯川学というキャラクターを事前に知っておかなくてはいけない、という制限はあるものの、それを除けば、かなり良質な推理もの映画であり、夏休み映画であるように感じます。

TVドラマ ガリレオ、そして、前作の映画 容疑者xの献身を観ていることはある程度前提として必要な映画であることも事実ではありますが…。

吉高由里子演じる刑事岸谷との絡みは極力控え目、と言うところにも好感が持てました。あくまで、現地で知り合った旅館の娘とその家族、さらにその親戚の男の子、を中心に話が進み、事件が起こり、それとは並行して、ペットボトルロケットの絡む一夏の少年の冒険が挟まり、さらに謎に対して、様々な答えが提示される度に重大な「選択」を余儀無くされる登場人物たち。

序盤の、海底探査に対する住民への説明会における、湯川学の「これは選択の問題だ」というセリフがありましたが、まさにこの映画そのものが、「選択」を主題にした映画、とも言えるように感じました。

そして、この展開は湯川が容疑者xの献身での石神との一件を口にはしないものの、意識している、ということを前提にした作劇であることもまた感じさせられます。
そもそも、劇場版の「容疑者xの献身」はTVシリーズからの流れからは一線を画す特殊な作品でした。映画として主人公が湯川学である必要も必然性も欠けたものになってしまっていました。(それは石神をそんなに醜男ではない堤真一が演じてしまった、石神が登山を趣味にしてるという不要な映画のみの設定、というところからも来ています。原作からの改悪と言えます。)
ですが、真夏の方程式には主人公が物理学者もしくはそれに詳しい人間であるべきある程度の必然性があり、作中で恭平少年に深入りしていく様も含めて説得力を持って描かれており、そこも含めて、ガリレオの映画として成功を収めてる要因となっているのかな、と感じさせられました。そういう意味では原作をうまく映画化できている、と感じるのです。

容疑者xの献身ではドラマのハイテンションな展開もなく、コメディ展開もなく、ドラマでは狂言回しとして機能する柴咲コウ演じる内海薫の役どころがむしろ邪魔に感じるほどでしたし、ドラマではお約束だった派手なテーマ曲もフレミングの左手のポーズも突然方程式書き出すシーンも無かったわけです。

真夏の方程式も、吉高由里子演じる岸谷は不要な要素であり、北村一輝演じる草薙だけでも話は事足ります。ただし、その違和感は最低限に抑えられ、派手な要素は殆ど排除されているのにも関わらず、福山雅治が作曲した派手なテーマ曲は前作同様、本作品にはそぐわないと思わせておいて、ほろ苦いエンディングからのこの曲が一気にかかるシーンで総毛立つという意外な効果。不思議ですよねえ。本編OPの鉄道のパンタグラフが映り電車が海辺の田舎町を走っていくシーンはEDにも差し挟まれうまい具合にサンドイッチ構造になっているのですが、この構造の間に差し挟まれているのが、深刻な事件と少年の一夏の鮮明な経験、というところにある種の爽快感が生まれてるのですよねえ。これは目から鱗でした。このアップテンポの激しい曲が「泣き」の効果を生み出すというのが意外過ぎました。


さて、ここからはネタバレ。


恭平少年が終盤に湯川から「一緒に考え続ける、君は一人じゃない」というシーン。湯川は容疑者xの献身あたりまで、どんな時も事件関係者の「人生」までは背負ってきませんでした。ただ、石神との一件以降、確実にキャラクターとして変化が生じたと思うのです。その中でも今回は最も大きな変化だったように感じます。「僕が興味があるのはこの謎を解くことだけだ、事件の被害者の心情は僕の関知するところではない、それは警察の仕事だ」と一線を引き続けてきた湯川が積極的に謎を解き、たまたま知り合った恭平少年の人生に深く関わるわけです。彼に科学の興味深さを教えるだけでなく、彼の精神に起こりうるだろう将来の問題にまで手を打ち、一緒に考え続けると言い切る。石神との事件を経た湯川だからこその行動、言動なのだな、と感じさせられます。
きっと、将来、理科が嫌いと言った彼は湯川の研究室のドアを生徒としてノックするのだろうな、と淡い期待を持たずにはいられない、そんな終わり方でした。

それにしても、杏演じる本作のヒロイン川畑成実の実の父親 仙波(白竜)が採った選択は涙無しには見られませんね。そして、そんな彼女やその母親川畑節子(風吹ジュン)を庇おうとした後夫 川畑重治(前田吟)もまた。当然、殺人は罪ですし犯罪者は裁かれて然るべきことではあると思いますし、美談にするべき話でもないのですが、それでも、いざ自分がその立場に立たされた時にそういう行動が迷いなく採れるのか、と言うのは難しいテーマだなあ、と感じざるを得ませんでした。
そんな複雑な情理が絡まった謎を鮮やかに解き明かしたのに、それを全て知らぬ存ぜぬで切り抜けられた時、岸谷に「先生はそれでいいんですか?」と聞かれて「完敗だ」と敢えて、距離を取る描写が今作品の白眉かもしれません。


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