Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

一人の男が飛行機から飛び降りる

2010-01-25 23:44:36 | 文学
ユアグローの小説をちびちびと読んでいます。とりあえず、『一人の男が・・・』の前半部分を読み終えたので、その感想を。

なんというか、「夢十夜」みたいな印象を持ちました。ユアグローの描く世界は夢の論理に支配されていて、不条理なこと、ありえないはずのことが、自然に発生します。超短編の多くはオチを工夫する、プロット重視の作りになっている、ということは以前にも書きましたが、ユアグローの場合はそうではなく、細部の描写や設定が奇抜で、それが読者をぐいぐい引っ張っています。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような奇天烈な物のオンパレードで、飽きさせません。いや、読者はおもちゃ箱の中を探検するような心持ちであるのかもしれません。

それでいて、個々の描写のおもしろさだけで終わっておらず、一つの作品としてもきちんと構築されていて、巧みな書き手だと言えます。それにしても、これほどの奇想を連発する作家の頭の中はどうなっているのでしょう。これだけのことが書けなければ作家には向いていないのだろうか、などと作家の素質のようなものに思いを巡らしてしまうほど、それほどに奇怪な想念を操る書き手です。

自分のことを少しだけ書くと、ごく短い物語を読む、ということは、実は案外難しいものだということが分かりました。その作品の中に没入する暇が与えられないんですね。ユアグローはすぐれたエンターテイナーでもありますから、ぐいぐい読者の襟をひっつかんで離さないところもありますが、しかし仮に没入できたとしても、それはたったの1ページ、せいぜい3,4ページで終了を宣告され、読者はまた次の物語に向かい合わねばなりません。この切り替えが、意外と集中力を要するのです。長編であれば、風景描写をぼんやりと読んでいる時間帯があったとしても、さほどその小説の理解に差し支えはありませんが、超短編ではそれが許されないのです。たったの一分間だけぼんやりと字面を追っていたら、もうその作品はピリオドが打たれてしまい、結局その小説の内容がまるで頭に入ってこなかったことになるわけです。

時間のないとき、ひょっと本を取り上げて2個か3個の作品を読んでみる、という読書の方法には適しているかもしれませんが、数時間ぶっつづけで読むような読書にはもしかすると向いていないのではないか・・・と思いました。もちろんこれはぼくのようにあまり集中力のない人が前提の話ですが。

しかし、しばらくの間、超短編を継続して読んでいこうと思っています。そのうち読むコツが見つかるかもしれません。


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