以前,問題が解けた興奮にまかせて書いた「Hilbert の呪い。」と題する記事の内容に興味を持ってくれた友人 gk 氏に解説を求められたとき,うまく説明できなかった。
なお,「呪い」というのは,「簡単に解けそうでいて,いざ考え始めるとなかなか解けず,いたずらに時間と労力を浪費させるパズル」という意味で使用している。
「呪い」という言葉はきつすぎるので,「宿題」くらいに言い換えた方が無難かな,と思う今日この頃である。
さて,特に次の問題の答えはその記事にもちゃんと書かなかったので,5分くらい考えても何のアイデアも出なかった:
この e のことを単位元と呼ぶ。
演算 * が加法 + のときは e は 0 のことであり,* が乗法のときは e は 1 に相当する。
これの証明を再現できたので,忘れないうちに書いておくことにする。
手始めに e の一意性を示すのに役立つ次の補題を示そう。
【補題1】
G の元 x,y が x*x=x かつ y*y=y を満たすならば x=y である。
《証明》
G の元 x,y が x*x=x かつ y*y=y を満たすと仮定する。
このとき,条件2から z*y=y を満たす z は一つしかないので,仮定 y*y=y とあわせて z=y が言えることに注意する。
さて,条件2により,x*w=y を満たす G の元 w が存在するので,x*x=x の両辺に右から w を作用させれば
(x*x)*w=x*w を得る。
条件1および w の定義により,この左辺は
(x*x)*w=x*(x*w)=x*y
となる。
また,右辺は w の定義により y に等しい。
よって x*y=y が成り立つ。
上に注意したことにより,これによって x=y であることが示された。c.q.f.d.
さて,a*x=a を満たす x は単位元の候補であるが,それが a と可換であることを示そう。
【補題2】
G の任意の元 a に対し,a*x=a かつ y*a=a を満たす G の元 x,y について,x=y が成り立つ。
さらに,x は x*x=x を満たす。
《証明》
G の任意の元 a に対し,G の元 x,y はそれぞれ a*x=a および y*a=a を満たすとする。
条件2により,G の元 b で b*a=x を満たすものがあるから,a*x=a の両辺に b を左から作用させれば,条件1により
b*(a*x)=b*a,
(b*a)*x=x,
x*x=x
が成り立つ。
また,条件2により,G の元 c で a*c=y を満たすものがあるから,y*a=a の両辺に c を右から作用させれば,条件1により
(y*a)*c=a*c,
y*(a*c)=y,
y*y=y
が成り立つ。
よって,補題1により,x=y が成り立つ。c.q.f.d.
補題2により,a*x=a を満たす x は x*a=a をも満たすので,a と x は可換であることがわかる。
また,G の任意の2元 a と b につき,a*x=a および b*y=b を満たす G の元 x,y は,補題2によりいずれも x*x=x および y*y=y を満たすから,補題1により x=y であることが従う。
このことから,ある G の元 a に対して a*x=a を満たす G の元 x は,G の任意の元 b に対しても b*x=b を満たすことが言える。
条件1より,a*x=a を満たす x は一つしかない。これで単位元の一意性も示された。c.q.f.d.
う~む。さっき電車の中で考えていたのと,筋道がだいぶ違ってしまったが,ここに書いた証明の方がすっきりしているような気がする。
条件2はかなり強い条件なので,これをうまく利用すればややこしい議論は不要だということなのだろう。
また,補題1の証明はすぐに思い出せたので,簡単な方からとりあえず書いておこうと思って先に取り上げたのだが,思いがけず補題2の証明を簡素にするのに役立った。
こうやって証明をきちんと清書しようとして,当初より簡単な証明が得られるということは時々ある。
もっとも,そうではなくて,容易に乗り越えられない障害につきあたって,最初から考え直さなければならないことになることの方が多いのだけれど。
なお,任意の元 a に対して,a*x=x*a=e を満たす G の元(a の逆元)x がただ一つ存在するということもほぼ似たような議論で示せそうな気がする。
もちろん,単位元 e が一つしかないということがすでにわかっているという設定の下で考える。
条件2から,a*x=e を満たす x はひとつだけある。
このとき,
(x*a)*(x*a)=x*((a*x)*a)=x*(e*a)=x*a
であるから,補題1により,x*a=e であることがわかる。c.q.f.d.
おや,あっさり片付いてしまった。
なお,「呪い」というのは,「簡単に解けそうでいて,いざ考え始めるとなかなか解けず,いたずらに時間と労力を浪費させるパズル」という意味で使用している。
「呪い」という言葉はきつすぎるので,「宿題」くらいに言い換えた方が無難かな,と思う今日この頃である。
さて,特に次の問題の答えはその記事にもちゃんと書かなかったので,5分くらい考えても何のアイデアも出なかった:
集合 G は空集合ではないとする。
次の条件を満たす,直積 G×G から G への二項演算 * が定義されているものとする。
- * は結合律を満たす。すなわち,G の任意の元 a,b,c に対し,a*(b*c)=(a*b)*c が成り立つ。
- G の任意の元 a,b に対し,a*x=b かつ y*a=b を満たす G の元 x,y がそれぞれただ一つだけ存在する。
このとき,G のある元 e で,G の任意の元 a に対して a*e=e*a=a を満たすものがただ一つ存在する。
この e のことを単位元と呼ぶ。
演算 * が加法 + のときは e は 0 のことであり,* が乗法のときは e は 1 に相当する。
これの証明を再現できたので,忘れないうちに書いておくことにする。
手始めに e の一意性を示すのに役立つ次の補題を示そう。
【補題1】
G の元 x,y が x*x=x かつ y*y=y を満たすならば x=y である。
《証明》
G の元 x,y が x*x=x かつ y*y=y を満たすと仮定する。
このとき,条件2から z*y=y を満たす z は一つしかないので,仮定 y*y=y とあわせて z=y が言えることに注意する。
さて,条件2により,x*w=y を満たす G の元 w が存在するので,x*x=x の両辺に右から w を作用させれば
(x*x)*w=x*w を得る。
条件1および w の定義により,この左辺は
(x*x)*w=x*(x*w)=x*y
となる。
また,右辺は w の定義により y に等しい。
よって x*y=y が成り立つ。
上に注意したことにより,これによって x=y であることが示された。c.q.f.d.
さて,a*x=a を満たす x は単位元の候補であるが,それが a と可換であることを示そう。
【補題2】
G の任意の元 a に対し,a*x=a かつ y*a=a を満たす G の元 x,y について,x=y が成り立つ。
さらに,x は x*x=x を満たす。
《証明》
G の任意の元 a に対し,G の元 x,y はそれぞれ a*x=a および y*a=a を満たすとする。
条件2により,G の元 b で b*a=x を満たすものがあるから,a*x=a の両辺に b を左から作用させれば,条件1により
b*(a*x)=b*a,
(b*a)*x=x,
x*x=x
が成り立つ。
また,条件2により,G の元 c で a*c=y を満たすものがあるから,y*a=a の両辺に c を右から作用させれば,条件1により
(y*a)*c=a*c,
y*(a*c)=y,
y*y=y
が成り立つ。
よって,補題1により,x=y が成り立つ。c.q.f.d.
補題2により,a*x=a を満たす x は x*a=a をも満たすので,a と x は可換であることがわかる。
また,G の任意の2元 a と b につき,a*x=a および b*y=b を満たす G の元 x,y は,補題2によりいずれも x*x=x および y*y=y を満たすから,補題1により x=y であることが従う。
このことから,ある G の元 a に対して a*x=a を満たす G の元 x は,G の任意の元 b に対しても b*x=b を満たすことが言える。
条件1より,a*x=a を満たす x は一つしかない。これで単位元の一意性も示された。c.q.f.d.
う~む。さっき電車の中で考えていたのと,筋道がだいぶ違ってしまったが,ここに書いた証明の方がすっきりしているような気がする。
条件2はかなり強い条件なので,これをうまく利用すればややこしい議論は不要だということなのだろう。
また,補題1の証明はすぐに思い出せたので,簡単な方からとりあえず書いておこうと思って先に取り上げたのだが,思いがけず補題2の証明を簡素にするのに役立った。
こうやって証明をきちんと清書しようとして,当初より簡単な証明が得られるということは時々ある。
もっとも,そうではなくて,容易に乗り越えられない障害につきあたって,最初から考え直さなければならないことになることの方が多いのだけれど。
なお,任意の元 a に対して,a*x=x*a=e を満たす G の元(a の逆元)x がただ一つ存在するということもほぼ似たような議論で示せそうな気がする。
もちろん,単位元 e が一つしかないということがすでにわかっているという設定の下で考える。
条件2から,a*x=e を満たす x はひとつだけある。
このとき,
(x*a)*(x*a)=x*((a*x)*a)=x*(e*a)=x*a
であるから,補題1により,x*a=e であることがわかる。c.q.f.d.
おや,あっさり片付いてしまった。
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