未だ「インド映画は泥臭い」
「ハリウッドや日本と比べ映画後進国」
だと思っている一般映画ファンの固定概念を覆そうと密かに思っているHIMAGINE電影房が送る夏の一大イベント(あくまでもモニター上ですが)《大梵林映画祭》!!あっ、梵林 っていうのはねハリウッドが漢字表記で聖林と書かれるように(実際HOLLYWOODは柊の木という意味らしいのだが)、ボリウッドを勝手に漢字で当て字にしたものなのだ、全然一般的ではないが。
この集中連載では主に70~80年代の《古き良き》ボリウッド製娯楽映画を紹介しようと思っているのだが、今回はわざわざ《序章》と銘打って2007年に製作された話題作『Om Shanti Om』を扱いたいと思う。何故か?それはこの作品の舞台がヒンディー映画黄金時代の70年代だったからだ。
1977年のヒンディー映画界。一介のジュニア・アーティスト(エキストラ)のオーム・プラカーシュ(演:シャールク・カーン)は明日のスーパースターを目指して撮影所に足を運ぶ毎日。そんな彼の心の恋人はスター女優のシャンティー。巨大ボードビルに描かれた彼女を前に一人芝居を演じては悦に浸っていた。
そんなある日、シャンティーが出演する作品にエキストラで参加したオームは撮影中の事故で炎に囲まれてしまった彼女を命がけで助けたことから二人の関係は急接近していくのだが、実は彼女は大物プロデューサー・ムケーシュと極秘結婚しており彼の子まで身ごもっていたのだ。ムケーシュは大手スポンサーの娘との結婚話も進行中でありシャンティーの存在を疎ましく感じた彼は深夜、シャンティーを映画セットに招き火を放って彼女を殺すことに決めた。
燃えさかるスタジオ、シャンティーの絶望的な悲鳴。そこにちょうど居合わせたオームは彼女を救う為単身炎の中に飛び込むのだが、願いは叶わず大爆音とともにオームは撮影所の外まで吹き飛ばされ、ちょうど通りがかった映画スター・カプールの車に跳ねられてしまう。大急ぎで運ばれた大病院の集中治療室での治療の甲斐もなくオームは息絶えてしまうが、別の病室ではカプールの妻がちょうど新しい生命を授かったところであった…
それから30年後、カプール家の一人息子として生を受け今やスター街道驀進中のオーム・カプールはあの日同じ病院で死んだ同名のオームとそっくりの顔となっていた。本日の撮影はクライマックスのダンス・シーン、お抱えの美人ダンサーズと共にノリノリで撮影していたのだが、特殊効果の炎が彼の顔をかすめた時、何か得も知れぬ感覚が体を走った。
あれは一体なんだったのだろう?不思議な感覚に突き動かされるかのようにオームはあの大惨事のあった古い映画スタジオに足を運んでいた。そしてあの日シャンティーが殺されたセット跡にくると前世の記憶が一気に蘇ってきた。そう、オーム・カプールは同時刻にこの世を去ったオーム・プラカーシュの生まれ変わりだったのだ。そんなある日、ハリウッドで映画制作を行ったりして今や大物プロデューサーとなっていたムケーシュが30年ぶりにインドに帰ってくるというニュースが飛び込んできた。オームはあの日の復讐とシャンティーの弔い合戦のために行動に出た…
現在ではハリウッド調の大作や、ミュージカル・シーンなしの作品、1ジャンルの作品も頻繁に製作されているヒンディー映画。私自身もここ昨今の欧米並みに洗練されたテイストの作品を追っかけていたが、
やはりインド映画はこうでなくっちゃ!
と再認識した次第だ。3時間の夢を見る為に庶民は汗水流して働き、わずかな収入を映画のチケットに換えているんだもの、いろいろ見せ場があったほうが楽しいじゃない?恋愛あり、感動あり、ダンスあり、アクションありとこの作品もインド娯楽映画の定石を踏まえていて夢見心地のまま上映時間はあっという間に過ぎていく。これぞ娯楽映画の醍醐味である。
私自身インド映画は見ている割にはあまり詳しくないのだが、この作品には70~80年代のヒンディー映画のオマージュやそれを元にしたクスグリが入っているとの事。わかる人が観れば「あぁ~!」と思うらしいのだが、残念ながら全然判らんかった。『Sholay』のボードビルがあった所ぐらいかなぁ?判ったのは。
監督であるファラー・カーンはこれが劇場第2作目。彼女(なんと女性だったのだ!)は以前は映画のコレオグラファーをしていたそうで、なるほどダンスシーンがとても美しく、時にはカッコよく撮られている。
インド映画界におけるコレオグラファーの地位はとても高く、ダンスシーン全体(ダンス自体はもちろん、カット割や進行など)の責任を受け持つのだそうだ。香港映画でいうところの《武術指導》とよく似ている。それだからこそコアなファンがクンフー映画を観るときにユエン・ウーピンやチン・シウトンといった名前で映画を選ぶようにインドではコレオグラファーの名で映画を選ぶことがあるそうだ。
ヒンディー映画だけではなく、世の中の《映画》という存在を愛している人たちであればこの『Om Shanti Om』、絶対観てほしい一作である。ちなみにこのタイトルの意味は「幸せでありますように」との事である。
えぇ、十分に幸福感を味あわさせて頂きましたとも!!
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