次々と予想が外れ年の暮れ
畑したり、保存食つくったり、編み物したりの生活が楽しくて、新聞も本も読まなくなった。米国選挙もさほど関心なかった。夫に、トランプの当選どう思うと聞かれたとき「国民の大半がやけくそになってたんじゃないの。私だって、もしもよ、まじめに働いてたのに首きられ、家を売り払い、みじめな生活に落ちたら、それなのに金持ちはますます金持ちに、政府高官たちが公約も反故にし権力闘争に明け暮れ、いい思いしてたら、そりゃ、こんな体制ぶっこわれればいいとやけくそになり、エスタブリッシュメントをひっくり返すようなトランプにいれたかもよ」
いま、少し暇になりひさしぶりに新聞でも読もうかと目にしたのが「フランクフルト学派の目で見るトランプ選挙」という若い学者の分析。ざっと読み、考えさせられることがあり、たった1面ながら自分なりにすこしづつ読もう。
今回の選挙は1940年代におけるドイツのファシズム台頭を一般化した「サドマゾの図式」そのものだという。これが私の目をひいた。どういうことかというと、ファシズムは二つのポジションを採用するという。
一つ目はマゾヒストのポジション:
マゾヒストとは自分を犠牲者とみなし(私が不幸なのは社会のせいよ、体制のせいよということか)、一方で自分が従いたい強い指導者を望む。これは「自分自身であることから逃げ、自分で判断するという責任を放棄することである」と手厳しい。トランプはこの心理を巧みに利用し、とりわけ(RUST BELT)と呼ばれる貧困化がすすむブルーカラー層の心理を掴んだ。「君達の気持ちがよくわかるよ、俺が助けてやる」。「TRUST ME」というトランプの言葉に、「あなたを頼りにお任せします」と、すべての判断をトランプに任せた。
この部分を読みながら、人生で誰もがマゾ感情、すなわち「なぜ、こんな仕打ちに合うのか、私がなにをしたのだ」という悲劇のヒロイン感情を抱かない人間はいないと思う。それは憎悪、復讐、怨念の感情を生む。この感情は何も貧困層に限らない。讃岐に流された高貴な崇徳院でさえ宮廷を恨み呪ったではないか。自分の不幸を他者のせいにしてる人の何と多いことか。また、強力なリーダーを望むというとき、はたして明確なリーダー像をもっているのだろうか。トランプ当選は、むしろ現体制をひっくりかえせればなんでも良かったという風に思える。
ケベックでも耳にする転落した中産階級の人たちにとって、こういった状況で自分と向き合えとはどういうことなのだろう。何を考え、何を判断せよというのだろうか。自分の人生が組み込まれた社会システムから落ちこぼれた人間にどんな思索をせよというのだろう。スモールハウスブームはアメリカが発祥地で、いつ自分も犠牲者となるかもしれない新自由主義に夢を持てづに、体制をひっくり返すよりは、体制に背を向けた生き方もあると提示してるように思える。こういったほかにも何か希望のある世界観があるかもしれない。
さて、マゾ心理に思いを巡らしながら、マゾ心理は誰にもあるから、一度は自分自身のマゾと向き合ってみなと言われてるようだった。
二つ目はサデイストのポジション:
サデイストは他人を支配し、苦しむ姿をみることに快感を覚える。サデイストが生贄として選んだのはエリート、マイノリテイー、外国人そして移民。トランプははっきりと彼らを生贄として指した。
人間にはサデイストの感情もある。この年まで生きれば、相手をマニュピュレートし、思うとおりに操り、内心辱めたりして、ひそかにほくそ笑んでる人間がいると発見し「わー、ドラマにあることって現実にもあるんだ」と驚くことがある。サデイストの生贄の的にされたとき、どのように対応すればよいのか。ハンナアレントは、当時のナチス政権当時、抵抗しても勝てないと絶望し亡命を選んだ。私もサデイストな人からは逃げるがモットー。いや、なんにつけ私は逃げ猿だ、そのために美味しい餌にありつけなくてもよい
マゾはサドを求め、サドはマゾを求める。これがファシストの図式。男にいたぶられながらも自分が娼婦まで身を落とし殺されるまで男に貢いだ女の物語をいつも思い出す。その女にいくら男と離れるよう説得し、助けても女は暴力男のもとに戻った。この誰かを崇拝し死までを受け入れる人間の心理の解明なしに、また、相手の苦しみに快感を覚える心理の解明なしにこれからもファシズムは生まれると思う。
トランプの勝利を1930,1940年代のドイツの状況と似ているとよんだこの若い研究者がなぜトランプ勝利分析に興味を持ったかと言うと、ヒラリーの勝利が確信されていたのに(タイム誌もすでにヒラリー勝利後に発売する雑誌を用意していた)、何故、こうなったかと、メデイアとジャーナリストが確信して予見する未来図の失敗の原因を探りたかったから。メデイアとジャーナリストに大きな疑問を呈してるのがこの記事の特徴。
ケベックでも、当選確実と予見されたクルチエが敗北した。この若き研究者はいったい国民アンケートとかジャーナリストの分析ってなんなんだと問うている。
こんなことジョークにするのもなんだが、メキシコ人がこういった。
ー トランプもこれまでの政治家のようであってほしい。つまり、口だけで公約を守らないこと
ー 少なくともメキシコ、アメリカの国境に壁作るから、メキシコ人に仕事を与えてくれる。4年たったら別の大統領を選べばいいさ。
続く