あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

長田典子著「翅音(はねおと)」を読んで

2017-03-17 14:38:13 | Weblog


照る日曇る日第954回



2008年に砂子屋書房から出版されたこの詩集には、1997年から2006年までにさまざまな媒体に発表された11の詩篇が掲載されています。

本書の「あとがき」を読んだ私は、著者が1988年から1990年代の終わりまでの長い期間に亘って原因不明の難病に罹り、心因性の腹痛のために、仕事や日常生活に支障をきたし、多大な犠牲を払わざるを得なくなったことを知りました。

 「薔薇刑」という言葉が
  ふいに 掠めた     (「赤い花」より引用)


 こころや 身体や 自分という概念が
 宇宙よりも遠く
 ばらばらに ばらばらに
(中略)
 痛い、という真実だけがここにあって
 なにもかも
 理由もなく浮かんではすぐに消えていく気泡のよう (「すがた」より引用)

ものの本によれば、波羅蜜の彼岸に辿りつくまでには、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧. 布施の6つの修行が必要とされるそうだが、そういう意味では、本書は「痛みから生まれ、痛みと向き合ってきた」忍辱の詩篇といってよいだろう。

 「生きるんだよ
  長く 生きるんだよ」 (「迷路」より引用)

 そう念じつつ、そう記しつつ、ようやっと詩人は実り多き受難の川を渉り終えられたのではないだろうか。


べらなりてふ言葉を一度使ってみたかったべらなりべらなりも一度べらなり 蝶人


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