たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

研究会レポート

2008年12月08日 15時51分43秒 | 人間と動物
以下、科研費研究「人間と動物をめぐる比較民族誌研究」第1回研究会(2008.12.7.)(研究会の名前をつけていませんでした。関係者の方々、すみません。)の報告内容と総合討論の概略です(敬称略)。

http://blog.goo.ne.jp/katsumiokuno/d/20081003

【午前中】奥野(桜美林大学)は、「ボルネオ島のプナン社会における人間と動物」のなかで、ボルネオ島の狩猟民プナン社会における動物のカテゴリーや神話中の動物譚などに触れた上で、雷神の怒りとしての雷雨をめぐって組織される人間と動物の関係に言及し、今後、自然と社会との関係秩序という人間社会の問題構成へと投げ入れて考察することの重要性を説いた。続いて、野林(国立民族学博物館)は、台湾イノシシの民族考古学において、民族考古学の調査手法の有効性と限界を示した上で、今後検討すべき課題を提示し、台湾原住民のパイワンおよびツォウにおける民族考古学的調査によって得られた成果を明らかにするとともに、人間と動物の関係をめぐる今後の研究の可能性を明らかにした。さらに、西本 (京都大学東南アジア研究センター)は、「ラオス南部、カントゥ社会におけるスイギュウと人のかかわり」という題で口頭発表を行い、水牛が農耕民カントゥ社会においては役畜ではなく、儀礼的な財として所有されるものであることを示し、さまざまな社会活動のなかで水牛供犠が行われてきたが、近年の社会環境の変化によって、社会的宇宙論的な秩序の中心に置かれていた水牛の役割にも変化が生じてきていることを指摘した。

【午後】池田 (大阪大学)は、「マヤ人の病気観と動物」のなかで、疾病文明論を批判的に検討し、グアテマラ農耕民マム社会における動物利用や動物表象をめぐる調査研究を踏まえて、今後、人類史をベースにして、アメリカ先住民社会における人間と動物の関係を、医療的な課題のなかで検討していくことの重要性を指摘した。続いて、縄田 (総合地球環境学研究所)は、アフリカ乾燥熱帯沿岸域における人間・ヒトコブラクダ関係と家畜観」という題で口頭発表を行い、乾燥熱帯沿岸域のベジャの人びとが、ヒトコブラクダに乗って海を渡るというような興味深い民族誌事例を紹介しながら、人間がどのように海辺資源を利用しているのかについて報告した上で、人間と動物の関係を、資源利用の観点から考察することの重要性を示唆した。最後に、シンジルト (熊本大学)は、聖なる動物の生まれ方:新疆モンゴル地域における自然認識の一断面」と題する口頭発表のなかで、牧畜民社会において、種としての家畜ではなく個としての家畜に焦点を当てて、人びとが、(仏教的に)「命を解き放つ」という意味のセテルをどのように行い、「聖なる動物」を誕生させるのかに関して報告するとともに、その意味を読み解き、現代社会においてセテルという現象がどのように変化の過程にあるのかという点についても見通しを述べた。

その後、(のべ)13名の出席者によって、活発な議論が行われた。総合討論の要点は、以下のとおりである。【1】人間と動物をめぐる研究における動物の「属性」・・・動物の生物学的属性については、基本的なところを押さえておかなければならないだろう。交尾や出産の季節性は、気候帯によって違ってくる可能性がある。各自の民族誌的なデータには、どれだけの普遍性があるのだろうかという点にも自覚的でなければならない。さらには、人びとが、その社会において、どのように動物の属性を考えているのかという点も重要である。【2】家畜と野生動物について・・・口頭発表において、家畜の諸事例が取り上げられたが、それは、飼育するという実践に関わっている。飼育するということは、人間から動物への働きかけであり、それは、人間と動物の相互作用にも密接に関わっている。他方で、狩猟民では、野生動物が、人びとが向き合う主たる動物となり、飼育動物には特別の意味が与えられる。【3】動物が人間をどう見ているのかについて・・・主に、【2】の家畜化の問題とも関わるが、動物が人間をどのように見るのかという視点は大事である。人間からの動物への呼びかけ、掛け声は、動物を管理するものであるが、そのことによって、人間は、動物が人間をどう見ているのかを知っていることになる。【4】そのほか・・・アニマルライツの問題が、今後大きくなるのではないか。動物の所有に関して、放し飼いという形態は、所有と野生化の中間形態になっている。日本では屠畜を一定の層の人びとに押し付けてきた結果、現代において、動物の命に関して、アンバランスな問題を抱えているのではないか・・・などなどについて、意見情報交換がなされた。

ゲストスピーカーの野林さん、繩田さんには、大きな刺激を受けました。ご参加ありがとうございました。また、出席して議論に参加してくださったみなさま、たいへんありがとうございました。

(写真は、イノシシをかつぐプナン)

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