優れた総合力による演出・演技
先週6月15日の土曜夜、「西南学院大学演劇部」の「2013年・夏季定期公演」を観に行きました。「作品」は、鴻上尚史(こうかみ しょうじ)氏による『アンダー・ザ・ロウズ』(Under the Rose)。同氏は演劇に馴染みが薄い方にはピンと来ないかもしれませんが、プロの劇作家であり演出家です。
「演出」は山口大輔、「助演」は 渡邊桜美子、白石夏子、「舞台演出」は吉田瞭太の各氏。いずれも西南大生であり、山口、渡邊、吉田の3氏は2年生、白石氏は3年生。キャストも1、2年生が中心であり、舞台演出担当の吉田氏は「主人公」を演じてもいます。
上演時間はほぼ「2時間」。筆者にとっては久しぶりの長編でした。だが時間の長さを感じさせない“優れた総合力とチームワーク”による舞台でした。なによりも「丁寧で緻密な舞台演出」であり、また「演技・演出」でした。
この舞台の素晴らしさの「第1点」は、徹底した「顧客主義」すなわち“すべては観客のために”を貫いていたこと。「第2点」は、「演劇という表現形式」に対するきちんとした理解と深い愛情が、総ての「キャスト」および「スタッフ」に感じられたことでしょうか。
そのため、幕が閉じたとき、「芝居テーマの重さ」や「2時間という長時間」を感じさせない“爽やかさと優しさ”が観客の心に残ったようです。筆者個人の西南大演劇の体験履歴からしても、観客としてここまで満ち足りた気持ちになったことがあったでしょうか……。それほど素晴らしい、そして感動に満ちた舞台でした。筆者は感謝の気持ちで、観客を見送る学生たちの間を通り抜けました。
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ところで筆者は、「公演予定の作品」について、事前に「作品の狙い」や「あらすじ」をリサーチすることは絶対にしません。あくまでも主催者側が用意した「事前」の「案内ハガキ」や「リーフレット」、それに「当日」渡される「プログラム」からだけの情報に基づいて観ています。
「理由」は言うまでもなく、できるだけ“先入観”や“予備知識”に左右されることなく、眼の前で《演じられる(=演出される)》表現だけを頼りに「芝居」を楽しみたいからです。
そのため公演終了後は、「ネット」等で同じ作品の公演情報を検索し、作品のコンセプトやあらすじ、それに登場人物のプロフィール等を確認することがあります。そのことによって「作品そのもの」の理解が深まるとともに、観終わった「芝居」に対する「演出家」の「演出の妙」をもう一度味わうことができるからです。
そこに演劇鑑賞のもう一つの楽しみがあります。優れた演技や演出は、時間の経過とともに多少薄らぐことはあっても、決して消えることはありません。何かあるごとに甦り、演劇の素晴らしさを再認識させてくれるのです。
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さて、今回の芝居は「13人もの登場人物」に加え、「パラレルワールド」全開の場面転換が予想されました……。となれば、「時間と空間の移動」=「舞台の転換」が頻繁に行われ、「物語の展開が掴みにくい」芝居となるのは必定……と想われたのです。
そうなれば筆者は、現在連載中の「学生演劇の課題」の中で、いま観たばかりの「学生演劇」に文句の二つ三つ、いや四つ五つを付けざるをえない……半ばそう覚悟し、公演開始前に多少「身構え」てしまったようです。
しかし、実際はそうではありませんでした。その内容の詳細については、次回のこの「学生演劇の課題:番外編:2」の中で述べてみましょう。(続く)